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日常と非日常の境界線 ~闇と戦う少年の物語~  作者: ナル
第1章 学校の怪談編
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第18話~謝罪と和解~

 日和の話は続く。


「闇は良くも悪くも、その場での流れの強いものを好む傾向があります。今回はそれが校内で流行している怪談話だった。つまりはそういうことです」


 俺の心へのダメージなどは意に介さず話を続ける日和。もう少し気を使って欲しい気もするが、内容が内容だけに突っ込みもしにくい。

 なぜならその話が事実だとすれば、今後も怪談話が実現するということになってしまうからだ。


「千種さんもお気づきになったと思いますが、これでこの問題が終わったわけではありません」


「走る人体模型を除いて後6つってことか?」


「いえ、実際のところ怪談なんていうものは地域や年代によって様々です。ゆえにことはそんなに単純にはいかないんです」


 やっぱりそうなるよな。

 日和が普段の語尾を伸ばすようなしゃべり方をせずに、ずっと真面目な話し方を続けている辺りから嫌な予感はしていたのだ。

 確かに俺が昔に聞いた話だけでも、両の指で収まらないほどの話があったはずだ。ということは極端な話、それら全てが実現してしまう可能性だってある。想像するだけでも恐ろしい。複数の人体模型に追いかけられるなんて、悪夢を超えてまさに地獄絵図だろう。


「ご心配なく。確かにそういった可能性もありますが、実際にはそうはならないんです」


「解決策があるってことか」


「はい」


 それなら先にそれを言ってくれ。その光景はいくらなんでも心臓に悪すぎる。

 そんな俺の神妙な面持ちを見たからか、日和はさっきまでの真面目な表情から、少しだけその表情を崩した。


「闇には必ず核となるものがあります。それを叩けば少なくともこの学校で起きている問題は解決するはずです」


 核。

 簡単に言えば、この学校のどこかにボスがいるということだ。それさえ見つけ、倒せばこの問題は解決する。


「さて、応急処置はしましたが、あくまで応急処置ですのでちゃんと病院に行ってくださいね」


 立ち上がる日和の言葉の通り、体中至る所に絆創膏やら包帯が巻かれている。痛みの方も心なしか段々と増してきている気がするし、本当にどこか折れてなければいいんだが。

 自分の体を見渡してため息を吐く俺の様子を見て、日和もようやく安堵の表情を見せた。けがをしているとはいえ、いくらか余裕のある俺の様子と怪我の程度から大丈夫だと判断したのだろう。


 日和は、先ほど自分で吹きとばした人体模型の方に歩いていった。

 そういえば、一体あいつはどうやってあの化け物じみた人体模型を倒したのだろうか。小規模とはいえ、爆発の中心地の衝撃さえ耐えきるあれに、果たして有効な攻撃手段などあるというのだろうか。

 痛む体を無理やり起こす。日和の後を追い、再度人体模型のもとに向かう。近づくほどに見えてくる輪郭は、先ほどまで動いていたとは思えないほどに砕けきっていて、ますますどういった攻撃をしたのかがわかならなくなる。


「少し離れていてください。これから最後の処理を行いますので」


 よく観察しようと近づこうとする俺を、日和は片手でそれ以上の接近を止めると同時、着ていた制服のポケットから何やらビンのようなものを取り出した。


「闇に一度憑りつかれたものは、限りなく不死に近づきます。このままこれを放置しておけば、明日の夜には復活しているでしょう」


 その言葉に、今日何度目かわからない戦慄を覚えた。

 ここまで苦労してようやく戦闘不能にしたというのに、それが復活するっていうのか。これだけ叩き壊されて、元がどうだったのかもわからないほどに粉々になって、それでもまた復活する。考えただけでも冷や汗が噴き出てくる。そんなのは冗談じゃない。


「なんとかならないのか?」


「そうならないためにこれから処理を行うんです。離れてください」


 もう一度俺に離れるように促すと、持っていたビンの蓋を開け、それを壊れた人体模型に近づけていく。

 最初は何が起こっているかわからなかった。突如として人体模型の至る所から噴出する黒い霧。その霧は四方に拡散していこうとするが、何か見えない力に阻害されているようでうまくいかないように見える。

 何が起こっているのかは分からないが、だんだんと黒い霧の移動できる方向が、ビンの入口に集約されていく。そしてついにはそこに黒い霧のすべてが収まっていった。


「これで大丈夫です。少なくともこの人体模型が再び誰かを襲うことはないはずです」


 ビンの蓋を閉めながらそう言う日和。ビンの中には先ほどの黒い霧がまるで渦を作るかのように漂っている。あれが“闇”の本体、いや、そのものなのだろう。実体なく何かに憑りつく黒い霧。

