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日常と非日常の境界線 ~闇と戦う少年の物語~  作者: ナル
第1章 学校の怪談編
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第13話~ミッションコンプリート?~

 誰もいない旧校舎だが、一応の警戒をしつつ上階を目指して進んでいく。

 本当ならスマホの簡易ライトの明かりをつけたいところだが、万が一それのせいでばれてしまっては目も当てられない。幸いなことに今日は月明かりがいつもよりも強い。目が闇に慣れてくれば、十分に校舎内の様子は把握できる。

 廊下をなるべく音を立てずに進み、最初に目に入った階段を上る。だてにいつもこの旧校舎に通っているわけではないのだ。どこを通れば早く目的地に着くかなんてのは、しっかりと頭に入っている。

 階段を上り三階まで上がったところで一度廊下に出る。この階段は四階までしか続いておらず、今目指しているのはそのさらに上。そう屋上だ。

 そもそもなんでここまで俺が簡単に侵入をすることが出来ているかと言えば、早い話がこれが初めてというわけではないからに他ならない。

 実は以前にも三回ほど夜の校内に忍び込んだ経験があったりする。もちろんそれにはしっかり理由があって、何も好き好んで夜の学校に忍び込んだりしたわけではない。

 もともと旧校舎で時間を過ごすことが多かったせいか、旧校舎の構造は大方調べつくしていて頭に入っている。どこに何がしまってあるとか、どこの施錠が甘くなっているだとか。過ごす時間が長くなるにつれて情報量はどんどん増えていった。


 そんな折、長期休み前最後の日に思い出した忘れ物。


 休みの間でも校舎に入れないことはないのだが、時間の指定があったり手続きがあったりとそれなりに面倒くさい。そんなときに思いついたのが、旧校舎から学校に入り込もうというものだったのだ。

 最初にそれを実行に移したときは、緊張と夜の旧校舎の不気味さに心臓が破裂するのではと思うくらい、ドキドキしたのを覚えている。加えていくら構造や手薄いところを頭に入れているとはいえ、思い付きの無計画だったせいか、侵入してから出てくるまでに多くの時間を費やした。

 それでも校舎から出て、敷地の外にばれずに降り立った時のあの達成感と高揚感といったら。あれは体験しないとわからないだろうが、とにかくものすごく病みつきになってしまうものだった。

 一度それを体験してしまえばあとはもう慣れの問題だ。基本的にはやらないようにしているが、どうしても必要なものを忘れてしまった時などは忍び込むことを続けていた。

 今回も今までと同じ。明日必要なものを取りに来ただけ。

 

 侵入も4回目ともなれば慣れたもので、ここまで来るのに要した時間は5分とかかってはいない。

ほどなく別の階段に辿り着き、一段飛ばしで駆け上っていく。昇りきった先には俺がいつも過ごしている屋上の一室につながる扉。そこを音を立てずにあけ放つと、外のひんやりとした空気が一気に火照った体を急激に冷やす。その感覚もやはり今の状態の俺にはとても気持ちよくて、いけないことをしている時特有の高揚感にさらに拍車をかける材料に過ぎない。


「目的地まではもう少しだな」


 旧校舎と新校舎をつなぐ渡り廊下には、確かに夜間施錠がなされていて旧校舎からの侵入は不可能に思える。しかし屋上はそうではない。

 新校舎を建てた時の設計ミスなのか、もしくは意図してやったものなのか定かではないが、屋上と屋上の隙間が一部、ほとんどつながっているポイントがあるのだ。

 もっともそこは新校舎側から見ると、旧校舎より一段高くなっていて、行き来ができるようには全く見えないため、基本的には誰にも気付かれることはない。それゆえ警戒されることなく、新校舎側に侵入することができるというわけだ。

 そこに向かいつつなんともなしに空を見上げてみれば、どうやら今夜の天気はすごぶるよいようだ。月の明かりが濃いせいか、あまり多くは見えないが、いくつか星も綺麗に見ることが出来る。


