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日常と非日常の境界線 ~闇と戦う少年の物語~  作者: ナル
第1章 学校の怪談編
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第20話~見えない敵~

 日和を手伝うと決めたはいいが状況はよろしくない。手掛かりは学校の怪談にまつわる怪奇に可能性があるというだけ。あてをつけるためには、まだまだ情報が足りないと言わざるをえない。


「すみません。私も毎晩調査をしていたのですが、これ以上の情報は得られませんでした。正直なところ、昨夜のことがなければ、闇が怪談をなぞる可能性があることすらわからなかったでんです」

 

 意気消沈とはこのことだろうか。自分でそう話しながらだんだんと状態が俯き始めている。その背にはなんとも陰気な黒い影が見えるような気さえする。ふざけた態度だと思ったら、今度は落ち込んで見せる。感情の起伏が激しくて見ていられやしない。


「わかんないもんは仕方ない。少ない情報をもとにこれから調べていくしかないだろ」

 

 そんな悠長なことを言っている場合ではないのかもしれないが、これだけ沈んでいる奴にこれ以上いろいろと突っ込むのはいささか気が引ける。

 未だ俯き加減の日和。仕方がないので、チョップを喰らわせてやろうとかと思ったが、今回はやめておいた。その代わりにほっぺたを引っ張っておくことにする。


 うん、柔らかいな。


「もう一つ聞きたいことがあるんだがいいか」

 

 話題の転換。進展のない話をするのは非効率的だし、何よりそちらの質問も俺にとっては十分に重要なことなのだ。


「人のほっぺを引っ張りながら真面目なトーンで話さないでくれます?」


「昨日の最後、あの人体模型をどうやって倒した?」

 

 不満そうな視線をよこしてくれるが、無視することにした。どうやら少し落ち込み具合も回復したようだし、話を進めて問題ないだろう。


 俺が聞きたいこと。


 何をしても止められなかった人体模型を、一撃で粉砕してみせた日和。

 これから先、日和に協力をするということは、昨夜のようなものと遭遇する可能性が非常に高いということだ。それに対して何の対抗手段も持たないというのはいささか、いや、相当に心もとないものがある。この事件に首を突っ込むとは決めたが、俺はまだこの若さで死にたくはない。


「確か出会った日に言ってたよな。闇に対抗するには素質がいる。そして俺にはその素質があるって」

 

 だが俺の力は何一つ通じることはなかった。ダメージを与えたのは人体模型の外装にだけで、そもそも本体である“闇”にダメージは通っていなかったのだ。おそらく単純な力、つまりパワーだとかそういうものが素質というわけではないのだろう。

 だとすれば、それを知らなければいけない。誰だって丸腰で戦場に行きたくはないのだから。


「そうですね。千種さんが私に協力していただける以上、そちらもしっかりとお話しなければいけません」

 

 “闇”に対抗する力。漫画やなんかでは“闇”には対となる“光”による攻撃が定番だ。

 しかし、昨夜の日和の攻撃思い出してみるが、そんなものは影も形も見なかった。俺に見えていなかっただけと言われればそれまでではるが、俺に見えたのは、日和が何かしらの武器で、打撃を人体模型に与えたということだけ。

 気づいた時には人体模型は吹き飛ばされていたのだし、何より自分自身が極限状態だったのだから、こればかりは仕方がないだろう。

 なんにしても、今更何を聞かされても驚きはしない。すでに現実離れした現象を体験し、それに関するものと戦うという話になっているのだ。超能力や魔法が存在すると言われたところで驚くには値しない。むしろ納得するくらいだ。というかそれらを自分が扱えるのであれば、歓迎すらしてもいい。

 

 魔法や超能力。この年になってとも思うが、憧れはいつだってあるのだから。


「それについてはここで説明するのもあれなので、今夜またここに集合ということでいかがでしょうか」


「今じゃダメなのか?」


「もちろん今でも構わないのですが、少々説明に時間がかかると思いますので。それに明るいうちだと何かと都合が悪いんですよ」

 

 時間がかかるのは分かるが、明るいと都合が悪いとはどういうことなのか。夜じゃないと使えない理由でもあるのだろうか。


「ちゃんと全部説明しますので、それでお願いできませんか?」


「まぁ、そりゃ構わないけど……」

 

 昨夜の怪我の具合は一晩寝たらだいぶ良くなっていた。おそらく病院にお世話になる必要はなさそうなので、放課後の予定は今のところフリーだ。あれだけ手ひどくやられたというのに摩訶不思議なものだが、骨が折れてると言われるよりはずっといい。

