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日常と非日常の境界線 ~闇と戦う少年の物語~  作者: ナル
第1章 学校の怪談編
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第8話~デートをしましょう~

「デートをしましょう」


 伏見との話の後、旧校舎の屋上に来ると今日もやはり日和がそこにいた。

いつもの流れでどちらともなく昼食を取り始め、いつも通りに漫才のような会話をし、食べ終わりまったりしていたところ、日和が何の脈絡もなくそんなことを言い始める。


「いってらっしゃい」


 とりあえず返事だけは返しておくことにする。

 この一か月で学んだことだが、暴言に対してはほとんど怒らないというか、それ以上の毒で返してくる日和だが、無視することに関してだけはひどく怒るのだ。

 怒ると言っても怒鳴ってくるとか叩いてくるとか、涙をためて旧校舎から去っていくとかそういったものではない。そういった怒り方の方がむしろ百倍ましだったかもしれない。というか最後のは一度やってもらいたいかもしれないな。  

 話を戻すが、その怒り方なのだがたちが悪いの一言に尽きる。

 以前あまりにも日和のマシンガントークが止まらずに返事をするのが億劫になり、無視をしたことがあるのだが、それはもうひどかった。

 俺が無視をし、返事が返ってこないと感じるやいなやのことだ。


「そうですかー。千種さんは私とのおしゃべりは好きじゃなかったみたいですねー。では私は今から独り言を言いますので、千種さんはそのまま屋上の床と同化して置物にでもなっていてくださいねー」


 人のことを屋上のオブジェ扱いしたかと思うと、ポケットの中から取り出した手帳を読み始める。


「今朝の千種さんはどうやら寝坊をしたらしく、家から急いで走り出したところでこけました。偶然近くを歩いていたOLさんにそれを目撃されて笑われていました」


 まるで小学生の日記を読んでいるかのような日和。だがしかし、ちょっと待てよ。


「昨日のバイト終了後、小腹が減ったのかコンビニに寄った千種さんは、どうやらピザまんを買うつもりだったようです。しかし店員さんが間違えてカレーまんを渡してしまったようでした。コンビニを出ていよいよ食べようとしそれに気づいた千種さんは、ひどくがっかりし、加えてちょうど通りかかった野良猫にカレーまんを盗られるという漫画さながらのファインプレーをみせていました」


「なんでお前がそんなことを知っている……」


 どちらもちょっとした日常の小さい小話であるが、あまり人に知られて面白いことではない。というよりもそれらをなぜ日和が知っているのか、それが大きな問題だ。


「乙女の妄想日記ですので千種さんはお気になさらないでください。それとオブジェはしゃべってはだめですよー」


 そう言いつつなおも日記の続きを読もうとする日和。

 これ以上はダメな気がする。このまましゃべらせていては絶対にいいことは起こらない。そう俺の中で警鐘が鳴り響く。


「一昨日の千種さんは「無視して悪かった。明日の昼に飲み物買ってやるからそれでチャラにしてくれ」


「あらー、日記を読んでいただけで飲み物おごっていただけるなんて今日はとってもいい日ですねー。千種さんも乙女の日記の内容を一部ですが聞けたことですし、まさしくウィンウィンってやつです」


 この悪魔め。

 にこにこ笑っている日和を見つつ、こいつの話を無視するのは金輪際やめようと、そう心に決めたのだった。なぜ俺の失敗エピソードを知っているのかなどの疑問は気づかなかったふりをすることにする。

 今後、もう少し周囲に警戒を向けることにしよう。意味があるかどうかはわからないけどな。

 

 そんなことがあってから、日和の話を無視だけはしないようにしている。返事の質がだいぶ雑なのはご愛敬ではあるが、どうやらしっかり返事を返している分には大丈夫なようなので、今日も日和の話に適当に相槌を打つ。


「なんですかその適当な感じはー。可愛い後輩がデートのお誘いをしてるんですよー。もうちょっとこう、男子高校生らしいフレッシュなリアクションを示してくれてもいいんじゃないですかー」


 しかし、どうやら今日に関してはその適当さが不満だったらしい。口をとがらせこれでもかと言わんばかりの不満顔をしている……つもりなのだろう。実際のところ子どもが精一杯拗ねているアピールしたような顔である。後が怖いので口が裂けてもそんなことは言わないがな。言ったら最後、再びあの日記帳がお目見えしてしまうかもしれない。


「デートですよデート!放課後デートですよー。青春の代名詞みたいなものじゃないですかー。愛し合うカップルがはにかみながらも手をつなぎ、カフェでお茶しながら他愛のないことを話しながら微笑みあう。帰る時間になってもまだ離れたくない気持ちが募り、ついには口づけを交わしてしまう、あのデートですよー」


 やけに設定が具体的だ。

 ふと視線をそう熱弁している日和から外すと、食べ終わった弁当箱をしまうために開けていたかばんの中に、最近巷で流行しているらしい少女漫画が目に入った。

 なるほど、どうやらこれの影響らしい。


「デートの意味合いぐらい俺でも知ってるからそう大きな声を出すなよ」


 その漫画に触発されたのは火を見るより明らかだが、だからと言ってそれに俺が付き合う義理はない。

 そもそもにしてデートの意味合いをこいつははき違えてはいないだろうか。


「お前さぁ、自分でも言ってたけどデートは好きな奴同士、そこまではいかなくても好意がある奴同士でするものだろ。その二人がするからデートなのであって、俺とお前でしてもそれはデートにはならないんじゃないか?」


 俺と日和がしたのではただの下校か、よくて寄り道程度だ。日和の憧れとは程遠いものにしかならない。そういうことはしかるべき人ができた時にすればいいのだ。何も焦って、たまたま目の前にいる奴とする必要などない。

 そう考える自分の考え方が古いと思わないわけでもないが、都合の悪いことを考える必要はない。そんな考えはゴミ箱行きでいいのである。


「考え方が昭和ですねー。だから千種さんはもてないんですよー」


 たった今ゴミ箱に入れたものをもう一度目の前に持ってこられた。結果の悪かった答案用紙を、隠していた場所から発見された気持ちはこんな感じなのだろうか。


「確かに千種さんのいうことももっともです。私の初めてのデートが千種さんというのは、五年後の自分から痛く叱責を受けてしまいそうな気がします」


 少しを言葉をオブラート包むことが出来ないのだろうかこの女は。

 少しも悪びれる様子のない日和を半目で睨んでみるが、本人はどこ吹く風である。


「ですが私にも譲れないところがあるのです。本当はしたくはありませんが、千種さんが乗り気でないのであれば致し方ありませんねー」


 そういうと自身の上着のポケットに手を入れる日和。そして、その手がポケットに入った時にはなかったものを持って再び出てくる。例の手帳を持って。


「日和さん、本日の放課後、よければ一緒に帰りませんか」


 もはや問答は無用だった。今のところ俺はあの手帳をどうにかする手段はないのだから。

 その言葉に満足したのか手帳は再びポケットに戻された。

 ちくしょう。いつか仕返ししてやるから覚えてやがれ。

 そんな負け犬の遠吠えでしかないことを心で叫んでみたが、結局、本日の俺の放課後の予定はこうして決定されたのだった。

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