プロローグ 知らない場所
普通。特に変わっていないこと。ごくうりふれたものであること。それがあたりまえであること。また、そのさま。
―――――――――――――――――――――――――――――――
問1
あなたは普通に生きていきたいですか?また、それは何故ですか?
俺は頭を抱える。
普通とは一体誰が決める?自分?親?世間?はたまた神?
分からない、だって俺は普通だから。
何故?
普通になりたいから?
自分は普通ではないと思い込む痛々しい思い込みを持っているから?
違う。だってそれは普通な奴が普通じゃなくなりたいからわざわざ苦労して異常者を装うのだろう?
ならそれは普通だから出来る考えではないか。
なら何故?
持っている馴染みのないシャーペンが震え出す。ソレと同時に手汗が滲む。
何故と言われても困る。
ただ普通になりたい、それだけじゃ駄目なのか。
コレに至っては理由の述べようがない。そうだろ?
例えば、料理人になりたい奴は料理が好きだから、作った料理を食べて欲しいから。それは分かる。
それに対して普通になりたい奴は何故普通になりたい?普通が好きだから?普通な俺を見てほしいから?ホラ、なんか違うだろ?
答えようがない質問に俺は目に見えない焦燥に襲われる。
「こんな問題・・・どうすりゃいいんだよ・・・」
不意に口が声を出した。
畜生駄目だ、もう、なるようになれ・・・!
制限時間ギリギリで俺はやっと、解答用紙の一問目を埋めた。
「はい、そこまでっ」
めぐちゃん先生と名乗る人の可愛らしい合図が教室に響く。
と、同時に教室にいる皆が皆、溜め込んでいた息を一斉に放出する。
「今回やばかったわ~」「やっと終わったよ~」「マジ疲れた~」
先程まで沈黙を貫いていた塊共が一斉に口を開いた。
「ハイハイ、じゃあ後ろの人は用紙を回収して持ってきてくださぁい」
めぐちゃん先生の愛おしい声も今ばかりはこの空間には響かない。
俺の解答用紙は窓際一番後ろに座る加賀という男にペラリと回収された。
「じゃあ皆さん、帰り道はくれぐれも気を付けて下さいね~」
ざわついた教室がそそくさと静寂を取り戻していく。
「はぁ・・・」
俺の中にあるちっぽけな幸せを逃しつつ、机に伏せる。
決して先程のテストで疲れた訳ではない。・・・それも多少はあるけど。
でもそれとは別に、運が良ければ俺のことを机だと間違えてそのまま帰ってくれるかも、なんて星座占いレベルのアテのない希望を願っていると、
「福村くん、行きましょうか」
ま、そりゃそうか・・・。
「やっぱりアレ、本気だったんだ・・・」
机に顔を伏せたまま、なめくじのような声で対応する。
「当たり前じゃない、冗談ならそもそもあなたになんて話しかけないわ」
彼女はまるで、害虫代表であるG様でも見るような目つきで俺を睨む。
「そ、そうですか・・・」
苦笑いしながら俺は重い腰を上げる。
俺は何故ここまで彼女に忌み嫌われているのか。
以前に何かやらかしたのだろうか。
わからない。
どうしてこんな嫌われている?
違う。そんな事は二の次である。
それより更に重大な事。
そもそも・・・
――――― こ こ は 、ど こ な ん だ ―――――