なろう馬鹿にしてたら酷い目にあった件
「あーまた異世界モノかよ」
パソコンと対峙しながら、愚痴を溢す。
パソコンの画面に映し出されているのは、素人小説投稿サイト『小説家になろう』
通称なろう。
あらゆる小説投稿サイトの中で最も規模が大きく、投稿した小説がこのサイト内で人気になれば、出版社からも声が掛かる。中には余りの人気ぶりに、書籍化どころかアニメ化まで成し遂げてしまう作品まであり、プロ作家の最短ルートとも言われる程だ。
今、もっともアツいッ! と言われていた超人気サイトであった。
そう、数年前までは。
そんなサイトも、今ではオタクどもの妄想オナニー小説――もとい、異世界テンプレ作品で溢れかえっている。
「気持ち悪ぃ」
そう吐き捨ててから、キーボードをカチャカチャと打鍵する。
今行っているのはレビューの作業。
他の読者が同じ轍を踏まぬよう、「これは駄作です!」と事前に忠告するものだ。
面白い作品であることを他の読者に伝える為の機能、と勘違いしている人も多いが、低評価をつけるのが本来の正しい使い方である。
勿論、作者に向けて感想を送るのも忘れない。
散々な罵倒によって作者の創作意欲を削ぐのも、大事なことである。
特に初めて感想を貰うような底辺作者であれば、「おおっ、感想が来てる……!」という糠喜びが入るぶん、ダメージはより大きくなるのだ。
読者に向けたレビュー欄。
作者に向けた感想欄。
これらを上手く使い分けることで、より効果的に――
「プッツン……」
唐突にパソコンの画面が暗転する。
「ふぁっ!?」
いきなりの出来事に困惑する。
焦って色々弄ってみるも反応なし。
ウイルスにでも感染したのか?
だとしたら昨日のエロサイトが原因?
We have a gift for you ってか?
「簡単なことですよ。コンセントから電源プラグを抜いたまでです」
背後から掛けられる声に、俺は思わずビクリとする。
話し掛けられるまでコイツの気配に全く気付けなかったのだ。
いや、それよりも……
「誰だお前? そんな革命的発想を思い付くなんて只者じゃねえな?」
俺の問いかけに、そいつは屈託のない笑みを浮かべる。
「どこにでもいるごく普通の高校生ですよ」
答えを聞いた瞬間、驚愕のあまり俺は椅子から転げ落ちてしまった。
「な、なに~!? 高校生、だと……?」
この国の国民は教育を受けることが義務付けられている。
それも9年という長期間だ。
ただひたすらに毎日勉学に励む苦行。
沢山の文章を読まされ、複雑な計算を解かされ、国の成立過程を覚えさせられ……。
その苦行も、中学校を卒業すれば解き放たれる事ができる。
にも拘わらず、こいつは高校に進学することを選んだのだ!
「教育の義務を終えてなお、勉学に従事するというのか……!」
単に苦行が3年延長されると考えるのは甘い。
その質も量も義務教育のそれとは別物だからだ。
だと言うのに……
「話は聞いているよ。君、『なろうスレイヤー』なんだろ?」
「……なんだ、バレていたのか」
俺は深くため息をつく。
奴がどこまで知っているのか。
下手すると組織の存在も知っている可能性がある。
そうだとしたらかなりの強敵だ。
「他人様が時間を掛けて書いた小説。それを『つまらない』と文句を付け、罵声を浴びせる……」
「だったら何だ? つまらない作品につまらないと文句をつけるのは、読者の権利だろ?」
「黙れ(ドン」
なんとドス黒い殺気……!
突如として激昂する敵に警戒しつつ、俺は机に立てかけてあった――戦槌『蟲業への鉄槌』――にサッと手を伸ばす。
しかしそれよりも早く敵は動き出した!
緑色のドカーーン!!
「くっ……! 何だ今の魔法の威力は……おかしいだろ」
「それは弱すぎって意味だよな?」
クソッ、なんて強さだ!
迂闊に関わると組織全滅の危機もある!
今ここで滅ぼさなければ……!
キンキンキンキンキンキン――。
「『勝利の炎』」
「あー、痛い」
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ――。
「……ふぅ、片付いたな」
「さすがはお兄様ですの」
「なんだ、お前も来ていたのか。帰るぞ」
「承知しましたですの」
「『闊歩する罵詈雑言の使い手』がやられたようだな…」
「フフフ…奴は『なろうスレイヤー四君子』の中でも最弱…」
「『なろうを国民から守る党』如きにやられるとは『なろうから国民を守る党』のツラ汚しよ…」