3話『夢オチなんて有り得ない』
「……やっぱり夢か……」
目が覚めるとそこは、俺が札幌に来てからずっと使っているベッドの上だった。
俺は寝ぼけ眼を擦りながら、1階のリビングへ足を運ぶ。
俺には両親と弟がいるのだが、両親は共働きで、海外で勤務してる為長期休暇の時しか帰ってこない。そして弟はスポーツ推薦で、有名な私立の高校に入学し、寮ぐらしだ。つまりこの一軒家には俺1人しか住んでいない。
はず、なのだが……
『おおコースケ!起きたか!』
夢だったはずのあの謎生物がソファーでくつろぎながらテレビを見ていた。
『あの後急に倒れるから運ぶのに苦労したぞ!全く、最近の若者は情けなングぺぇァ!?』
「何でお前がここにいるんだ!!」
たまたま近くにあったマグカップをペルの眉間に向かって投げつけた。
『な、何でって昨日言ったじゃないか!!今日は遅いから明日にしようって!!』
ペルは額をさすりながら涙目で訴える。ってことは……
「あれは夢じゃなかったのか……」
あれ、泣きそう。
そんな俺の心象も知らず、ペルは続ける。
『さぁコースケ!今日もどんどんアベルシオを倒していくぞ!!』
「い、いや、ちょっと待ってくれ。俺は昨日のことを夢だと思ってて、その、現実だとは思ってなくて……!」
『……ふむ。まぁ、わからなくはない。』
「わ、わかってくれるか…?」
『この僕の可愛らしい姿が現実に存在するとは思えないのだろう?それほどまでに僕は可愛らしいからな!!』
はっはっは。と高笑いするペル。ダメだ全然わかってねぇ。
「じゃなくて!俺、あんなこと出来ねぇって!」
そこでペルの目つきが急に変わる。
俺はペルが座っているソファーの向かいに座る。
『………そうか。だが、あれは全て現実。アベルシオのせいで起こる犯罪も少なくない。そしてだな。昨日は言ってなかったが、僕とコースケの出会いは偶然じゃない。』
「……は?いや、あの時はお前が倒れてたから……」
『そもそも、魔力の薄い人間には僕の姿は見えないのだ。』
「……で、でも事実お前はこうして見えて……」
『だから昨日お前が変身した時に言ったろう?』
昨日……変身した時……確か……
『や、やはり僕の目に狂いは無かった!!キミに頼んで正解だったよコースケ!!今まで見たことない魔力量だ!!』
「あっ」
『そうだ。今まで、多くの魔法少女を見てきたが、君ほどの魔力は見たことがない』
「そ、そもそも魔力ってなんだよ?」
ペルは、そこからか……と溜息をつき、真面目な顔で話し出す。
『魔力というのはズバリ、精神力だ。我々が今まで女児に魔法少女をお願いしていたのは、その純新無垢な魂がそのまま魔力に変わっていたからだ。大人になると色々なことを考えるせいで魂が複雑になっていく。いや、まぁ大人になっても魔法少女やってる娘はいるっちゃいるけどね。それに、女児は些細なことで精神を崩壊することが多々あった』
「お、おいそれって!!」
『あぁ。もちろん死者も出ている。』
「…………」
まだ幼い子供が死んでいる。
まだ未来に憧れを持つ子供が死んでいる。
「ッ………」
思わず吐きそうになるが、堪える。
『こちらとしても、それはしんどくてな……』
「……ま、まてよ。さっきからこちらとか我々とか…組織みたいな言い方だな……」
『まぁ、事実組織だ。』
「ってか…そもそもお前はなんなんだよ……」
『だからペルはペルと言って』
「そういうことを言ってんじゃねぇんだよ!!」
目の前のテーブルを強く叩く。手にジリジリとした痛みが広がるが、それも気にならない。
『そうだな……結論から言うと、我々もアベルシオだ。』
「な……」
『おっと勘違いしないでくれ。あくまでも我々は人間の平和を願って生まれたアベルシオだ。危害は加えない』
「………」
『アベルシオの中にはたまに知能をもった奴が生まれる。僕もその1匹だ。』
もはや俺にはただ聞くことしか出来なかった。
『そんな知能をもったアベルシオ達を総称して『ファベント』と呼ぶんだ。』
「ファベント……」
