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ぼくのなかにいる  作者: 人工的な深爪シール
1章:彼は世界を知る
41/56

039:戦果、十分

長い間更新せず申し訳ありません。

そしていつの間にかブックマークが20超えていて狂喜した私です。

ありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。

 苦しい。

 息ができない。

 胸を押しつぶされているようだ。

 身体が重い。

 服が水を吸って身体にへばり付いているためだろう。

 視界が悪い。

 純粋な水だけでなく土砂などを巻き込んでいるからだ。

 歯を食いしばって耐える。

 空気をできるだけ吐き出さないように耐える。

 濁流は全身を飲み込み、息を継がせることを許さない。

 濁流の衝撃は想像以上だった。

 水の弾丸を全身に食らっている気分――いや、まれに本物のような石の弾丸が飛んでくるから気が抜けない。

 全身を激しく打たれ続ける。


 それでも――僕が流されることはなかった。

 勿論、踏ん張りだけで耐えているわけではない。

 先ほど手をついたときに左手を土魔法で壁に埋め込んでおいたため、なんとか流されずに済んでいたのだ。

 無論、呼吸はできない視界悪い身体がだるいの三重苦ではあるが。

 『誰か』の魔法頼りではあるけれど。

 それでも――生き延びていた。


「――――っ」


 ただ、それも時間の問題である。

 オークもそうだが、何より僕の息が続かない。

 いくら異世界に来て規格外に成長しているとは言え、僕の力は()()()ではまだ人間の範疇だ――水中で何分も息継ぎなしでいられるわけがないのだ。

 早いとこ、無理やりにでも水面に近付かなくてはならない。

 しかし、僕は腕を固定してなんとか耐えている状況なので下手に腕を引き抜いたらオークのように流されかねないのもまた事実。

 少しずつ土を操って上にずれていくしかないか――いや、それも難しい。


「っ……!」


 多少操れるようになったとは言え、それでも不安定な僕の(誰かの)魔法である。

 ふとした瞬間に不発、もしくは暴走なんてしたら目も当てられない。

 けれど。

 だったら――どうすればいい?


 僕は耐えながら必死に頭を回す。

 必死に耐えて、考えて――耐えるという行為に集中していたからこそ、僕の体は()()()()()()()()()()()()()()に気が付かなかった。

 飛来してきたものが、僕の腹部をあっさりと貫通し僕の身体を後ろに持っていく。


「ごぼっ…………!」


 その衝撃により、必死に溜め続けていた空気が肺から一気に吐き出してしまう。

 慌てて右手で口を押さえるももう遅い――僕の徒労を嘲笑うかのように貴重な酸素は水面に消える。


 ああ、畜生。

 かなりもったいないことをしてしまったという自覚はあるが、なくなったものは戻らない。

 それよりも、あるものを――飛んできたものを見なければならない。


 酸欠によりぼやけてきた視界と意識をなんとか繋いで激痛を訴えている腹部を見る。


 槍。

 僕のわき腹を見事に貫通し、背後の土壁に僕の体を縫い付けている。

 槍が、正確無比に、僕の身体を背後の壁に縫い付けた――こんなことが出来るやつは一人しかいない。

 この形状。

 飛んできた方向。

 おそらく、異常種の槍だ――つまり、あのオークジェネラルも未だこの激流で耐え続けているということになる……!


 まずい。

 非常にまずい。

 何がまずいかと言えば一つは空気的な問題。

 もう一つは、あの異常種は足の踏ん張りだけで、僕と同じように耐えているということ――異常種が槍を投げられるほど平気でこの濁流を耐えているということがだ。

 なりふり構ってはいられない――とにかく槍をなんとかして引き抜いて上に上がらなければならない。


「…………っ」


 殺意が近い。

 殺気が痛い。

 この状況で――こんな水流の中で。

 オークジェネラルは殺気を纏って僕に這い寄ってきているのがわかる。


「……っぎ、うぅ、っ!」


 酷い呻き声を水中であげ、右手だけで槍を抜こうと試みるも、槍先が壁に刺さっているためか全く抜ける様子はない。

 威圧感は少しずつ確実に近付いている。

 水が濁っているため周囲の位置関係は把握できないが、おそらく、この水流を耐えているのはジェネラルだけだろう――他普通オークの殺意や威圧感がごっそり消えているあたり、流されていると判断していいはずだ。

