閑話:嘘か真か
商業都市『バルゴナ』。
王国領に含まれるその都市は、ありとあらゆるものが集まることで有名である。
宝石、道具、書物からガラクタまで。
それは決して物に限ることなく、あらゆる種族の人種から、はたまた奴隷まで。
そんな人通りの激しい都市の大通りで、物々しい甲冑を身に纏った男女が窮屈そうに歩いていた。
「まったく、馬鹿馬鹿しい……」
叩き付ける様に紙を掲示板に貼り付け、悪態を吐きながら。
「あんまり口にするべきじゃないわ」
「そりゃわかりますけどね……どう考えたっておかしい、でしょっと」
配布された手配書を一定感覚で貼っていく。
意味があるとは到底思えないが、やるしかないのが現状だ。
「こんなん、死んだ人間を探すようなもんですよ。いや、もっとたちが悪いか……なんですか、肉片でも持ってきゃ満足するんですかね?」
「……そういう問題じゃないけれど」
「わかってますよ。ただのスケープゴートだ。一人に罪を被せて『王国に非は無い』ということにする。よくあることだってのはわかってますよっと」
ばし、と最後の手配書を貼り付け、手を払う。
悪事に手を染めているようで気分が悪い。
いくら自分たちが考えたわけではないとはいえ、それに加担していると思うと虫唾が走る。
「隊長だって、絶対に不満を抱えてるのもわかってます。だからこそ、ですよ」
「……そうね」
ありえない決断と、人を人と思わない判決。
死んでいる可能性が高いからこそ、死人に罪を押し付けた。
そのほうが都合がいい。死人に口なし。
誰がなんと言おうと異を唱える者はいない――異世界から引っ張り出した、天涯孤独であり、殺したって問題の無い人間を選んだのだ。
故人に泥を塗っても非難されることのないような人間を。
「胸糞悪い」
騎士というものは正義である。
騎士は民を護る者である。
そう教わり、そう成長してきた彼らにとって、王国上層部が下した判決はひたすらに気分の悪いものだった。
「とりあえず貼り終わりましたけど……どうします? とっとと帰りますか?」
「……いえ、もうすこし居座りましょう。嫌な予感がするから」
「へえ。それは隊長の予知みたいなもんですかい?」
「馬鹿言わないで。彼の未来予知とは別物よ。ただの勘。何かがこの街で起きそうな気がするってだけ」
「……外れるといいですねえ」
「そうね」
だが。
彼女の予感は的中する。
商業都市が内側から崩れかねない事件が始まろうとしていた。