『我々は考えた。我々の力では到底、悪意の塊のアベルシオには勝てない。そこで、魔力の高い人間の力を借りることにした。』
「それが魔法少女か……」
『あぁ。そして話は戻ってくるのだが、精神、身体共に幼い子供では強いアベルシオには勝てない。我々も人間には友好的だ。そんな人間がボロボロになる様は見ていて心がとても痛くなる。それに、向こうで殺された人間は誰かが連れ戻さない限り、行方不明のまま。死体を食われたりすれば、もう見つかることはないだろう……』
そう語るペルは心の底から辛そうだった。
俺は返す。
「そこで、子供でなく、且つ心身共に成長した人間を探していたところ、俺と出会ったってことか?」
『そんなところだ……あっ』
突然ペルが間抜け面になる。
「ど、どうした?」
『すっかり忘れてた……昨日、確か……』
「そういえばお前、昨日ボロボロで奴がどうのって言ってたよな。」
俺がそう言うと、ペルはものすごい形相で、
『そう!それなのだ!!まずい……あれはまずいぞ……』
「な、なんだ?」
『この僕のキュートボディをボロボロにしたあのアベルシオはまだ……こちらの世界にいる……』
「はぁ!?なんでそんなこと忘れてんだよ!!」
ペルは俺から目をそらす。
『だ、だって昨日コースケの事で忙しかったし……』
「はぁ……でも、昨日のヤツくらいなんだろ?それなら……」
『違う!!奴はそんなものでは無い……』
「……?どういう事だよ?」
『アベルシオには三種類いるんだ…』
「種類?」
正確にはサイズ分けされてるだけなのだが。と付け足すペル。
『昨日倒したアレは小型。基準は……そうだな、大型犬からライオンくらいまでのサイズが小型に含まれる。』
「ライオンって……それ小型なのか?」
『それだけ他にデカイのがいるってことだ。』
それを聞いてゾクッとする。ライオンサイズで小型なら……
俺の予想が当たってるのか、ペルは頷き、続ける。
『そして小型以上、インドゾウ位までのサイズが中型だ。』
インドゾウ……実物は見たことないが、テレビとかで人間とのサイズ比くらいは見たことある。普通にトラックとかと同じくらいじゃなかったか……?
『そして大型は……』
俺の家を見渡すペル。この家に比較できるものがあるのだろうか
『そうだな。この家くらいだな。』
「い、家!?」
『小さくとも、な。』
小さくても家くらいだと……?うちの家、親がそれなりに金持ちだから、この辺ではかなりデカイはずだぞ…?
「そ、そんなの、人間が戦えるのかよ!?」
『そのための魔法だ。自身の精神力を魔力に変え、そして放つ。魔法の力は凄いぞ?それだけのサイズ差を埋めるほどのパワーだ。』
「へ、へぇ……」
『そして、昨日僕が出くわしたのは中型だ。』
「で、でも、この辺にも他に魔法少女がいるんだろ?それなら別に……」
『今この街に魔法少女は……一人もいない。』
「なっ!?」
『先日、この街最後のひとりの魔法少女がアベルシオに殺された。まだ10歳の可愛らしい子だったよ……』
「そん……な……」
再び吐き気が込み上げる。
『そこで、改めてコースケにお願いしたい。』
「………」
『魔法少女に、なってくれ』
昨日の軽いノリでなく、テーブルの上で頭を下げるペル。
しかし……
「お、俺にそんなこと……」
『頼む……もう、子供が死ぬのは見たくないんだ……』
よく見ると、テーブルの上が濡れている。………泣いてるのか。ペル。
その涙を見て、俺は決意した。
「……分かった。俺に出来るなら。今度こそ本気でアベルシオを倒そう」
『本当か!?』
テーブルから顔を上げたペル。やはりその目からは涙が零れていた。
「あぁ。俺のこのしょーもない命で他人を救えるなら、安いもんだ」
『………ありがとう……ありがとう……!!』
「いいよ。とりあえずさっさとその中型アベルシオを倒しに行こうぜ。」
幸い今日は土曜日。バイトもしてない、友達もいない俺には、家でやることなんてゲームやアニメしかない。
……たまには誰かのために動くのも悪くないかもな。
俺は動きやすい服装に着替え、靴を履き、外へ出た。