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日常と非日常の境界線 ~闇と戦う少年の物語~  作者: ナル
第1章 学校の怪談編
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第30話~幼馴染と自分の気持ち~

 その後の流れは詳しく語るほどのもでもない。いや、その表現は違うか。俺としては非常にたのしく有意義な時間だった。だからこそ詳細は自分の心の中にしまっておきたいのだ。言ってしまえば、小さな独占欲みたいなものだな。


 それでも簡単に語るのであれば、普通に駅前に立ち並ぶビルの中のアパレルショップを冷やかす日和について回り、程よくお腹が減ったところでお昼を食べ、午後からは体を動かしたいという日和の一言により、急遽ボーリングを五ゲーム程連投するはめになり腕に多大な被害をうけ、小休憩ということでカフェでコーヒーを飲む。

 どこからどうみてもごく普通のデートだ。それこそこの光景を見た誰が、俺たち二人が連日連夜、夜の学校で現実離れした敵を追っていると思うだろうか。俺自身、当事者でなければとてもじゃないがそんな事を想像することすらできないだろう。


「このお店のパンケーキはまさに絶品ですねー。ほっぺが落ちるとはまさにこのことです!」


「太るぞ」


 言い終わると同時に飛んでくる丸められた紙屑。お前、それはさっきパンケーキのクリームをこぼしたときに拭いたナプキンじゃないかよ。


「千種さんはデリカシーという言葉を辞書で調べることをお勧めします!」


 その言葉はそっくりそのままお前に返してやりたいが、きっと返したところでおまけが山ほどついて返ってきそうだからそれ以上はやめておく。


 穏やかに過ぎる休日の午後。こんなに平和でいいのだろうか。実際、”闇”についての問題は何も解決はしていないし、解決の糸口すら見えてはいない状況が続いている。本当ならこんなことをしている場合ではなく、もっと調査をするべきなのかもしれない。


「甘いものを食べていたらしょっぱいものが欲しくなってきましたねー。そのポテト少しいただいてもいいですか?」


 言うが早いか、俺の注文していたポテトを摘まんで頬張る日和。俺の許可が出る前にすでに手が伸びている当たり、最初から聞く気などないのだろう。

 そんな日和を見て、俺は考えることを辞めた。確かに状況はいいとは言えないかもしれない。だけど、だからと言って焦ってもしょうがないじゃないか。ことわざにもあるが、急いては事を仕損じるとも言うし、抜くときには抜いておくことも大切だ。そして来るべき時に力を最大限に発揮できるようにすればいい。


 それに、考えるにしても、せっかくの休日、しかも曲がりなりにもデート中に考えることではないだろうから。

 そう自分に都合のいい理論で納得し、目の前で相変わらずパンケーキを頬張っている日和に視線を戻す。こいつの頭の中は一体どうなっていて、今は何を考えているのだろう。


「なんですか人の顔をじろじろと。それ以上は料金を支払ってからにしてください」


「サンプル動画で入会を誘う業者かお前は」


 口を開けば皮肉の応酬ばかりだが、それも俺達らしい。出会ったころからそうだったのだ。今更俺が変わる方がなんだか気持ち悪い。そう思い、再び何か悪態のひとつでも言ってやろうとした時だった。


「秀介君?」


 俺たちが座る席の斜め後ろからかけられる声に振り向けば、緩めのウエーブのかかった栗色の長い髪を揺らした綺麗な女性がこっちを見ている。そしてその顔におれは見覚えがあった。


「やっぱり秀介君だ!似たような声が聞こえたからもしかしたらっ!て思ったんだよね!」


 声の主は座っていた席から立ち上がると、そのままこちらまで歩いてくる。


「久しぶりですね、柚葉さん」


 朗らかに笑う目の前の女性に、こちらもつられて笑顔になる。くったくなく笑うその顔は、間違いなく俺の記憶にあるものそのままだ。


 彼女は本郷柚葉。


 俺より三つ年上で、現在は県外の大学に通っていると聞いている。その関係はと聞かれても、残念ながら期待に添えるような甘い話は微塵もありはしない。たまたま家が近く、小学校への登校班が同じだった都合上、接点が多少あったというだけのこと。まぁ、どうにも世話好きな性格なようで、両親が忙しい俺の世話を何かと焼いてくれたというエピソードはあるが、今はまぁいいだろう。


