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【本編】お疲れ様、いただきます【完結】  作者: 山西音桜
first season
13/74

「彼氏ではないよ、同居はしてるけど」

「みな美さん! 同棲してる彼氏がいてしかも金髪イケメンって本当ですか!?」


 出勤のタイムカードを切るや否や、フロントで接客中だった紗姫ちゃんは興奮したように、ツインテールを揺らして私に尋ねてきた。


「おはよう紗姫さきちゃん。情報早いね」


 私がいつもの出勤より早い時間。夕方くらいに出勤すると大抵彼女はいる。

 おそらく私と服の交換ができるであろう女子高生、如月きさらぎ紗姫ちゃんだ。

 髪はいつもツインテールで、一瞬中学生に見紛うような童顔の大変可愛らしい女の子。

その可愛らしさで少しお高めの料金プランをおすすめするちょっと小悪魔なところがある。


「上野さんと春野さんが言ってたんです!」


 おい「野」付きコンビなんてこと言ってくれてるんだ。いやこの職場に面白そうな話のネタを振ってしまったのは私か。

 本当なのかどうかを尋ねてくる紗姫ちゃん。上目遣いを使ってくるが、計算でやっているのかどうかは、誰にもわからない。深夜帯に勤務しているメンバーは「絶対計算」って言ってるけど。


「彼氏ではないよ。同居はしてるけど」

「彼氏でもないのに、同居ですか!?」


 さすがみな美さん大人ですね! って紗姫ちゃんが興奮したところでお客さんが来たらしい。誰かが出入り口付近を通ると鳴る電子音が、厨房内に響いた。

何が流石なんだろう?


「ああー、いいとこなのに!」

 

 文句を言いながら、紗姫ちゃんはフロントへと走った。

 といっても厨房とフロントは壁一枚隔てているだけなので、走るといってもほんの数歩だけど。


「3階、セット完了です」

「お疲れ様です」


 グラスで一杯になったトレイを持って、紗姫ちゃんが出ていった入り口から入ってきたのは宵風灯名子さんだった。

 朝から夕方にかけての時間帯、通称昼勤に出勤することの多いアルバイトチーフさん。昼勤の女王とかそんなことを言われていたりする。私よりも背が高くて大人っぽいけど、実は私より年下の18歳。高校の時から働いていて、下の兄弟の為に大学に行かずここで働いている。しっかりしたお嬢さんだ。



「あ、人吉さん。おはようございます」

「おはようございます」


 よいしょ、っとトレイ置きに使われている二段重ねたビール樽の上にトレイを置く。私も仕事の準備をと、掃除用のダスターを籠から取り出して、洗剤を吹きかける。


「みな美さん続き!」


 どうやら受付を終えたらしい紗姫ちゃんに尋ねられる。


「紗姫。そっとして置いたら?」


 宵風さんにまで情報が回ってるとは恐れ入った。

 上野さんたちから回ったのだろう。責任者同士話す機会は多いのだし。この職場にプライバシーは自分が話す限りは筒抜けになるとは思っていたけど、ここまでとは。


「だって! 気になるんですよ! 紗姫めちゃめちゃ気になるんです!」


 大事なことなので二回言ったらしい。

 観念した私は紗姫ちゃんに金髪のイケメンがどうして家にいるのか、有村さんたちと同じ説明を、そしてイケメンとどういう関係か、どういう風に知り合ったかは蛍ちゃんたちと同じように説明した。


「ほんとに大丈夫なんですかそれ?」


 宵風さんが本当に心配そうに聞いてくる。

 男性を家に住まわせて、しかも何も起こらないなんて二次元だけの世界だとは思ってるけど、でもお互いにそんな気はないし。


「上野さんたちにも言いましたけど、何ともないです。ごはんおいしいですよ」

「みな美さん! 男はおーかみなんですよ! 危機感がないです!」

「そうですよ」

「とはいえ、行くところがないと言われたので」

「人吉さんはお人よしにも程があります」


 自分の身を少しは案じてください。

 ぴしゃり、と宵風さんに言われてしまった。年下にこんなに説教をされるなんて思ってもみなかった。

 アーサー君を放っておけなかったのは本当で、吸血鬼に対して好奇心が働いたというのもある。それでも住まわせるのはやり過ぎだっただろうか。


 でも、今。アーサー君に居なくなられると困るのも事実。

 アーサー君が彼氏になってくれれば、皆問題視しなくなるのかな。それもどうなんだろう。


 最低なことを考えた私の頭をガシガシと掻いて、私はダスターに洗剤を吹きかけた。

 

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