 だから、今気を付けるべきはジェネラルのみだけで――そのジェネラルが迫って来ている。


 槍は抜けない。

 捕まったら確実に殺される。

 しかし僕が勝てないのは先の顔合わせで十分なまでに把握している。

 逃げるためには――やはり魔法しかない。

 死ぬよりは暴走したほうがまだマシだろう。

 イメージ。

 思い出せ――思い込め!


 ――(アース)(ピラー)


 呼吸は既に限界であるため、心の中で呪文を唱える。

 これもまた、無詠唱とかいう初めての試みではあったものの、なんとか無事に発動した。

 僕の埋め込んである腕及び槍が刺さっている壁の土を操作し、そこから柱にして土ごとそのまま水面上に体を押し出させた。

 久し振りの――空気。


「――ごほっ、が、ごほっ、ごはっ、はっ」


 酸素が足りないから吸う。

 血が胃から逆流するために吐く。

 泥が口の中にあるためにこれもまた吐く。

 吐いた泥は血便みたいだった。

 ……うぇ。


 ともあれ、なんとかどうにか、柱に磔にされたような状態ではあるものの、水上に避難はできた。

 ただ、とにかく土を上に隆起させただけだから槍が刺さっている腹部と左肩にものすごい体重がかかっている。


「っ、ぐ、が、あ、ああ……っ!」


 左肩はまだいい。

 ぶっちゃけ今までの負傷に比べたらそう大したものではない。

 しかし、槍は別だ――このまま体重と重力によって更に傷が開かれたらいくら多少『誰か』の回復力があるとはいえまずいかもしれない。

 僕は串刺しになったことはあってもそこから引き裂かれたことはないのである。

 串刺しも普通はないが。


「……っ、の、や、ろっ……!」


 優先すべきは槍の排除。

 とすれば――痛みに耐えて引き抜くしかない。

 できるならば、一思いに。


 再度右手で槍を握り、埋まっている左手で土魔法の準備をする。

 っふー、と息を吐いて――刺さっている槍周辺の土を操作して穂先を吐き出し、右手で思いっきり引き抜く――!


「――っっっ、うぁ、はっ、は、はぁ、はっ」


 ずりゅ、とか。

 そんな音を立てながら、かつ自分の内臓が引っ張られるかのような(多分本当に引っ張られているのだろうとは思うが)気持ちの悪い感覚を味わったものの、オークの身長ほどの長槍は無事に僕の身体から排出された。

 と、同時、柱に磔状態の僕を支えているものが左腕だけになったので、がくん、と急激にぶら下がる形となり……うん、多分肩が外れた。

 痛みがあまりないのはアドレナリンかエンドルフィンか……詳しくは知らないが、そういう脳内物質に頼っているのだろうと納得しておく。


「……っ、さて」


 ぶん、と槍を適当(オークがいなさそうな下流方面に向けて)に川へ放り込む。

 流石に拾ってくるようなことはないだろう、と思いたい。

 下を見れば、未だ川の勢いは衰えず――また、異常種の殺気も衰える気配はない。

 まだ、いる。

 僕の状態は服はボロボロ、酸欠、腹部に傷、多量出血、左肩脱臼。

 対してあちらのオークはせいぜい酸欠程度。

 割に合っていない――この比率だと、僕が死ぬくらいの代償を払って傷が付けられるかどうかだろう。


「……化け物め」


 こんな耐久力と火力を持ち合わせた異常種と他百以上のオークがそのまま村に襲ってきていたら、果たしてあの村は耐えることができたのだろうか――それとも、彼らは、カインさんに選ばれたあの十数人はそれを耐えられる人材で、僕のやっていることはまるで徒労なのだろうか。

