知らない案内図
―――遡ること5時間半前―――
ゴリ松と別れ一人になったユウ。
先程見事なまでの幸運によりゴリ松による指導を免れたユウは、
「ここはどこなんだ...」
完全なる迷子になっていた。
「なるほど、全く分からん」
職員室によく似た部屋から出て廊下を進み、来校者用の入り口を見つけたユウは壁に貼り付けてある校内案内図と書かれたボードを貪るように眺めるが、断念した。
「一体どうなってんだこの案内図!...ってかコレ本当に案内する気あんのかよ!?」
一般的に案内図を見る場合、目的の場所までの行き方を探すならまず現在地を確認する必要がある。
しかしユウにはその現在地を見つけるどころか、目的の場所すら見つけることが不可能だった。
何故なら、その案内図と表示されている図はただただ真っ白なボードなのだった。
「誰がこんなしょーもねえイタズラしやがるんだよこんちくしょう!」
あまりのくだらないトラップに怒りの感情は脳内だけでは収まらず言葉として次々とユウの口から発射されていく。
「これじゃあ俺の教室の場所どころか教室の名前すら分かんねーじゃねえかよ!」
やがて口からのミサイルですら留まらずそのボードを引剥してやると言わんばかりに手が伸びる。
「危ないッ!!!」
もにゅっ
あれ?ボードってこんな柔らかかったっけ。
思考が停止する。
「っっっ!!?」
そして思考が動き出す。
あぁ~なるほど。
つまりこういうことだ。
今俺が手を伸ばした瞬間、俺はボードを掴んだつもりだったけれど、それより先に俺とボードの間に割って入ったこの女の子を、更に詳しく言えば見た目よりずっと膨よかで制服を着ているにも関わらずこの何とも言い難い柔らかさを兼ね備え、いつまでも揉んでいたくなるようなこの子のおっぱ―――
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
視界が揺れた。と考える間もなくユウの顎から頬にかけての皮膚が大きく波打つ。
ユウのくちびるとユウの顎に見事な拳を放ったその子の胸とがぷるんぷるんとスローモーションで揺れる。
そのまま顎に引っ張られるようにユウの体は浮かびあがり、三回転...いや五回転ほど回った後、コマのように床に着地した。
完全に白目を剥き出してピクピクと体を痙攣させて寝転がるユウ。
ハッと正気に戻ったモハメド・アリを彷彿とさせる少女はユウの成れの果ての姿を見てキャアを悲鳴をあげ、駆け寄る。
「福村君!しっかりしてっ!!」
少女により体を起こされユサユサと揺らされる。
返事をしようにも、思うように声が...出ない...。
「一体誰にやられたの!?」
「お前だよッ!!!!!!!!!!」
めっちゃ出た。
「なんだ、良かった!」
ふぅっと安堵する少女。
「あの威力のパンチ入れといてなんだとはなんだ!!」
このやろうとムキになるユウだが彼女の一言で発言権を奪われる。
「そもそも福村君が、私の...胸を....」
かぁぁっと顔を赤らめもじもじと腰を揺らす少女。
「あぁ、今日のお日様は陽気だな...」
フッと空を見上げる素振りをしてみせる。
「壁に向かって何言ってんの」
「う、うるさいっ!そもそもお前がいきなり俺の目の前に現れたせいだろ!」
何も間違っちゃいないのにこの場面だと苦し紛れの言い訳にしか聞こえない。
「.....」
ジトッと無言で見つめられる。
まぁ言葉に出されずとも言わんとする事はおおよそ検討はつく。
「うっ...」
だが今後怪しまれない様に生活する上で弱みを握られるのはあまり好ましくない...
ここは多少強引にでも彼女にも非がある事を認めさせねば...!
「とにかく俺はっ...!」
「ゴリ松先生に相談しちゃおうかな...」
「靴を舐めさせて下さい」