8話『魔法少女、鳴海夏恋の優雅な害虫駆除』
私、『鳴海 夏恋』は魔法少女だ。
……いや、何を言ってるのか分からないかもしれないけど、本当に魔法少女だ。
何をするのかっていうと、アベルシオっていう変な化け物を倒して金を稼ぐだけ。とても簡単で単純明快。
あれは私が小学生の時、夢の中に変な生物が現れた。その生物は私に、
『世界を救ってほしい』
と言った。
小学生の私は何も知らず、ただなんとなくイエスと答えてしまった。全く、こんなことになるなんて分かってたら………いや、それでもイエスと答えるかもしれないけど。
まぁなんにせよ10年以上前の話だ。今更とやかく言うつもりは無い。
それに、私は表でも仕事をして、金はそれなりに入っている。
なぜ仕事をしてるのにさらに金を稼ぐのか?
それはもちろん、
「富豪になって他人を見下したいから」
ただそれだけ。
☆☆☆
裏の世界にやってきた私は直ぐに異変に気づいた。
「何このアベルシオの数……」
過去10年、いくら小型とはいえ、こんなにいっぺんにアベルシオが現れたことは無かった。
「全く……何が起きてるのよ……」
私は今中級魔法少女。小型のアベルシオ程度なら魔力をほとんど消費せずに倒すことが出来る。
それに私が中級魔法少女になった時に選んだこの二丁拳銃『ゴルドレオ&シルバリオウルフ』さえあれば大型のアベルシオですら苦もなく倒せるだろう。……戦ったことは無いけど。
「あ、小型に紛れて時々中型のアベルシオもいるんだ……」
中型は昇級する時にひたすら倒したから、どこを狙えばいいのか、どんな攻撃をしてくるのかを全て把握している。
まずは眉間に1発。ゴルドレオから放たれた魔力の銃弾を中型に撃ち込む。
ゴルドレオは、『自分より弱い相手の体の自由を奪う』という特性を持つ。この場合の自分とはもちろん持ち手の私のことだ。
中型は体の自由を私に奪われ、そのまま地面に倒れ伏す。
しかしどうやら中型は諦めていないようだ。悪魔のような光を放つその眼が私を捉えて離さない。
「往生際が悪い……」
私は倒れ伏す中型に向け、シルバリオウルフを構える。
シルバリオウルフの能力は『トドメを指した相手の強さを奪う』だ。単純にトドメをこれで挿せば、私はこのアベルシオぶんの強さをさらに得ることが出来る。
私はシルバリオウルフを中型のこめかみに突きつけ、引き金を引いた。
☆☆☆
「全く……私の魔力も無限じゃないんだからそんなホイホイ出てこないでよね……」
私の魔力量はそれなりに多い。とはいえこう無尽蔵に出てこられると流石に疲弊を感じる。
「にしても、さっきから同じ方向にアベルシオが向かってる気がするのよね……」
今まで倒してきた奴らも、どこかに行く途中私と出会ったから襲いかかってきた、みたいな感じだった。どこかに集まっているのだろうか。
「ま、私には関係ないし、そろそろ帰ろ。明日も仕事ーーー」
私が表の世界に帰ろうとした時だった。
「!?悲鳴!?」
それは確かに男の悲鳴だった。悲鳴というか、断末魔というか、とにかく何かがあったのだろう。もしかしたら一般人が裏の世界に紛れ込んでしまったのかもしれない。
急いで声のした方に向かおうと振り向くと、
「……な、何……あれ……」
いつの間にか現れていた、とてつもなくデカい人型のアベルシオ(多分)が、ズシンズシンとどこかに向かって歩いていた。
というか、何かを追いかけているようだった。
「う、嘘でしょ!?大型は一軒家くらいの大きさのはずじゃ……!?それになんで突然あんなところに……」
しかし驚いてばかりではいられない。私はすぐに気を取り戻して、先ほど声のした方に向かって走り出した。
☆☆☆
全力で馬鹿でかいアベルシオの方に向かうこと二分。やっとアベルシオの目の前までやってきた。
「ちょっとあんた大丈夫!?」
私は目の前で尻餅ついている男性に声をかける。多分この人がさっき悲鳴をあげていたのだろう。
にしても、
「……なんでドレス姿?」
目の前の男性は、まるで私が初級魔法少女だった時のような服装をしていた。
「あっ、いや、これは違……って、おい後ろ!!」
「えっ……」
そう言われて振り向いた時、目の前には既にアベルシオの蹴りが目の前まで押し寄せていた。
当然避けられるはずもなく、私はーーー