 無駄なのだろうか、とか。

 考えて――それもまた馬鹿らしい意見だと思い直す。

 それは違うだろう、と。

 僕は、村の人たちが勝てる、勝てないではなく――そもそも戦わせたくなかったのだ。


 別に感謝されたいわけではない。

 僕より強い人たちが沢山居るのは百も承知だ。

 けれど、多分、僕は――あの村の人たちに、なにか。

 そう、言ってしまえば――恩を返したかった。


 善意が気持ち悪いとは言った。

 もっと疑いの目で見るべきだとも思う。

 裏切れば期待は消えるだろうと無理を言う。


 だけど――それらに感謝しないわけではないのだ。

 身よりもなにもわからない、何も持っていない人間に住む場所を与え、知識を教え、働く場所を与え、一緒に過ごす。

 それがどれだけ人として凄いことかはわかっているつもりだ。

 いくら心が壊れていようと、いくら人の気持ちに共感ができなくとも。

 それくらいは、わかっている。


 だから。

 だからせめて、受けた分は返さなくてはならない。

 裏切る形になろうと、なかったことにしてはいけない。

 裏切る形になろうと、それは返さなくてはならない。

 いくら無意味でも、やらなくてはならない。


 ゆえに――この化け物も、絶対に村に行かせるわけにはいかないのだ。


「『――操作(マレイト)』」


 僕は柱の土を操り壁の上に立った後、腕を埋め込んでいた土柱を壊す。

 壁の上に立ったとき、少々痺れ、立ちくらみが起きた。


「っ……と」


 視界が滲む。

 意識が混濁する。

 やはり、べたべたボロボロの服を着て、腹部に傷を付けられ多量の血を流し、川の中で激流に耐えていたのは効いているようだ――流石に長く浸かり過ぎた。

 多少は耐性が出来ているのではないかと思ったが、甘く見すぎたかもしれない。


 立ち続けるのは無理か。


 そう判断して、膝をつく――その瞬間だった。

 微かにしかわからなかった、オークの殺意が急速に襲い掛かってくる。


「――っ!?」


 飛びのこうとして――身体は反応できなかった。

 全身が痺れている。

 傷を負ったせいかもしれない――あのせいでより()()()のだろう。


 ――間に合わない。


 そう悟った瞬間、筋骨隆々、獣の腕が川の中から鰐の如く飛び出して、僕の右足を引っつかみ――そのまま川の中に引き摺りこもうとする。

 やっぱりコイツまだ全然余力を残している……!


「のっ……!」


 再度、引き摺り込まれる寸前で僕は左腕を土に埋め込んだ。

 かろうじて左腕がぎりぎり土に触れたことでなんとか間に合った――が、それは決して解決したわけではない。

 掴まれている右足を折られていないのは行幸だが――状況自体はむしろ今のミスのせいで色々と悪化している。


 今の状況は、言わばオークが鉤爪を壁に引っ掛けたようなものなのだ。

 このままではオークが壁を越えてしまう。

 おそらく、今異常種は壁に引っ付いた僕を利用してなんとか壁上に上がろうとしているのだろう――攻撃しないのは、下手に僕にダメージを与えて一緒に流されては元も子もないからだ。

 逆に、指先でもなんでもオークが壁に届いてしまえば僕の命はないに等しい。

 もしこの左腕を離してオークごと流されても、僕の命はないだろう――身体を掴まれているのだ、そのまま砕くことは容易のはずだ。


 どうする。


 ――生きろ。俺が行くまで死ぬことは許さん。


 どうする。


 ――君は僕らからしたら死んで欲しくない人間だ。


 ……どうする?