 なるほど。日和の言う通り、本当に“闇”という存在は無視していいものではなないらしい。


 言いたいことはたくさんある。聞きたいこともそれと同様だ。

 闇についての詳細や、どうやってあれを倒したのか、これからどうしていくのか。だが、その前に俺はこいつに言わなければいけないことがある。何を言うよりも聞くよりも先にだ。ここまで来て、 流石にそれを伝えないわけにはいかないから。


「悪かった。お前のことを信じなくて」


 一週間前のあの日言ってしまったことへの謝罪。確かに信じられることではなかったし、裏切られたという思いもあった。実際に目にして体験しなければ、これを信じることは今でもできなかったと思う。

 だけど結果的に、日和の言っていたことはすべて真実だった。今日俺はそれを経験してしまった。そして最終的には信じなかった相手に助けられたのだ。弁解の余地なく俺が悪い。


「その罪滅ぼしというわけじゃやないけど、前に言ってた協力の件、手伝うよ」


 このまま“闇”を放置はできない。

 正直そこまで俺は正義感があるわけじゃないし、他人を守るために自らの身を危険に晒す気なんて毛頭ない。だけど俺が手伝わなくても日和はこの件の調査を続けるのだ。

 そこから先を考えることはやめた。やめた理由も、自分の気持ちにも気づき始めているが、それはまだ早い。だからこそ謝罪の意という形での申し出。


「でしたら私も一つ謝らせてください」


 てっきり即答で了承すると思ったのだが、そんな日和からの思いがけない返答が来る。何かこいつに謝られるようなことがあっただろうか。


「今回、私は闇への対策のために校内にいました。しかし千種さんがそれと交戦している最中にも気付けず、結局最後の最後にしか間に合いませんでした。その結果怪我を負わせることとなり、本当に申し訳ありません」


 そう言いながら頭を下げる日和に少し力が抜けた。


 なんだそんなことか。


 当人にしてみれば、頭を下げるくらいには重要なことだったのだろうが、俺には割とどうでもいいことだ。

 今日のことはもともと俺が学校に忍び込んだから起こったことであって、日和には何ら非はない。そもそも日和はもとから警告をしていたし、未然に被害を防ぐために調査を行っていたのだ。

 確かに助けてもらったタイミングはギリギリだったかもしれないが、感謝こそすれ謝罪をもらう理由はなにもない。むしろ助けてくれてありがとうと、こちらが再度頭を下げるのが筋だろう。


「ばかやろう」


 日和が頭を下げているがゆえに見える頭頂部。もとから日和は背が低いのでいつも見えてはいるが、さらによく見えるそこにいつかのようにチョップを喰らわせてやる。


「……痛いです」


「余計なこと気にするなよ。お前にも謝るとこがあると思うならそれでお相子だ。それにさ」


 ジト目で俺を睨む日和。

 そうだよ、ようやくいつもの調子に戻って来たじゃないか。お茶けた日和と真面目な日和。どちらが本当の日和なのかはしらないが、俺にとってはそっちの方が日和らしいと思っている。

 俺がお前と一緒にいて楽しいと思ったのは、なんの遠慮もなしに言いたいことを言ってくるそういうところなんだよ。


「いつまでも深刻そうな面してないで、いつもみたいにへらへらしてる方がお前らしいぞ」


「なっ!?」


 始めて日和から会話の主導権を奪えた気がする。もっとも、この先こんな機会はなかなかないんだろうけどさ。


 むくれながらも俺に肩を貸す日和に少し体重を預け、校内から出るため歩き出す。

 この先、その“闇”とやらに対抗していかなければならなくなってしまった。どうなるかなんてわからないし、そもそも俺に何かが出来るのかも怪しい。

 だけど一つだけ取り戻したものもある。傍らでうるさくわめく奴が隣にいる。ひとまずはそれでがんばれそうだ。


 長い夜がようやく終わる。

 時間にしてみれば1時間ほどのでき事だったが、それだけ濃密な時間だったということだ。

 そんな時間もこれから始まる戦いの第一夜なのかもしれないが、とりあえず今日は帰ってゆっくり寝ることにしよう。

 それくらい許される程度には、今夜の自分はがんばったさ


いつも読んで頂きありがとうございます。

もし少しでもお気に召しましたら、ブックマークや評価を頂けるととても嬉しいです。

少しでもあると作者が跳ねて喜びます。

また次回もよろしくお願いします。

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