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日常と非日常の境界線 ~闇と戦う少年の物語~  作者: ナル
第1章 学校の怪談編
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第39話~推理と結論~

 いつもと同じ家の中の定位置であるリビングのソファに座り、深く一呼吸をすると意識を沈める。

最近では日和と夜学校にいたこともあり、これをすることも少なくなっていた。それでも何かを考えるときにはやはりこれが一番だ。


 目を瞑り深く深くへと潜る。俺が考えるに集中とは、意識を深い海の底へと沈めていく作業に似ていると思う。

 潜れば潜るだけ一つのことへの集中力が高まっていき、そしてそれについてより考察できるようになる。裏を返せばその一つにしか集中できないという欠点もあるため、周りへの注意力が極端に落ちてしまうのが難点ではあるが、ここは自宅であるのだから、それらへの余計な心配は無用だ。


 意識を沈めながら考える。


 そもそも今回の一連の騒動はどこから始まったのだろう。今まで俺が得ている情報を時系列順に並べるところからまずは始めてみることにする。


 俺にとっての一番最初は、あの夏の日、登校途中に日和と出会ったところがスタート点になるはず。しかし状況的に、日和はそれよりも先に学校に潜入していたと考えるのが自然だ。


 もちろん幼い頃にすでに出会っているなどの問題もあるのだが、それは今回の事件とは関係がない可能性が圧倒的に高いためひとまず置いておく。

 出会った日のうちに“闇”に対する断片的な説明があり、そこから俺と日和の奇妙な関係が始まったわけだが、あの日、あのカフェで日和と一度喧嘩別れをするまでに何かなかっただろうか。 

 今更思い返してみても、日和と毎日旧校舎で昼飯を食べていたことしか思い出せない。あの時のあの時間はぼっちの俺の人生のなかでもたぶん、最上位を争うほどの幸せな時間だったのではないだろうか。きっとそれは間違いなくて、だからこそそれを失った俺はこれほどまでに喪失感でいっぱいなのだから。


 考えを戻そう。思い出せないというのは集中力が足りない証拠。意識をもっと深く鎮める必要がある。深度を落とす過程で見えてくるもの。そういえばいつかの昼休みに伏見が何かを言ってなかっただろうか。


 警備員が一人失踪した。


 確かにあいつはそう言っていた。あれは確か俺が日和と初めて一緒に下校し、その先でケンカをしたまさにその日。

 しかも警備員の失踪が、その時点ですでに一か月が経過していたと言っていたことを考えれば、警備員が失踪したのは俺と日和が出会って間もなくということになる。


 そもそも失踪の原因が“闇”に関することなのかどうかも不明だが、今はそう考えることにしよう。となると“闇”が実態をもっていたのは遅くともこの段階ということになる。

 日和がいつだか言っていたが、“闇”が実態を持つとき、まずは核が一番最初に現れるらしい。それはまるで、冬を超えた後の女王蜂のように、そこから子となる“闇”が拡散していくのだそうだ。

 しかも拡散を起こすために必要となる条件は、核に危険が差し迫った時。つまり自身がなんらかのピンチに陥った時に限定されるらしい。


 その情報から考える。もし警備員の失踪に関与していた“闇”が核であり、そこから危険に晒されず校内で過ごしていたとしたら。そしてあの日、俺と遭遇した後に日和に追い込まれたことがピンチだったのだとしたら。


 だけどそれこそ矛盾だ。確かに日和はあの時に“闇”に憑りつかれた人体模型が復活しないために封印作業を行ったはず。もしあれが核だったのだとしたら、そこでこの騒動はすべて終わっているはずなのだ。

 だが実際はその後にも問題は続いている。音楽室でのベートーベンとの戦闘、何者かに襲われた日和。そして伏見の言っていた教師の失踪も、恐らく“闇”にかかわるものなのだろう。


 そこからさらに考察を深めていく。


 そもそもあの時、日和が封じた“闇”がすべてではなかったのだとしたら。日和によれば、“闇”に憑りつかれたものは、その一部でもあれば復活してしまう恐れがあると言っていた。そしてそれが核であるほどの力を持つならば尚更その可能性は高くなるとも言っていた。


 ではもしあの時に日和が倒し、人体模型から封じたはずの“闇”がすべてではなく、残滓のようなものが残っていたとしたら。

 日和の話の通りであれば、その残滓から再び復活した可能性は極めて高くなる。だけど、いくらなんだって日和がそれを見逃すとは思えない。あいつはあれで“闇”との戦いにおいてはプロだ。見逃す可能性は限りなく低いだろうし、万一のことを考えて保険くらいはかけるはずだと思う。

 だけどあの日、あいつにとってもいつもとは違う状況が重なったのだとしたらどうだろう。最初から自分自身が関わらず、途中の仮定をすっとばして最後だけ戦闘をする。そして日和にとって守るべき存在であったはずの俺が被害を被っていたという状況。


 それらの要因が日和の目を曇らせた。


 日和の見ていない過程で起こったこと。いったいそれは何か。簡単なことだ。それは俺が命がけで考えた粉塵爆発という行為。


 さらにあの夜日和に告白する寸前に日和が何かに気づいたと言った時、俺が言った言葉は何だったか。


“あの夜ばらばらにした人体模型に追い詰められた時にお前が助けてくれた”


 もはや説明する間でもない。あの時、粉塵爆発で一度吹き飛ばした人体模型のパーツは、全てが元に戻らずに爆発現場、もしくは周辺に落ちていたのだ。とすれば後はどうなるか。


 深くまで沈めていた思考を浮上させ、ゆっくりと目を開けば見慣れたリビングの風景が視界に飛び込んでくる。二度三度と大きく深呼吸をし、思考を沈めていたせいでいつの間にかおざなりになっていたらしい呼吸を整え、供給量が不足している酸素を体全体、主に脳へと送り込む。クリアになる意識と徐々に落ち着く呼吸。


「行くか」


 俺の考えは所詮推測であり、そこには証拠も何もない。ということはこの考えはまったくの見当違いであり、空振りに終わる可能性だって大いにある。

 それでも俺は動かなければならない。あいつの、日和の敵討ちというわけではないが、それでもあいつが最後までやろうとしていたことなんだ。それを途中で終わらせるわけにはいかない。

そして柚葉さんからもらった言葉もある。


“ゆっくり考えて、そして動きなさい。大丈夫、きっとうまくいくから”


 俺がしっかりと考えて、そして出した結論。だったら間違いを恐れる必要は何もない。自分の思う通り、そのままに動けばいい。

 ポケットに入れっぱなしになっている日和のリボン。それを取り出し左手首に巻き付けた。俺は一人じゃない。あいつはここにちゃんといる。


 さぁ行こう。こんなふざけた物語に決着をつけるために。


今回少し短めです。少し霧が悪くなってしまう場面でしたので、ご容赦下さると幸いです。

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