 ――助けろ。


「……は、だよな、やっぱり」


 本当、どうしようもない。

 結論は結局それなのだ。

 だが、それが最善手だ。

 オークが壁を越えて僕が死ぬか、オークもろとも流れて僕も死ぬか――どちらの『最悪』を選ぶかと問われれば、答えは決まってるよな。


「――――いくぞ」


 もはや呪文もなにも必要ない。

 思いのまま土は僕の腕を解放した。

 支えを失った身体は、流れのままに持っていかれる。

 オークごと。

 水位自体はオークの身長より高いため、水面付近の僕を掴んでいた時点で足が地面についていなかったのは把握済みだった。


 そうして一緒に沈み――オークと対面する。

 しかし、対面しても何も語ることはない。

 まあ、水中だから語れないとかそういう突っ込みは野暮だろう。


 僕の嫌に冷めた心境とは逆に、オークのその顔は憤怒に満ち満ちていた。

 作戦を台無しにされた怒りか、壁に到達できなかった苛立ちか、部下を殺された憎しみかはわからないが、僕に対する殺気は満々である。

 このままでは、僕の死は確実。

 もっとも――最後まで抵抗はさせてもらうが。


 まず手始めに、僕の右足はオークにそのまま握り潰された。

 めしゃっ、とあっけなく砕けた音が身体を伝わる。


「…………っ」


 だが、まあ、仕方ない。

 その程度の被害は想定内だ。

 掴まれた時点で、右足は捨てている――無事で済むとは思っていなかった。

 むしろそこからが勝負のスタート地点である。


 オークは僕の折れた右足を引っ張り、そこから更に胴体を掴もうと右腕を伸ばす。

 だが――いくら異常種とは言え、水中、かつ視界の悪い中伸ばした手がそう上手く僕に到達するわけがない。

 というかさせるわけがない。

 僕だってある意味人間の化け物カインさんに鍛えられた人間だ、その程度なら払って受け流せる――!


 右足の痛みに耐えながら腰を捻り、伸びてくる腕を払い落とす。

 仮に捕まっても胴体まで折られることはないだろうが、捕まったら水中での主導権を握られるに等しい――それだけは避けなくてはならない。


 激流に流されながらの攻防。

 傷口からの出血。

 長時間水中にいることによる痺れ。

 左肩脱臼により使用できるのは右腕のみ。

 無手。

 思うように動かせない水中戦。


 僕に勝ち目は万に一つもない。

 僕にとっての負けは『死』であるが、オークを殺せない僕にとって勝ちはない――せいぜい引き分け止まりだ。

 それでも、防戦一方でも耐えることが出来ているのは、やはり『誰か』が力を貸しているからなのだろう。


 伸びてくる右腕を右腕で応戦しつつ、思考する。


 先ほどは確かに、『オークもろとも流れて僕も死ぬ』という最悪を選んだけれど、それはあくまでも『最悪の中の最悪』だ。

 どうにかして『最悪の中の最高』を持ってくれれば引き分けにはできる。


 嫌がらせだろう、既に掴んでいる右足を更に握り締め、痛めつけられる。

 段々感覚がなくなってきた。


 そのためには――やはり『誰か』の力を借りるしかない。


 僕の悪あがきに飽き飽きしたのか、オークは僕の左腕を握り締めた。

 胴体が掴めぬのなら端から順番に潰していこうという算段のようだ。


 ――折られる。


 直感した。

 もともと左腕は脱臼したため動かしていなかったのを悟ったらしい。

 ここに来て冷静になるあたり流石将軍と言うべきか――いや、流されて僕一人の命に固執している時点で冷静ではないか。

 僕を殺したところで、オークが激流から脱出することは不可能なのだから、僕を殺そうと躍起になっている状態はとてもではないが冷静とは言いがたい。


 だから――そこが()だ。


 ――力を貸せ。


 ――本気で放て。


 ――()()()()()()()()


 火炎(ファイア)(ボール)


 じゅう、と。

 水中でもわかる高温が、僕の左腕から放たれる。

 当然――掴んでいたオークの右手は焼き焦げる!


「……っ!?」


 突然の反撃。

 防戦一方だった僕の唐突な魔法行使に対応できず、オークは僕の左腕を離した。

 残りは僕の右足を掴んでいる左手だけ――!