「確かあれはオリオン座だったか」


 小学校あたりで習ったくらいの記憶でもわかる数少ない星座の一つ。あれだけは冬になるとよく発見することができるのだが、それを見つけると、冬の訪れを毎年実感したりしていた。

 今年も例年と変わらない冬がやってくる。

 少し前までは、もしかしたらいつもと違うのではという期待もあった。

 だけどそれも今は過去の話。

 まだ心に引っかかったものはあるが、明日、日和と直接話せばなくなるはず。そしてまたいつも通りの日常がやってくるのだ。


 旧校舎の端から新校舎の淵へと手を伸ばし、フェンスを足場にして一気に飛び移る。いくら校舎間の距離がほとんどないとはいえ、わずかながら隙間は空いている。万が一そこから落ちてしまえばまず間違いなくこの世と今生の別れとなることだろう。さすがにそれは避けたいので飛び移る際には、常に細心の注意が必要となる。

 ここを通るときは、他とは違う意味で緊張するせいか、汗の量も自然と増えてしまう。背中にじんわりと感じる湿り気が、気持ち悪くも気持ちいい。

 よくわからない、矛盾した感覚だ。

 

 新校舎側のフェンスをよじ登り、屋上の中へと着地する。

 休んでいる暇はない。

 そのまま校舎内への入口へと一気に進む。ここから先は先ほどまでと違い、より速やかに静かに動かなければならない。新校舎だからといって、教室付近に特殊な防犯装置がついているということはないが、いかんせんこちらには警備員の巡回が行われているのだ。

 その巡回時間や場所などは決まっているのだろうが、俺は知る由もない。つまり、忍び込んでいる俺からすればまったくのランダムと言ってもいいだろう。

 前回までの三回は運よく警備員と遭遇することはなかったが、今回もうまくいくとは限らない。もし見つかってしまえば、各所方面から大目玉をくらい、侵入経路もばれることになるだろう。

そうなってしまえば、俺の唯一の憩いの場であるあの屋上も金輪際立ち入りは出来なくなる可能性が高い。それはもはや俺の学校生活に、何一つ面白みが無くなってしまうことに等しい。

反対に逃げ切れたとしても、誰かが夜の校内に入り込んだという情報は瞬く間に広がり、校内の監視体制は今よりはるかに厳しいものとなってしまうだろう。それくらい旧校舎へ行けないこともないのだろうが、自由度が下がることは間違いない。

 見つかったら終わり。それくらいの意識を持たなければここからは危ないのだ。


 屋上からの入口は一か所のみ施錠されていない場所がある。

 普通学校の屋上というのは、生徒への安全の配慮から最近ではいついかなるときも施錠されているところが多いと聞いている。しかし西校の校風というか、教育理念らしいのだが、生徒の自由を概ね尊重するという意識が妙に高い。

 漫画やドラマでの描写が多いせいか、生徒の中にも屋上の開放を望む声をはやはり一定数あった。

しかしやはり西校が公立の学校である以上、世間体というのも気にしなければならない。その妥協案として学校側が提案したのが屋上の一部開放というものだった。すべてのスペースの開放はやはり危険がどうしても伴うため、周囲よりフェンスが高く見通しのいい部分のみの開放という形で双方の納得を得ることに成功した。そのため新校舎の屋上には常時解放されている扉が存在している。旧校舎から侵入しようとしている俺にとってはまさに絶好のポイントとなっているのだ。

 扉を開けるのにも細心の注意を払う。

 屋上への扉という性質上、扉は鉄製であり開閉に伴いどうしても音が鳴ってしまう。もし警備員が近くにいようものなら、この音を聞かれて一発アウトだ。時間は惜しいがここだけは仕方がない。時間を余分にかけてでも静かに扉を開けてることにする。

