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【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
first season
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「そういえば、お兄さんの名前聞いてないね」

「そういえば、お兄さんの名前聞いてないね」


 契約が成立して翌日、アルバイトが休みだったので、昼間にお兄さんの日用品を買いに近くのショッピングモールへとやってきた。

 太陽がダメなお兄さんは、フードを被って家にあった黒のマスクを着け、手袋で露出はない。傍から見れば不審者丸出しだけど、隣を歩く私が気にしてないなら、たぶん誰も気にしない。

 私の住んでる糸蔡しさい市は東側は飲み屋さんやカラオケ店やゲームセンターなんかの娯楽施設が連なってる商店街、西側がショッピングモールとちょっとおしゃれな飲食店がある。ちなみにアニメのショップも西側にあったりする。

 冒頭のセリフはショッピングモールの中にある、良心的なお値段の服屋を巡りながらの発言だった。

 

「お前の名前も聞いてないぞ」

「あれそうだっけ?」


 「お兄さん」と私が呼んで、「お嬢さん」もしくは「お前」とお兄さんが呼ぶ。二日間くらいしか一緒にいないけど、それが定着してしまった気がする。名前を聞いてないなと思ったのは、「同居するのに名前を知らないのはどうなんだ」と思ってしまったから。


「じゃあ、ご飯食べながら自己紹介しようか」

「そうだな」


 そんなわけで、それまで選んでいたお兄さんの服をレジに通してから、ファーストフード店に移動した。

 お兄さんは吸血鬼だけど、人間の食べ物も食べるらしい。主食はあくまで血だから、おやつ感覚なのだそう。


「改めて、人吉みな美。23歳、ご想像の通り独身のフリーター。カラオケ店でアルバイトしてまーす」


 言い終わってからコーラをストローから飲む。

 甘いコーラおいしい。

 次はお兄さんの番。


「名前はアーサー」

「アーサー!?」


 つい遮ってしまった。

 「アーサー」は例の私がイギリス好きになったきっかけのアニメキャラクターの名前だ。つまりまぁ、私のテンションはとても上がる。イギリスのイングランド出身で、名前はアーサー。完璧かこの吸血鬼。


「なんだ」

「ごめん、好きなキャラの名前だった」

「ああ、なるほど」


 納得してくれるのか。優しいな。


「続けるぞ。苗字は特にない。スミス、ウィリアムス、ブラウン。そんなところだ」


 全部イギリスのよくある苗字ランキングで上位にランクインしてる奴だ。

 偽名ということがよくわかる。


「家族構成は吸血鬼の両親。イギリス出身はもう話したな。両親が死んでからイギリスを一周して、フランスにも行って、フランスの眷属に日本の食事がおいしいと聞いて日本に来た。しばらく東京うろうろしたり千葉うろうろしたりしたりした」


 しかも徒歩でらしい。吸血鬼は大体疲れを知らないようで、何キロ歩いても問題ないそうだ。さすがに海を渡るのに飛行機は使ったらしいけど。


「料理とマッサージの腕はなんで?」

「田舎もうろうろしてたからな。農業手伝って、疲れてる爺さんたちの肩だの腰だのマッサージして、婆さんたちと料理作ってたりしたら自然に身についた」

「吸血鬼暇か」

「暇なんだなこれが」


 まぁ、何年も生きてたらそうですよね。

 お金は稼ぐ必要もなかったので、アルバイトの経験もない。というか戸籍がそもそもないらしいのでアルバイトができるわけがない。

 

「血は?」

「若い女の子から頂いてた」


 吸われた記憶は催眠術で消していたらしい。でも噛み後は残るのだからそれはどうしていたのだろう。でも何かに噛まれた記憶もないのだから「何なんだろう?」で済むのだろうか。なかなか奇妙だけど皆不思議に思わなかったのかな?


「思わなかったらしいな」

「実はお兄さんバレてたんじゃないの?」

「危なかったときは記憶を消しているが、それ以外はもしかしたら行き着いた人間はいるかもな」

「お兄さん探されてたりしない?」

「しても別にいい。ほかの県にさっさと逃げてると思ってるだろう」

「そう」


 いつか、お兄さんを見世物にしようとする人間とかそういうのが来ないことを祈りつつ、私たちは食事を済ませる。


「後何かいる?」

「特にない。何かあったらまた言う」

「了解、じゃあご飯の買い物をして帰ろう」


 と思ったけれど私が、先日発売された漫画の新刊を買っていないことを思い出し、アニメショップへと足早と向かったのだった。  

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