 だが、疲れが残っているのも事実。

 この後には、午後の授業も控えているし、夜の方がいいというのであれば、家で少し休んでからまた来ればいい。俺としてもじっくりと話を聞きたくもあるので、昼休みの限られた時間よりも、夜の方が互いにメリットがあるだろう。

 

「だけど夜にここって大丈夫なのか?」


 日和の提案自体は構わないが、一つ懸念される問題がある。果たして昨日の今日で学校に侵入することなどできるのだろうか。いくら表ざたにしたくないとはいえ、学校側だって馬鹿じゃない。再び侵入者が来る恐れを考えて、警備の増強をする可能性が高いのではないだろうか。


「その点は心配ありませんよ」

 

 そんな俺の懸念に対して、少し元気を取り戻してきたのか。幾分軽くなった口調で日和はそう答える。


「新校舎側は確かにその可能性はありますが、旧校舎はいつもと特に変わりありません」


「そう言える根拠は?」


「聞きたいのならお教えしますよ?」


 どうしてそこで意味深な答えをするんだ、こいつは。どちらにしてもこれについても聞かない方がいいだろう。蛇の道は蛇ともいうが、絶対ろくな方法ではないのだから。それに日和が太鼓判を押しているのだ。それなら間違いはないと思うしさ。

 

 時計に目をやれば、そろそろ昼休みも終わろうかという時間になっている。そんなに話していたつもりはなかったが、どうやらそれなりに時間が経過していたらしい。ここ最近一人で過ごしていた昼休みに比べ、今日はその時間が半分くらいに感じたのは気のせいではないのだろう。これも日和と一緒にいたせいなんだと思う。絶対に本人には言わないけども。


「さて、そろそろ教室に戻りましょうか」


 弁当箱を片付け立ち上がる日和。俺もそれに続いて屋上の小部屋を出ようとしたのだが、なぜか日和が立ち止まった。振り向いたその顔が、妙に笑顔すぎて気味が悪い。


「なんだよ?」


 思わず固い声が出てしまったが、俺は絶対に悪くない。

 さっきまでの陰鬱な表情はすっかりどこかへ消え去り、今やいたずらをひらめいた子供のような表情をしている日和。本当にころころと表情が変わる奴だと思うが、その顔は俺にとってはいいものではない気がする。


「千種さん?いくら夜の学校に男と女が二人きりだから言って、変なこと考えないでくださいねー?多感な時期だとは思いますが、私はまだ大人の階段を昇るつもりはありませんのでー」

 

 この野郎が。気を使ってやったらすぐにこれだ。少しでも心配してやった俺が馬鹿だった。お前はやっぱり凹んでいるくらいでちょうどいい。


「俺に幼女趣味はない」


「素直になれない千種さんも嫌いじゃないですよー」


「言ってろよ」


 くだらない会話。でもそれが楽しいと感じてしまうほどには、俺は重症らしい。それがどうにも気恥ずかしくて、日和のよこを通り過ぎて先に部屋を出ようとする。


「ですが千種さんとなら、夜のデートも楽しそうですね」


 横を通り過ぎる瞬間に囁かれる言葉。思わず日和を見れば、満面の笑顔。


「それでは夜に裏門で待ってます。危ないですから一人で校舎内に入っちゃだめですよー」


 その言葉を最後に、今度こそ小部屋を出ていく日和。

 あいつめ。最後の最後にとんでもない爆弾を落としていきやがった。少し心拍数の上がった心臓と、なんとなく熱っぽくなってしまったこの顔をどうしてくれるというのだ。

 しかしそれもまたいいかと思ってしまうあたり、完全にあいつに毒されているのだろう。


 この先、闇とやらとの戦いがどうなっていくのかはわからない。具体的な解決策も見つからず、ぼんやりとした目標しか定まってはいない。昨日よりさらに危険なこともあるのかもしれない。

 だけど今はそれすら気にはならなかった。こんな風に誰かと過ごせる時間、それを俺はずっと望んでいて、どんな形であれそれが手に入ったのだから。

 

 ああ、やれやれ。今から夜が楽しみだ。


いつもお読みいただきありがとうございます。

おかげさまで読者も増え、大変嬉しいです。

もし少しでも気に入って頂けたら、ブックマークや評価を是非お願いします。

これからもよろしくお願いします。

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