「ほんとに久しぶりだね!最後に会ったのは、確かお正月だったかな?」


「残念ながら春ごろにも一度会ってますよ」


 容姿端麗、スポーツ万能、家事もこなせると抜群のスペックを誇るのに、どうにも記憶が時折怪しくなるというのが昔からの欠点だ。いわゆる天然と言えばそれまでなのかもしれないが、単に俺に関することだけを覚えてないのかもしれない。これ以上は悲しくなる結果しか見えないので、そこはあえて考えないことにしている。


「もしかしてデート中だったかな。ごめんね邪魔しちゃって」


「あ、いえ、それは大丈夫ですが」


 突然の再会で思わず日和を放置して話し込んでしまったが、仮にもデート中に他の女性と話し込むというのは、やはりいただけないものだと思う。恐る恐る視線を日和に向けてみれば、そこには般若の形相をした日和が……ということはなく、いたって普通に笑顔を見せて日和はこちらを見ていた。


「千種さん、よければご紹介していただけませんか?」


 いつも通りの話し方だし、声のトーンもいつもと一緒。しかし俺は知っている。あの笑顔の奥にはよからぬものがいるということを。

 しかし状況はどうあれ、ここは日和の言う通りお互いの紹介が先だろう。後でフォローはしっかりとする必要はありそうだがな。


「えっと、この人は本郷柚葉さん。何と言ったらいいだろうな。簡単に言うと幼馴染みたいなもので、三つ年上の姉みたいな感じかな」


「はじめまして。紹介された本郷柚葉です。秀介君が今言った通り、昔は姉弟みたいによく一緒に遊んでたんだけど、最近は全然会わなくなっちゃって。でも驚いたな、秀介君にいつの間にかこんな可愛い彼女さんが出来てるなんて」


 自己紹介をしながら日和にそう言う柚葉さんだが、それに対する日和は相変わらず笑顔を崩さない。しかし、まだ短い期間とはいえそれなりに毎日こいつと一緒にいるのだ。なんとなくくらいなら、その表情の変化は読めるようにくらいはなっている。


「そうなんですね。申し遅れました、私は本山日和と申します。千種さんの後輩にあたりまして、仲良くさせてもらっています」


 おそらくだが今、日和は少し安心したはずだ。はた目には何も変わったようには見えないが、間違いなく日和の雰囲気が柔らかくなった。それが具体的に何に対してかはわからないが、この変化はあの夜、俺を助けてくれたときの日和の感じに酷似している。

 もしその安心が、俺の思っている通りの所からきているものだとしたら、それは少し自惚れがすぎるだろうか。


「よろしくね日和ちゃん。秀介君、少し捻くれたところがあるけど、根はいい子だからこれからも仲良くしてくれると嬉しいな」


「はい、よく知ってますので大丈夫です」


 どの口が言うんだ!とよっぽど突っ込んでやりたかったが、日和が柚葉さんととりあえずは良好に話している様子を見てやめておくことにした。


 思えば日和と一緒にいることが増えてからという物、俺は日和が他の誰かと話していることを見たことがあっただろうか。もちろん四六時中一緒にいるわけではないのだから、俺が見ていないところで誰かと話しているのは間違いないが、こうやって実際その光景を見ると少し新鮮な気がする。

 あまり人のことを言えた義理ではないが、どうしてもこいつに友達が多いとは思えない。容姿こそ可愛いものの、その性格がぶっ飛んでいるのは痛いほどわかっている。集団生活を送る上では、そういう奴というのは自然とつまはじきにされてしまうのが自然の摂理である以上、教室の真ん中で日和が友人達と大きな声で話している姿が、俺にはどうしても想像することが出来ないのだ。


「千種さん?今何かとても失礼なことを考えていませんか?」


「気のせいだろ」


 最初に会った時からだが、こいつはどうにも人の心を読むところがあるので、こういったことを考えるにあたっては注意が必要だ。でないと、今にも飛び掛かってきそうな視線にさらされることになってしまうからな。というかもしかして、俺が顔にでやすいのだろうか?