 少しずつ開かれていく扉の隙間から中を伺うが、見える範囲で人影はない。誰かが歩くような音も聞こえない。

 そのままさらに扉を大きく開き、人一人が通れるスペースを確保し一気に中へと入り込む。


コツッ……


 入り込む瞬間、廊下に自分の入り込む足音が響いてしまった。

 もちろんそこまで大きな音ではなかったが、夜誰もいないはずの校舎内では必要以上に大きく響いてしまう。

 これを聞きつけられてはまずい。急いで近場の教室に隠れ気配を消す。

 一分が過ぎ、そして二分。三分。

 どうやら今の音は聞かれてはいなかったようだ。教室から音もなく抜け出し、これ以上の音を立てないよう目的地を目指していく。

 

 廊下を進み階段を降り、また廊下を進む。

 新校舎侵入から10分、校内へ入ってからは20分以上が経過したあたりだろうか、ようやく目的地である自分の教室に到着できた。

 自分のロッカーの中から課題を急いで抜き出し、持ってきていた鞄に突っ込む。


「ミッション達成っと」


 まだここから脱出するという工程が残ってはいるが、ここまで来てしまえばほとんど終わったようなもの。

 おそらくアドレナリンが多量に分泌している最中であろう、高揚した頭で帰路に就こうとしたその時だった。

 

 背後で何かが動く気配がした。

 

 振り返るまでにかかった時間は1秒となかったが、その間にこの場を乗り切るための言い訳を瞬時にいくつも考える。


 終わった。


 流石に今の状況で通用する言い訳などはありえない。

 俺は今、間違いなく夜の校舎内にいて、無断で侵入してきていることは間違いないのだ。それを警備員が見逃すとは思えない。

 それでも最後の悪あがきみたいなものだが、振り向くと同時に姿勢をかがめ体を机の影に隠し、少しでも視界から外れるよう画策する。もっとも、これもライトで照らされてしまえば一発アウト。まさしく悪あがきでしかない。

 覚悟を決め、これから先数時間にわたり行われるであろう説教を、少しでも穏便に切り抜けるための思考に頭をシフトしていく。


 が、何かおかしい。

 

 いくら待っても背後に感じた気配が、こちらをライトで照らすこともなければ、それどころか動く気配すら見せないのだ。

 これは一体どういうことなのだろう。

 単純に俺の勘違いだったのであればまさに結果オーライ。すぐさまこの場から退散してしまうのがいいに決まっている。

 だけどやはりそうではない。

 机の影になっているせいでその気配の正体を見ることはできないが、間違いなくそこに誰かがいるのだ。だというのに向こうからはなんらアクションがない。動く素振りも見せなければ、息遣いすらも聞こえてこないのだ。

 気配を殺しながらも、机の影で生唾を呑み込む。


 どうなっている?なんで動かない?


 一向に動きを見せない気配に、思考をフル回転させながらもその理由を考える。

 確かに俺が警戒を少し緩めていたのは認める。

 課題を手中に収め、ミッションコップリートなどと調子になっていたことに間違いはない。

 だからといって、周りの気配を何一つ気にしていなかったかと言われれば答えはノーだ。そもそもその何かが俺の背後に来るまでの間、教室の扉が開いた音などしなかった。

 もちろん元から開いていたということもありえない。それだけは教室に入る前にしっかりと確認をしているからだ。

 そもそも警備員だとしたら明らかにおかしい点がある。


 なぜライトを点灯させていないのか。


 疑問は尽きないし、答えも出ない。だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。いかに不自然な点が多かったとしても、相手が動かない以上こちらが動く他ないのだ。

 緊張のせいか浅くなっている呼吸を無理やりに整え、いつの間に額ににじんでいる汗をぬぐう。

意を決して机から少し顔を出し気配の方向を探ると、やはりそこには何かがいた。



いつも読んで頂きありがとうございます。


もし少しでもお気に召しましたら、ブックマークや評価を頂けるととても嬉しいです。


また次回もよろしくお願いします。


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