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中古のらくがき帳  作者: 暁 乱々
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人間煮詰まるとロクなことを考えない

仕事をしながら思いついたものです。

 設計・開発者というのは様々なものに追われています。(一応、本業なので断言できます)

 困難な仕様に限界まで切り詰めた納期に原価。もちろん仕様を満たすだけでなく、限られた範囲内で美しく、使いやすく仕上げなければなりません。さもなければせっかく開発しても競合に負けてしまいます。

 そのため、労働は熾烈です。肉体こそ使わないものの、残業が多い職種になります。一度、病気でKOされ転職エージェントに相談に行ったとき言われました。

「設計・開発で残業平均月30時間以下の求人は少ないですよ」


 えーっと、36協定の上限って年間360時間ですよね。さすがはブラック労働国家ニッポン、労働基準法違反は基本なようです。(月間45時間の基準を採用しているらしいですが……それはあくまで短期の話で間違っていると思うのです)


 現在の職場はブラック度が若干下がり、病気でKOはなくなりました。

 でも、労働の熾烈さは変わりません。原価と納期と極限までの品質はものづくりの定めです。残業に土曜出勤が重なり、疲労がたまります。するとロクでもない思考が頭をよぎるのです。



  ***



 あ~やばい。開発納期まであと1週間しかない。毎日徹夜前提で工期組みやがって、クソ!

 だいたい、冷蔵庫にAIっているのかよ。二重買いを減らす中身リスト機能とか、中身で献立提案とか、画像処理もメモリ消費も鬼なのに。第一、これ以上原価減らすと作れねぇよ。

 経営層は実際手を動かさないから分からねぇんだ、クソ。

 なんかアイディアないか?


 あ……。

 これだ! これなら、原価抑えられる。材料はやばいけど、これでテキトーに機能を繕っておけば、ヘロヘロで意識朦朧としたポンコツ部長の審査も通るだろう。



 一年後……。



 我が家は最近、冷蔵庫を買い替えた。さすがは最新機種、電気代が目に見えて安くなった。

 それによく喋る。ボタンを押すと、

「現在、じゃがいもが大量に入っています。人参・牛肉もありますので肉じゃがなどはいかがですか?」

 この通り中身が何なのか、扉を開けなくても教えてくれる。今日はオーソドックスだったが、激安に作れるフランス料理っぽいのも紹介してくれる。これで価格は5万円、破格だ。


 なのに俺はおっちょこちょいだ。

 しまった、またじゃがいもを買ってしまった。

 仕方ない。とりあえず日に当たらないよう冷蔵庫の中にしまった。

「はぁ」

 冷蔵庫の方から声がした。

「あなた、またじゃがいもを買ってしまったのですね……前のは芽が生えているというのに」

 ほんと、よく喋る冷蔵庫だ。うっとうしいほどに。

「ほんと懲りない人ですね。そろそろ真剣に怒らないと」


 冷蔵室の扉がゆっくり開く。

 ランプに照らされ見えたのは、長髪の女の姿。髪に顔は隠れその表情はいっさい見えない。

「あんた誰だ?」

「霊です。棚をすり抜けているので分かるでしょう?」

 女は冷蔵庫から身を出し、こちらに向かって歩いてくる。全身に寒気がはしる。

 俺は後ずさったが、すぐ台所の窓に当たった。女はゆっくりと近づき俺に手を伸ばす。

「ここ1ヶ月我慢していました。あなたはよくじゃがいもを無駄買いする。野菜室は容量限界。消費電力は増え、なによりも私の住宅環境が悪化する」

 女の凍えるような手が体に触れ、瞳のない白い眼が髪の中からのぞいた。


「な、な、なぜ、こんなのが冷蔵庫にいるんだ?」

「あなたが購入されたのは、霊蔵庫です。霊が入っている箱です」

「さ、詐欺だ! くっそ、○○社め。訴えてやる」

「残念ながら不可能です。取扱説明書を見てください。しっかりひらがなで『れいぞうこ』って書いてあるでしょう。ちゃんと冷却機能は装備されていますし、詐欺ではありません。それに裁判官が霊の話をして信じると思いますか? 笑われるだけですよ!」

「……」

「今後もおつきあいよろしくお願いします」

 俺は叫びをあげた。

「お憑かれ様です。これで懲りたでしょう。次は間違えないようにしてください」


 長髪の女はれいぞうこの中に帰っていった。



 開発者たちは日本中の叫びに目もくれず、今日もブラックな環境で妥協の産物を作り続ける。


  ***



 上記は小説です。ありえません。でも煮詰まるとロクなことを考えないというのはあると思います。私の場合、上記のように幻想に逃げたくなるのです。もちろん現実的に解決するしかないのですが。

 なお、上記の開発者は私じゃないですよ。れいぞうこは作っていません。冷蔵庫も。

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