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日常と非日常の境界線 ~闇と戦う少年の物語~  作者: ナル
第1章 学校の怪談編
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第16話~起死回生の一撃~

前回初めて評価を頂きました。本当に嬉しく思うと共に、感謝を申し上げます。

少しでも評価に応えられるようにこれからも頑張りたいと思います。

 もう一度部屋の内部を見渡し脱出経路を探す。

 もしかしたら見落としがあるかもしれない。どんなに小さな隙間だっていい。とにかくここから脱出さえできればいいのだ。

 上から下まで部屋の中を隅々まで見渡すが、乱雑に物が詰め込まれたこの部屋にそんな場所はひとつもない。今ある入口だって、先ほどのように壊さなければできることなどなかったはずのもの。それほどまでにこの部屋は密閉された空間となっている。


 本当にまずい。


 なんとか奮い立たせた心が再び折れかけるのを感じる。外の気配はもう間もなく教室に入るところまで近づいてきているというのに、突破口が見つからない。全身から汗が噴き出すがそれをぬぐう余裕すらない。


 何か、何かないのか!?


 この際あいつにダメージを入れられるものなら何でもいい。

 藁にもすがる思いでポケットを探ると、手に何かが触れる感触を感じた。急いで引っ張り出してみれば、手の中にはコンビニなどでよく売られている簡素なライターがひとつ。

 これは確か出がけに持ってきたものだ。万が一携帯の照明が切れてしまった時の最終手段。意味があるかどうかはわからなかったが、毎回忍び込むときに保険のような感覚でポケットに入れていたもの。


「これならもしかしたら……!?」


 再度教室内を見る。

 先ほどとは違う観点から、あるものを探すために。確かさっきそれがあったはず。起き上がった時に視界に見えたはずなんだ。

 時間がない中で、それでも諦めずに目を皿のようにして探す。そして目的の物を見つけた。

 自身の真左二メートルのところにそれはあった。迷っている時間はない。うまくいくかもわからない。こちらにも被害がくる恐れは高い。だけどもう今の俺の頭ではこれ以上のプランは思いつかなかった。ならやるしかない。


 俺が動くと同時に入口に人体模型の姿が現れる。それが再び視界に入ってくる恐怖に足がすくむがここで止まるなんてできるはずがない。

 それに、気のせいかもしれないが、頭部がどこかぐらついてるようにも見える。一歩を踏み出すたびにゆらゆらと揺れ、もう少し衝撃が入れば落ちてしまうかと思うほどだ。

 つまり先ほどのパイプ椅子での攻撃は、まるっきりダメージがなかったわけではなかったのだ。

 あれに痛覚があるかどうかは知らないが、先ほどよりも動きが若干鈍い気がしなくもない。希望的観測かもしれないが、今の状況からすればまさに大きな希望となりえる。

 もしそうだとするならば、人体模型本体の損傷がさらに大きくなれば完全に動きを停止させることも可能なのかもしれない。


 一縷の望みかもしれないが、気力を振り絞るには十分すぎる。

 床に平積みされていたそれに手をかけ、封を一気に破り去る。中に入っていたものが一気に噴き出すが構いやしない。むしろもっと激しく出てくれた方がいいくらいだ。

 一袋すべてを出す間なんてない。半分くらい中身が出た段階で次の袋を破りまた中身をぶちまける。


 もっと早く、もっと教室中にそれが充満するように。


 入口から徐々に迫る人体模型との距離はおおよそ5m。その歩みからの時間にすれば十秒ほど。

3袋、4袋目はほとんど中身が残っているがもう時間がない。

 あたりに立ち込める袋の中身。暗い教室内で確かにその中身が空気中に散乱し、白い靄を作り出していることが確認できる。

 袋から限界まで距離をとり、どこかの教室内でかつては使われていたのであろう黒板の影に潜り込んだ。もしうまくいけばこんなものじゃ防げないかもしれない。だけどどちらにしてもやられるなら可能性の高い方に賭けた方がいい。

 隠れている黒板の影から覗いた先には後2mのところまで迫る影。覚悟を決めろ。


「吹き飛びやがれ!!」


 ライターの火打石を打ち鳴らし、白い霧に向かって投げつける。

 次の瞬間、先ほど人体模型に突き飛ばされた衝撃とは、比べ物にならないほどの衝撃と音が一気に広がった。

 どうやらうまくいったらしい。

 薄れゆく意識の中で最後に浮かんだのがあいつの、日和の顔だったのが少しだけ気に食わなかったが、それ以上何も考えられず、俺は意識を手放した。


 

 粉塵爆発という現象がある。

 

