ユリアの仕事
「メリー。ここの銀食器は磨いておくわね。」
ユリアはダイニングのテーブルに沢山の銀食器を出して、一心不乱に磨いている。
「うーん…もう少し。」
カフェをしていた頃から仕事が好きだったユリア。
その姿はまるで水を得た魚の様に生き生きしていた。
キッチンの方では、メイド達が集まってユリアの姿をひっそりと見ていた。
「奥様…銀食器磨いていらっしゃる?」
ユリアに聞こえないくらいの小声で話すメイド達。
「私は奥様の事好きよ。」
「私も!だってとっても優しいもの。」
若いメイド達はユリアのファンの様だ。
「気さくだし、偉そうにしないし。」
「働きやすいわよね。」
「奥様は庶民の出だから、私達の気持ちを考えてくださるのよ。」
メイド達はそれぞれ頷いていた。
「貴方達!何をやっているのです!」
そこにメリーがやって来た。
ユリアの事を話していたメイド達は、驚いて床に重なり合いながら転んでしまった。
「貴方達、油を売っている暇があったら、全員で窓拭きでもしていらっしゃい!」
「は、はいー!申し訳ございません!」
メイド達は一目散に仕事に向かった。
「もう本当に…。」
一方、ユリアの方はと言うと
沢山あった銀食器も残りわずかとなっていた。
「よし、あともう少しだわ。」
仕事を貰って嬉しいユリアは一生懸命に銀食器を磨く。
メリーはそんなユリアに話しかけた。
「奥様は、お仕事が早いですね。」
「そう?メリーにそう言ってもらえて嬉しいわ!」
ユリアの顔がパッと明るくなった。
「銀食器は磨かないと黒く変色してしまうのです。奥様が磨かれているこの銀食器は、およそ100年前の物なんですよ。」
「え!100年前!」
ユリアは手に持っているフォークをまじまじと見た。
持っているそのフォークは、とても100年前に作られた物には見えない。
「代々のメイド達が磨き続けているからこそ、この銀食器は今も輝くのです。」
「そうなのね…すごいわ。」
メリーはニッコリと頷いて言った。
「奥様、ありがとうございます。後は私がしまっておきますので。そろそろお着替えをしませんと。」
「え?もうそんな時間?」
「はい、旦那様がお帰りになる前に綺麗なワンピースにお着替えくださいませ。」
ユリアは、メイド達のお手伝いの為にカフェをしていた頃に着ていた仕事着に着替えていた。
さすがにこの格好でトーマスを出迎える訳にはいかない。
「わかったわ。じゃあ、後はお願いするわね!」
ユリアは銀食器をメリーに渡すと、寝室に急いで向かった。
トーマスとユリアの寝室には、クローゼットが2つある。
1つはトーマスの物。
もう1つはユリアの物だった。
結婚してこのお屋敷に住む事が決まった後、義理の両親がわざわざ隣の部屋を潰してリフォームしてくれたのだった。
そのおかげで、ユリアのクローゼットの中は
ドレッサーや姿見まで置ける程の広さだ。
その中から、シンプルなワンピースを取り
テキパキと着替えるユリア。
髪を整えて、お化粧も少し直してから階下に降りていった。
ユリアが階段から降りている時、ちょうどトーマスが帰宅した所だった。