1話『1人の夜道に気をつけろ』
『突然ですが今日、転校生を紹介します!なんと東京の高校から来てくれました!!どうぞー!』
ドアの向こうで担任の先生が合図する。
その合図を聞いて俺はドアを開け、中に入り、そして教壇の前で自己紹介をした。
「はじめまして。東京都から来ました、五十嵐 輝介です。よろしくお願いします。」
☆☆☆
「……クッソつまんねぇ……」
北海道札幌市の端にあるこの高校、『松野原高校』の2年3組に転校してから早1週間。未だに誰とも仲良くなれないまま、俺は窓際の席で突っ伏していた。
「嘘だろ……俺ってこんなにコミュ力低かったか……?」
このクラスは去年、1年3組だった頃からクラス替えをしてないらしく、すでに周りでグループが出来ていた。流石にそんな中にホイホイ入って行けるほど、俺のコミュ力は高くなかったようだ。
スマホで東京の友達に連絡を入れる……が、返信は来ない。多分向こうは向こうでワイワイやってるんだろう。
………。
「………ハァ……」
今日何度目かわからないため息を吐いて、帰りのLHRが終わった。
☆☆☆
北海道の春は寒い。まだ雪は残ってベチャベチャしてるし、何よりも風が冷たい。
そんな帰り道を俺は独り、俯きながら歩いていた。
「……なんか部活入った方が良いのかな……」
しかし今更入ったところで、どちらにせよアウェーだろう。
……昔はもっと、自分に特別な力があるんじゃないか、とか考えたりしてたし、きっと自分にしか出来ないことがある、って思ってた。でも、やっぱりそんなのは夢、妄想、幻想で、現実の俺はただの一般人。この世界にごまんといる人間のうちの1人。
……もっと自分に才能があれば、こんな小さなことでいちいち悩まずにいられたのだろうか。
と、そんなことを考えてるうちに、完全に日は沈み、辺りは闇と化していた。
「……あれ、ここどこだ?」
しかも迷った。慣れない地で考え事をしながら歩いた俺の自業自得だ。
「……ツいてねぇなぁ……ん?」
よく見ると街頭に照らされて、何か小さなモノが動いている。動物だろうか。
興味をそそられ、恐る恐る近づくと、
「……な、なんだコイツ」
まるでウサギとネコとイヌを混ぜ合わせ、デフォルメさせたかのような二頭身の生物(?)が、倒れていた。
「……人形か?の割には質感がリアルだな……」
つついてみる。……フニフニしていて柔らかい。
『グ、ググゥ……』
謎の生物(確定)は苦しそうな顔で起き上がる。
そして口を開く。
『ふ、不覚だったギャ……まさかあんな所に奴がいるとは……』
…………?
今、謎の生物の口から、鳴き声にしては随分ハッキリとした日本語が聞こえたような……気のせいか?
『早く何とかして奴を倒さないと……』
「気のせいじゃねぇぇぇぇ!!??」
『!?な、なんだ貴様は!?』
完全に喋った。この面白生物絶対に喋った。夢でも見てんのか俺。
謎の生物は俺の顔を見て敵意を顕にする。
『き、貴様、このペルの愛らしい姿を傷つけようとしたギャか!?な、何者ギャ!!』
「ちょ、ちょっと待て!俺はお前が倒れてたから気になって見に来ただけだ!!何もしてねぇ!!」
必死に弁解する。……なんで俺は二頭身のデフォルメキャラに謝ってるんだろう。
『そ、そうか……ならいいギャ。でも、ペルの愛らしいボディに見とれちゃダメだギャ!』
「………」
なんだろうこのキャラ。すげー腹立つ。胸を隠すな胸を!!
落ち着いたところで俺は謎の生物に尋ねる。
「で、お前はなんなんだ?ウサギか?ネコか?イヌか?」
『ペルはペルだギャ。それ以外の何者でもないギャ。』
どうやらこの謎の生物はペルというらしい。微妙に可愛い名前してやがる。
「で、そのペルは一体ここで何してたわけ?」
『ついさっき、奴らに遭遇して不意打ちを食らったんだギャ。』
「ちょっと待ってその口調やめて。ウザ過ぎて殴りたくなる。」
『ペルの可愛らしい語尾をウザイ!?』
「可愛くねぇぞその語尾。」
『そ、そんな……せっかく可愛いと思ってキャラ付けしたのに……』
「ほら、普通に話せ普通に。」
ガチで傷ついたのか、涙目になるペル。なんだろう。一挙一動にイラッとくる。
「で?奴らってなに?カラスとか?」
『そんな雑魚といっしょにするな!!奴ら…『アベルシオ』はこの世界の裏側に存在する、人間に害なす存在だギャ……だ!!』
語尾を無くし、普通に喋るペル。だが……
「世界……裏側?」
何を言ってるのかさっぱりわからない。やっぱり夢見てんのか俺は。
『世界の裏側。それは、この世界から行き場を失った概念……感情や記憶、魂とかが集まる場所だ』
「て、天国ってことか?」
『そんなものは存在しない!!生物が死ねば必ず世界の裏側に流れていく。そしてそこで地球を回すエネルギーに変換されるのさ。』
「え、エネルギー……」
やばい。全くついていけない。俺が馬鹿なのか、それともペルが馬鹿なのか。それすらも分からない。
『とにかく、その世界の裏側でたまに起こる、概念の融合。様々な概念が集まり、生物のような形をとる。それが『アベルシオ』だ。』
「なるほど。わからん。」
『そのアベルシオが時々こちらの世界に紛れ込み、害をなす。普通の人間には見えないが、必ず何らかの影響を与える。』
「影響?」
『たとえば、弱いものであれば『頭が重い気がする』『肩がこりやすい気がする』など。しかし強いものなら、本人の意思に関わらず人を襲わせたり、狂わせたりするのだ』
「ま、マジかよ……ヤベェな。」
話が大きすぎて想像すらできない。プリ〇ュアみたいだな。
そしてペルが大きな目をさらに開いてこちらを見る。
『そこでお願いがある!……えぇと……』
「五十嵐 輝介」
『コースケ!貴様にそれを倒すのを手伝って欲しいのだ!!』
……まぁ、何となく予想はついてた。きっと何かしら俺に飛び火が来るって。
でも、どうせ夢なんだろうし、それくらいならやってやってもいいだろう。現実でのイライラを発散できるかもしれない。
俺はペルの願いを受け入れる。
「あぁ。いいぜ。俺に出来るならやってやるよ。」
『そうか!!助かるぞ!!ではコースケ!』
「ん?」
ペルは満面の笑みで俺に告げる。
『魔法少女になってくれ!!』