 可燃性の個体微粒子に発火元が引火することで起こる爆発のことなのだが、今回俺が狙ったのはまさにそれだ。

 この教室の中には、二つの微粒子状のものが隣り合って積まれていた。一つは体育などでよく使われる消石灰、そしてもう一つが小麦粉だ。

 この二つがなぜ隣あって積まれていたのかは知らないが、俺にとっては不幸中の幸いだったのかもしれない。

 そして今回俺は、爆発を起こすためにそのうちの小麦粉を選んだ。その理由は単純明快。消石灰では粉塵爆発は起こらないらしいからだ。

 粉塵爆発を起こすための要素は大きく三つ。酸素の存在、発火させるためのエネルギー、そして最も大事なのが可燃性の微粒子が、一定以上の濃度で大気中に存在すること。つまり消石灰は可燃性ではないためダメなのだ。

 過去にも小麦粉で粉塵爆発が起こったという事例はいくつもある。以前に興味本位で見たネットの情報がこんなところで役に立つとは思わなかった。


 そんなことを考える余裕が出来たのは爆発から数分後のこと。

 どうやら爆発の衝撃で意識を失ったのはほんの少しの間だけだったらしい。爆発で散乱した瓦礫の山からはい出しつつ辺りを伺うと、教室の原型こそ残っているものの、中に置かれていたものは粉々に吹き飛んでいるようだった。

 教室の扉付近も吹き飛んでいて、もはやどこが入り口だったのかもわからない。

 これだけの衝撃の中よく無事でいられたものだ。もちろん切り傷や打撲などは体中にありそうだが、とりあえず動くことはできる。


 それよりも肝心なのはあれがどうなったかということだ。


 爆発の中心点、おそらく人体模型がいたであろう場所を見れば、人体模型内部に収められていたはずの臓器モデルが砕けて転がっていた。周りの物ですら相当の被害を受けているのだ。中心点にいたあれなんてひとたまりもなかったのだろう。


 ようやくの安堵。


 ひとまずは危機から逃れることができた。砕けた臓器モデルしか残っていないのだから、ボディなんかのパーツは全て吹き飛んだのだろう。そこまですれば流石のあれも、もう追ってはこないはずだ。


 しかしこれだけの騒動を起こしてしまった以上、もはや言い逃れはできないだろう。

 夜の校内で爆発事故。全国紙は難しくとも、地方ニュースを騒がすくらいは余裕な事故だ。

 傷だらけになった体を引きずるように教室を出て、再び屋上を目指す。最後の悪あがきというわけではないが、とりあえずここから離れるだけはしておきたい。

 爆発という隠しがたい事実がある以上、警備員どころか警察や消防が来るのも時間の問題だ。それまでの時間の間にこの体で脱出することはもはや不可能。そう分かっていながらもその場を離れたい理由は、あの人体模型がいた場所にいつまで留まっていたくないからというのもある。

 あれだけ得体が知れないものだ。もしかしたら爆発でばらばらになったとしても復活する可能性だってある。

 一度その考えが頭をよぎってしまったら、一秒でも早くそこから逃げ出したかった。廊下に出て歩き出しても、再び背後で何かが動く気配はしない。何度も振り返り大丈夫だと確認しても不安を拭い去ることはできない。軽いトラウマ状態だ。

 階段を昇り屋上の扉を開ける間も、今度は追ってくる足音が聞こえることもなければ、肩に何かが触れる感覚もなかった。


 もう何も考えたくない。体力的にも精神的にもそろそろ限界だ。意識もどこか朦朧としている。

 無理もない。あんな現実離れしたものとギリギリのやりとりをしたのだ。実際に体験したはずの今でもあの現状を信じられないのだ。脳のキャパシティの限界なんてとっくに振り切って半壊れもいいところだ。


 屋上を旧校舎に向けて歩く途中も、もはや自分がどうやって歩いているのかよくわからなかった。ただよくわからない義務感に突き動かされなんとか歩いている。


 今すぐにでも家のベッドで眠りにつきたい。


 静まり返っていた校舎の中から屋上に出て外気に触れたからか、それとも本格的に意識の限界に来ていたのかはわからない。だが確かに言えるのは、この時の俺は先ほどまであった背後に対する警戒を解いてしまっていた。


 そのせいで背後から忍び寄る気配に気づけなかった。月の明かりに照らされた影が、朦朧とした眼前に大きく映るその瞬間まで。

 振り向いた時にはもう遅い。外装が黒く焦げ、中身となる臓器模型はなくなり、左腕が吹き飛んだ人体模型が残った右腕を大きく振り上げそこにいた。


いつも読んで頂きありがとうございます。

もし少しでもお気に召しましたら、ブックマークや評価を頂けるととても嬉しいです。

糧にして次回も頑張りたいと思います。

また次回もよろしくお願いします。

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