 僕は右手で左腕を掴む――肩が外れているための緊急措置だ。

 焦げるだろうが、多少の火傷は構わない。

 僕は身体を折り曲げて、できるだけオークに近付き――左腕の高温を維持したまま、掴んでいるオークの左手首あたりに押し付ける。

 魔法を放たずに維持し続けているため、腕の消耗が激しいが、前よりはマシだ。

 何せここは水中――火魔法が効力を満足に発揮できる環境ではない。

 ゆえに、維持していようと短時間なら動かせる!


「――――っ」

「――っ、ぅ、ぉ……っ!」


 後は我慢大会。

 僕の左腕か勝つか、オークの左手首が勝つか。

 耐久勝負である。

 オークも、ここで離してしまえば僕を殺せなくなることがわかっているためか、高温によって手首の肉が見えようと力は抜くことはなかった――が、その時。

 オークの左手の力が、ふっ、と緩まった。

 ()()


 その瞬間を見逃さず――僕は溜めに溜めた火炎(ファイア)(ボール)を撃ち出す。

 左腕に容赦なくゼロ距離で撃ち出された火炎(ファイア)(ボール)は、ごおん、と、魔法に似合わぬ衝撃を叩き込み、ついにオークと僕の距離を開かせる。

 左腕と右掌は焦げたが、しかし十分な戦果だろう。


 ――引き分けだ。


 僕は、衝撃によって次第に離れていくオークの顔を見る。

 手が離れたオークが最後にしていた表情は憤怒でもなく絶望でもなく――驚愕、である。


 ――何をした。


 そう言いたげな顔だった。

 それはそうだろう、ここ一番という所で腕が痺れ力が入らなくなったのだから。

 疲労ではない、それなら僕がとうに落ちている。

 ならば何か――僕に効かず、オークに効くもの。

 僕が出発直前にカインさんから受け取ったもの。


 ――これ、いいんですか?


 ――まあ、不安ではあるけどよ。


 ――だが、それはお前の戦利品だ。


 ――お前が持っとくべきだろ。


 ()()()()()

 それを、三十分の間に、上流の簡易ダムの中に()()()()()

 単なる水だけでは異常種を流すには弱すぎると考えたときに思いついた作戦だ。

 あの剣は抜刀中、なぜかは知らないが毒液が流れ続ける仕組みになっていたことを利用したものである。

 つまりそれを上流に刺しておけば、毒の川の出来上がり。

 そんな川が決壊してしまえば、そりゃあクラークさんたちだって帰っては来られないだろう。

 というか渡るのを躊躇する。


 あとはどれくらいの時間で効くかが心配だった――僕は馬鹿みたいに刺されまくったため、抗体ができていたのは良いが、それが僕の耐えられる範囲でオークに効果があるのかどうかがわからなかったのだ。

 結果、普通種オークは触れるだけで痺れ、全滅。

 異常種は、僕の服が毒によってボロボロになり、傷から侵入した毒と、長く浸かったために皮膚から侵食して痺れ始めたくらいの時間プラス、火傷による傷口から侵入した毒でようやく腕に痺れが出る程度だった。

 要するにほとんど効かなかったようなものだ。

 それでも――引き分けには持ち込めた。

 あそこまで毒が効かなかったのは誤算だったが、最悪の最高は引き寄せた。


 体重差、身体の面積の差により、オークとの距離は十分に離れた――とりあえず殺されることはなくなった。


 さて。

 ここで問題なのは、僕の息が既に攻防によって限界であるという事と。

 そして、先ほども言ったように――長く浸かりすぎたことである。

 まあ、結論だけ言おう。

 身体が痺れて動かない。

 勿論、現在位置は水中。

 抗体ができていることにより、溶け出す心配はないようだが――どうも、痺れを防ぐにはまだまだ耐性は足らないらしい。

 今の僕にできることがあるとすれば、そうだな。


 せいぜい、早く浅瀬についてくれることを祈るのみである。


 カインさん到着まで、残り、二十分。

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