5話『男は単純な生き物』
元の世界に戻るなり、ベルは俺に言う。
『表の世界で変身するな!!誰かに見られたらどう説明するんだ!』
ごもっともです。
「そ、それはほら、こう、魔法の力で記憶を消すとか」
『そんなこと出来るか!!魔法で出来ることにも限度があるんだぞ!!』
「わ、わかったよ……気をつけるよ」
『……ならいい。はぁ……にしても、中型アベルシオを一撃とは……なんでコースケはそんなに魔力が高いんだ?』
「さぁ?心当たりはない」
『そうか……まぁ、そんなことはどうでもいいな!』
「どうでもいいのか」
そんな簡単に流していい問題なのか。
『よし。今のコースケになら言っても大丈夫そうだ。』
急にそんなことをいいだすペル。
「は?何をだよ」
『実はまだ言ってないことが一つあってな……まぁ、直接見てもらうのが早いか。とりあえず僕についてきてくれ』
「ついてきてって……どこに?」
『裏の世界』
そして再び裏の世界へ。
「なぁ。この気持ち悪い感覚、まだ慣れないんだけど」
『大丈夫。そのうちだんだん気持ちよくなってくるから』
「それはそれでまずくね……?」
言ってることが確実に薬物的なアレだ。慣れたくはないな。
「で、どこ行くんだよ。結構遠いのか?」
『いや、ここでいい』
「は?」
ペルはパチンと指を鳴らす(どういう仕組みで鳴ってるのかはさっぱりわからない)と、目の前の空間に歪が現れた。
「ちょっ!?これ、さっきのアベルシオの時みたいな……」
『大丈夫。ほら、この中に入るぞ』
「入って大丈夫なのか!?」
『しつこいな!早く!』
「は、はい!!」
怯えながらも、歪の中に足を入れる。
しかし、何もなさそうに見えたその空間にはしっかりと足場が繋がっていた。
「よ、よし。フッ!!」
思い切って中に飛び込む。
歪の先に広がっていたのは……
「な、なんだここ……」
高層ビルのような、しかしどこか人間が作ったものには見えない、そんな建物の中だった。
ペルは呆然とする俺の前に立ち、
『ようこそ。ここは僕達ファベントが集まって作った施設、『テルミナス』だ。まぁ、何をするところかは中に入ればわかるさ』
と、言った。
☆☆☆
『やぁ。ペルだ。今日は新しい魔法少女を連れてきた』
『いらっしゃいませ。お待ちしておりました。魔法少女の登録ですね……………』
受付の耳の長いエルフのようなお姉さんがペルから俺に視線を移し、そして固まる。そりゃ魔法少女つってんのに男連れてきたらそりゃ固まるよな。
『な、なんて魔力量……!?これは歴代最高ですよ!?』
そっちかい。
受付のお姉さんはコホンと軽く咳き込み、では、と話を続けた。
『登録をしますので、もう少しこちらに近づいてもらえますか?』
「あ、はい」
ペルの後ろから横に移動する。
『では失礼しますね』
お姉さんは一言そう言うと、俺の頬をぺろっと舐めた。
「な、ななななな、なな」
当然フリーズする俺。
ペルが解説してくれる。
『この受付のお姉さん、『ララ』さんは対象の皮膚を舐めることで、あらゆる情報を読み取ることが出来るんだ。ちなみにこの人も僕と同じファベントだぞ』
『ふふっ。失礼しました』
優しく微笑むララさん。惚れてまうやろ!!
『はい。登録完了しました……あら?すでにアベルシオを2体倒してますね……しかも中型も……』
『そうなんだ。だから彼の口座にその分振り込んどいてもらえる?』
『かしこまりました。振り込んでおきますね。』
「ちょちょちょちょっと待って。なに振り込むって。何も聞いてないんだけど。」
ペルは、まだ説明してなかったな、と軽く嘆息し、説明する。
『流石に無条件でアベルシオ討伐を任せるのは理不尽ということで報酬を用意してるんだ』
「報酬?なんだよそれ」
『現ナマ』
「マジかよ」
現ナマが報酬の魔法少女って大丈夫なのそれ。しかも俺口座番号教えて無いし。個人情報ダダ漏れかよ。
「え、願いをひとつ叶えるとかじゃないの?」
『そんなこと出来るわけないだろ。少しは頭を使えよコースケ。』
完全に見下した目で俺を見る。コイツ……
「で、その金額は?」
俺のその問にララさんが答える。
『小型が1匹10円、中型が1000円、大型が10万円となっております。』
「10万!?」
なんでゼロが2つずつ増えて行くんだ……もうちょっと増加率下げてもいいんじゃないのか。
『現れるアベルシオの出現率が、小型が9割、中型が残りの1割のほとんど、大型はほとんど出ないのでそんな値段になってるんですよ』
「へ、へぇ……」
俺の考えが顔に出てたのか、しっかり付け加えてくれるララさん。
ってことはこのさっき倒した中型もかなりレアだったのか。
『さて、今日はもう帰ろう。いい時間だ』
「は?まだそんな経ってないだろ?家を出たのが昼前なんだし。」
『テルミナスと表の世界では時間の経ち方が違うんですよ』
「そ、そうなんですか」
『多分今頃は18時くらいじゃないか?』
「嘘だろ!?そんな経ってんの!?」
体感じゃまだ2時間くらいだぞ!?
テルミナスでは表の4倍くらい時間が経つのが早いのか……
『じゃあ、失礼する』
「あ、お邪魔しました…」
『はーい。頑張ってくださいねー!』
俺とペルはテルミナスを出て、元の世界の公園に戻ってきた。
「ホントだ……もう暗いじゃん……」
公園の時計は18時過ぎを指していた。
『さぁ、今日はもう休めコースケ。あれだけ派手に魔法を使ったんだ、身体は平気でも精神が壊れるぞ。』
「そうだな……なんか心無しかダルい気もする。」
と、いってもあくまでも心無しか、という程度だが。
ペルは俺に背を向け、どこかに向かって歩き出す。
『僕がアベルシオを見つけたらすぐコースケに教えに行く。それまでは普通に過ごしてていいぞ。』
「おう、わかった。じゃあな。」
俺はペルを見送り、家に帰った。
家に着き、飯を食い、風呂に入り、そして布団に入ったところで、
「(そういえば、あいつ帰る場所あるのかな?)」
とか考えたが、俺には関係ないことなのでそれ以上は考えずに眠りについた。