仕事がしたい
トーマスを見送ったユリアは、寝室に向かう。
先ほど、トーマスのカフスボタンを探す時に色々な物を出したままにしていたのだった。
「さてと、ちょっと片付けますか。」
ユリアが腕まくりをした時、寝室にメイド長のメリーが入って来た。
「奥様!」
「どうしたの?メリー。」
メリーはユリアを見てため息をついた。
「奥様…そういう事はメイドに言ってくださいませ。奥様自らやらなくても良いんですから。」
「ダメよ!わたしが散らかしたんだから。それに私だって何かやらなきゃ!」
「奥様…」
ユリアはニッコリ笑うと、メリーに手招きして言った。
「メリー。一緒にやりましょう?」
メリーはユリアの側へ行き、2人で一緒に片付けを始めた。
その日の午後、ユリアはメリーと一緒に庭に出ていた。
メリーはメイドの中でも長くクリムト家に勤めていて、メイドを取りまとめる立場である。
そのメリーからユリアに話があると言うのだ。
「それて、どんなお話?」
メリーはひと呼吸ついて、話し始めた。
「奥様…私どもメイドは旦那様と奥様が日々滞りなくお過ごしになれる様にお勤めする立場でございます。」
「ええ!とってもありがたいと思っています。」
メリーは軽くお辞儀をした。
「ありがとうございます。しかし、奥様。奥様はこのお屋敷の主のお一人でございます。ですので、屋敷の片付けやその他の仕事はお控えくださいませ。」
ユリアは困った顔をしていた。
「差し出がましい事を申しまして、申し訳ございません。」
「いいえ!メリーの言う事も分かりますから。でも、メリーも知っている通り私は庶民だったの。私は何もしないで暮らして行く事は出来ないわ。」
「はい。それは承知しておりますが…」
「では、こうしましょう?私はあくまでもみんなのお手伝いという事で。トーマス様が帰ってくるまではいいでしょ?」
「ですが…」
「何もしないでいたら身体が鈍っちゃうわ。」
メリーはどう答えていいのか分からなかった。
そこに執事長のローマンがやって来た。
「失礼いたします。申し訳ありません、偶然お2人のお話が聞こえてまいりまして。」
「いいんですよ。ローマンさん、どう思いますか?トーマス様が帰ってくるまでは、みなさんのお手伝いをしてもいいでしょう?」
ローマンはしばらく考えてから答えた。
「そうですね…まぁ、大賛成という訳ではありませんが少しなら良いのではないでしょうか?」
「ローマンさん!ありがとうございます!」
ユリアはニッコリ微笑んだ。
「しかし!」
ローマンが話に付け加えた。
「しかし、この様な事はあまり他に知られるといけませんからね。このお屋敷の中だけの事としてくださいますように。それから、旦那様にはきちんとお話くださいませ。」
「はい!分かりました!」
ユリアは少しでもみんなと仕事が出来る事が嬉しかった。
今までカフェで毎日忙しくしていたユリアだったので、カフェを閉めたままにしている今、身体が鈍って仕方なかったのだ。
「ローマンさん、メリー。よろしくお願いします。」
ユリアは2人に頭を下げた。
「奥様!私どもに頭を下げないでくださいませ!」
「で、でもぉ。」
ローマンは2人を見て苦笑いをした。
奥様は、いい方過ぎるな…
これは私達がお助けしなければ…
ローマンは何事も頑張るユリアの姿を見て
少し心配になっていた。