「こらこら二人とも喧嘩はだめだよ?お姉さんが聞いてあげるから仲良くね」


 まるで本当の姉のように柚葉さんがそんなことを言うものだから、何も言い返す気が起きなくなってしまう。それはどうやら日和も同じようで、確か昔一緒に遊んでいた頃も同じだったなと少しだけ懐かしんでしまった。

 いたずらをする俺をたしなめる柚葉さん。あの頃は当たり前の光景だったが、いつの間にかなくなってしまった日常。一体いつからだろう。柚葉さんとの距離が開くようになったのは。

 過去の記憶をたどる俺に対し、何やら日和が変態でも見るような視線でこっちを見ていたが、笑顔を返すことで黙らせておいた。


 ◇


 結局その後しばらく三人で話こみ、用事があるからという柚葉さんに合わせて店を出たのが十分前。

 その時までは笑顔で話していたくせに、二人になった途端にしゃべらなくなってしまった日和を俺はどうすればいいのだろうか。今日の予定のほとんどを日和の赴くままに合わせて動いていたので、これから先、どうする予定だったのかを俺は全く知らない。

 いくつか案がないわけではないが、ここまで日和に計画通りに動いてきたわけだし、今更それを持ち出すのも違うと思う。


 拗ねているのが丸わかりだよ。


 日和の今の状態は簡単にいえばそう言うことだ。あからさまに不機嫌ですという雰囲気を出しながらも、時折こちらに視線を向けている。横目でチラ見している程度だが、頻度が多ければ流石に俺だって気が付く。

 そして何よりの証拠に、日和は店から出て一度も握った俺の手を離そうとしないのだ。これ以上説明も何もないだろう。


 今日の俺達は理由はどうあれデートをしている状態だ。知り合いとは言っても他の女性、しかも日和は知らず、俺が親しくしている人と話し込んでしまうというのはよくなかったのだろう。

 日和もとりあえず三人でいるときは、自分の気持ちはどうあれ相手に失礼にならないような対応をしてくれていたが、それが終わればこの状態だ。


 いわゆる嫉妬。それが今の日和が前面に押し出している感情だ。


 何度も言うが俺は鈍くはない。ここまであからさまに態度に表している日和の感情が、一体何を意味しているのかということがわからないほど馬鹿でもない。

 いかに日和が“闇”と戦うためにここにいて、俺を勧誘するために近づいてきたのが目的だったという過去があったとしても、今日俺にむけてくれていた笑顔が嘘だったとは微塵も思えないのだ。


 伝えるなら今なのかもしれない。

 もしかしたら俺の盛大な勘違いで、今日までのことが全て日和の演技だった可能性だってもちろんある。


 だけど、少なくとも俺の気持ちは嘘ではない。だから伝えよう。

 自分の気持ちに気づかない振りも、答えを出すことに時間をかけることももう終わりだ。予定よりも少し早いが、それは大した問題ではない。こういうことはタイミングを逃した方がよくないのだから。


 俺は日和を見た。ちょうどこちらに視線を向けた日和と目が合う。一度絡んだ視線は外れることなく、俺と日和は見つめあう形になる。


「ひよ「千種さんは……」」


 意を決して話しかけようとした俺より先に、日和が俺に話しかけて来た。


今回もお読みいただきありがとうございます。

おかげさまで本作品も30話を迎えることが出来ました。これもひとえに読んでくださる方の御力だと持っています。


そこでお願いです。もしよければ『ブックマーク』、『評価』のほどをして頂けるととても嬉しく思います。

読んで頂けるのももちろん嬉しいですが、やはり目に見える形というのも励みになるものです。お手間とは思いますが、ぜひお願いいたします。


それでは1章もそろそろ終わりに向けて動いていきますので、また次回も読んでくださると嬉しいです。

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