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日常と非日常の境界線 ~闇と戦う少年の物語~  作者: ナル
第1章 学校の怪談編
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第7話~行方不明~

 翌日も日和はやってきた。

 昨日の今日でどの面下げてやってきたのかと思ったが、日和はいたって普通だったのだ。昨日の話を欠片も持ち出すことはなく、あの威圧するような雰囲気を出すこともなかった。

 この秘密の場所は日和に知られてしまったため、今日は旧校舎での食事はやめようかとも思ったが、教室にいるのがどうにも落ち着かなかった。悩んだ末に結局ここで昼食をとることにしたのだが、食べ始めてから五分程経った頃に日和が現れたのだ。


「千種さーん、一緒にお昼食べませんかー。後輩の女の子と一緒に人気のないところでお昼を食べれるなんて、千種さんは幸せ者ですねー」


 相変わらずのふざけた言い回し。昨日の言動の後でのこの態度は賞賛に値するのではなかろうか。ここまでの切り替えの仕方を見せられると、昨日の出来事は夢だったのではないかと思ってしまう。

どちらにせよ日和の方からその話をしないのであれば、こちらからする理由は何もない。それに昨日のようなことがないのなら、騒がしくはあるが少しだけ、ほんの少しだけ楽しい昼飯になる気がしていた。


「千種さん、なんだか気味悪い顔してますよー。あ、気のせいでした。気味が悪いのはもとからでした」


……やっぱり今のは無しだ。


 次の日も、また次の日も、昼休みの旧校舎に日和は現れた。

 不思議なことに俺もそれを拒否することはしなかった。昼飯を食べながら他愛のない話、七割がたは日和が話していたが、をしているだけ。自分自身そんな時間を過ごすのが楽しいと感じるのをうすうす自覚していた。誰かと一緒に過ごすことが久しぶりだったからかもしれないし、日和でなくてもそういう関係を気づければ誰でもよかったのかしれない。

 今の気持ちに理由をつけるのは簡単だが、別に必要もないだろう。

 ただ楽しい。今はそれだけでよかった。


 そんな日和との昼飯が一月も続いたころだろうか。初日の話もそれ以降は出ず、そんなこともあったかもな、なんてくらいに思うようになっていた。

 以前は週のうち二日ほどは教室で昼食をとっていたのだが、最近は特別なことがない限り旧校舎に向かうようにしている。

 勝手に来ているのはあいつの方なので構わないはずなのだが、俺が行かないことで日和をあの場で一人で過ごさせることが引っかかってしまうのだ。

きょろきょろと辺りを見渡し俺がいないことを確認する。しばらくそこで待っていたが、もそもそと弁当を食べ、その間も辺りをきょろきょろする。昼休み終了のチャイムがなるまでの間、ずっと手持無沙汰に不満顔を作ってそこから去っていく。

 そんな光景を想像してしまうと行かないわけにはいかなくなるのだ。果たしてあいつがそんな殊勝な態度をとるのかが甚だ疑問ではあるが、考えてしまうのだから仕方がないのである。

 カバンの中から昼飯の入った袋を引っ張り出し、席を立つ。


「今日もどっか行くのか」


 教室の扉をくぐろうとしたタイミングで、逆に入ろうとしていた伏見がそう声をかけてくる。


「毎日毎日どこで飯食ってんだお前。食堂でも中庭でも食っているとこみたことないぞ」


 詮索するような目でこちらを見てくる伏見。


「別にどこでもいいだろ?」


 なるべく視線を切ることなくそう答える。

 伏見がこう聞いてくるということは、旧校舎のことは誰にも知られていないだろう。その交友関係の広さからこいつの情報網は半端ではない。学校で起きている話題ならなんでも知っているのではと疑うほどの情報を持っているからだ。


「まさか便所飯じゃないよな。やめてくれよ。個室トイレに入ろうとしたら千種とばったりなんてそんな気まずい展開は望んじゃいないぜ」


「誰がそんなことするかよ」


 数年前から出てきたワード。クラスに馴染めず一人で昼食をとるものの最終地点というか極地。友人と呼べる人もおらず、入学から二年たった今でもクラスに馴染めていない自分が行きついても仕方ないかもしれないが、現状そこには至ってはいない。というよりも俺にもなけなしのプライドはある。それをやるくらいなら一人で周りの視線を浴びながらでも教室で食べたほうがいくらかましというものだ。


「ま、いいけどな」


 俺に対して興味がなくなったのか、そう言うと伏見は教室の中へ入っていく。この会話もいつも通りの気まぐれだろう。


「そういえばさ」


 俺もまた教室から離れようとしたところで、再度伏見に呼び止められた。


「なんでも一か月前くらいから警備員が一人行方不明らしいぜ」


 そういえばそんな話を聞いた気がする。聞いたというかクラスの連中が話しているのをたまたま聞いたのだ。


「最初は失踪ってことで、特に誰も大きくみてなかったらしいけどな。よくよく調べてみたら、その警備員、いなくなった後にもスケジュールしっかり入れてたみたいでさ、人柄もよくて嫌われるような性格でもなかったらしいし、失踪する理由が見当たらないんだと」


 嫌な笑みを浮かべながらそう話す伏見。

 それは確かに妙ではある。普通の人間であれば自分の意志で行方を眩ますと決めているなら、その後に予定を入れるようなことはしないだろう。もちろんカムフラージュという線もあるが、多少なりとも相手のことを考えればすべきではない。

 そこにどうしても譲れない理由があるのなら話は別であるが。


「今も警察が目撃情報なんかを頼りに探してるらしいけど、手掛かりのひとつも出てこないらしくて捜査は難航中なんだと」


 どうして警察の情報まで持っているのかとかは、もう聞かない方がいいだろう。こいつの情報網はほんとに人並み外れている。それはもはやいち学生から逸脱していると言っても差支えないほどに。

 しかしそれとは別に気になることがある。


「それをなんで俺に言うんだ?」


 その話を俺にする理由は特にないだろう。

 暇つぶしのひとつと捉えてもいいが、一度会話が終了したタイミングでわざわざ持ち出す必要は感じられない。何よりこの話は警察の捜査状況のような要素まで入っている。伏見が信頼している相手ならともかく、俺に話す必要性など皆無なのだ。

 そう問うと伏見はその口元にさらに笑みを浮かべる。なんとなくだが嫌な予感がする。


「その警備員が最後にいたと思われる場所に、夜の見回りに使うための懐中電灯が落ちてたんだと」


 浮かべた笑みを深め、伏見が続ける。

 落ちていた場所。俺にわざわざ話す理由。おい、まさか。


「懐中電灯が転がってた場所なんだけどさ、なんでも旧校舎だったらしいぞ。普通は誰も行く場所じゃないし関係ないと思うけど、千種には伝えておいたほうがいいと思ったんだよな」


 そう言い残すと今度こそ伏見は教室の中へと入っていた。


 やっぱりばれてんじゃねぇか。


 数分前のほっとした自分の頭を殴ってやりたい。

 伏見に負けた気がして、今日は旧校舎に行くのをやめようかとも思ったが、そうすれば日和が一人になる可能性を思い出し、結局俺は旧校舎に向かうことにしたのだった。

 伏見の情報網には本当に気を付けよう。気を付けてどうにかなる問題じゃない気もするけれど。


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