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ぼくのなかにいる  作者: 人工的な深爪シール
1章:彼は世界を知る
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036:賭ける物

「っ、はぁっ、はぁっ……!」


 全力疾走で「銀風見亭」まで戻った僕は、急ぎ自分の部屋まで戻り、すぐさまある程度武器の回収を行った後、立ち止まる暇もなく宿を出て目的地へと進む。

 村の反対側まで来ると、森で正規ルートの警備をしていた冒険者――僕が火魔法で腕を焼いたときにあったあの二人が警備をしていた。

 一応、各方向に人は配備していた――いや、当たり前か、このくらい。


「げほっ、はぁっ、はぁっ」

「あれ、お前は確か」

「おい、んなとこ来てんじゃねえ、死にてえのか」

「少し話を聞けっての。どうした、なんかあったのか?」


 チッ、と人相の悪い冒険者が舌打ちをしたが、その言葉には十分僕の身を案じた言葉だったので甘んじて受けておく。

 事情。

 話すべきか?

 いや、でも勘違いかもしれないし。

 ならば、正確な情報を渡すために、今すぐに確認する方法は――


「っ、……木」

「き?」

「木、登ってもいいですか。少し、やりたいことがあるんです」

「この非常時にか。ふざけてんじゃねえぞ、ガキ」

「……今すぐ、カインさんに連絡を取りたいので、できれば高いところに行きたいんです」


 声通石を見せながら言う。

 正直、携帯じゃないんだからそういう性質があるのかどうかすら分かりっこなかったのだが、どうもそれと同じ仕様であったらしく、一応男達は納得した様子を見せた。


「……登れるのか、ガキ」

「一応。登れると思います。できれば高いところが良いですけど」


 僕の言葉を聞き、人相と口の悪い冒険者は素早く辺りを見渡す。

 特に言葉を交わさずに行動に移れる辺り、この男は外面が悪いだけで、かなり優秀な冒険者であることは伺えた。


「あれがこの辺りで一番高え木だ。周りの木を利用して上まで登れ。下は見ておいてやる」

「……ありがとうございます」

「落ちて死ぬんじゃねえぞ」


 さっさと行けよ、と顎を使って示す冒険者。

 それに僕はもう一度お礼を言って、指し示された大木へと向かう。

 森にある中でも一際幹の太い木であり、力強い根が地面に食い込んでいる。

 高さは――うん、多分大丈夫。


 僕はオーク戦のときと同じ要領で、ひとまず周辺の木の枝へと手を掛け、登る。

 あとはこれを僕の体重が耐えられる枝を見極めながら繰り返すだけだ。


 登りながら、一人願う。

 大事ではありませんようにと。

 カインさん達はなんだかんだ無事で、まだなんとかなる範疇でありますようにと――僕の命で引き換えにできる範囲でありますように、と。


「うし、見渡せるな」


 周辺の木より高くなり、これ以上登るのは危険だと判断した上で、周囲を見てみれば、周りの森を見下せる程度には高い位置まで来ていた。

 これなら状況把握は容易いだろう。


 登っている最中も殺意は感じていた。

 刃物を突きつけられる様な痛みすら感じた。

 あとはその方向――


 どくん。


 心臓が大きく鳴った。

 否――魂が大きく震えた。


 ――動け。


 あの声だ。

 最近は聞かなくなった、あの声だ。


 眼に鋭い痛みが走ると、僕の視力は有り得ないほどに上昇する。

『誰か』は変わらず、力を寄越す。

 お前が動けと。

 お前が救えと。

 そのおかげで――僕には見える。

 殺気だったオークの集団が、川よりもかなり向こうに、この村に向かって進軍しているのを確認した。


「ああ、くそ……!」


 嫌な予感は的中した。

 だが、何故だ。

 どうして討伐予定のオークがこちらに向かって進軍している?

 カインさんたちが失敗した?

 いや、それはないって言ったばっかりだろう。

 なら――


「カインさん達が出し抜かれた……?」


 ピークになるまで巣にいるという情報を利用した作戦ってことか?

 しかし、そんな簡単に騙されるものか?

 なにかおかしい。

 なにか――僕らには届かない者が操っているような感覚がしてきてしまう。

 そりゃカインさんだって人間だし、ミスはあるだろうけれど。

 絶対こんな状況にはさせないはずである。


「いや、とりあえずは……」


 声通石。

 魔力を込めることにより、決められた相手との連絡が可能になる石――だったか。

 そもそもの話、僕は未だ魔力ってなんだよと思っちゃあいるのだが、実際扱えてしまっているので深く考えない様にしている。

 現実的ではない「そういうもの」がこの世界には多過ぎる。


「使い方もっと詳しく聞いておけばよかった……!」


 今更言っても遅い。

 僕ができることは魔力なるものを石に込め、何らかの反応が返ってくることを願うのみである。


『トーマ君か!?』

「うおっ」


 唐突に声が聞こえて来た。

 どこからと言えば、手元から――つまりは声通石からだった。

 ……繋がったら少し光るとかじゃないのかよ。


『すまん、今ゴブリンとの戦闘中でな、手短かに頼む!』


 どうやら、繋がった先はクラークさんのようだった。

 いや、貰ったのはクラークさんからだから当たり前と言えば当たり前だが。

 ともあれ、まだカインさんたちは事情を知らない上、特に被害もないようだったことに安堵する。


「クラークさん、オークの巣の状況ってわかりますか?」

『いや、別行動だから連絡を取らないと把握できない、何でだ?』


 ゴブリンと交戦中……ということは既にオーク担当部隊と別れ、ゴブリンの巣で交戦しているということだろう。

 やっぱ今すぐには確認できないか。

 しかし、目の前に見えている光景は紛れも無い現実である――状況がわからないならばわからないなりに動かなくてはならない。


「……オークが、村に向かって来てます。多分百はいるんじゃないかと」

『はあ!? トーマ君それほんとか!?』

「嘘言ってどうするんですか」


 冗談にもタチが悪過ぎるわ。


『いや、まあそりゃそうだが……え、何? いや、トーマ君だが、っておいカイン!』

『トーマ、今の話は本当か』

「カインさん? ええ、本当ですけど」


 がさがさっと雑音がした後、声の主は切り替わる。

 戦闘中だからだろうか、いつもより声が低く聞こえた。


『…………今そのことを知ってる奴はどれだけいる』

「僕とクラークさんとカインさんだけです。一応、下にも冒険者がいますけどまだ伝えてません」

『数は』

「最低でも百。最悪の場合二百って感じです」

『位置は』

「昨日の堰き止めた川の中流あたりから……どうでしょう、速度的に三十分くらいの場所ですかね」


 昨日の作業のおかげで川の水位は減り、身長約二メートルのオークが進軍するには脅威になることはない――カインさんたちのために行ったことが、逆に裏目に出ててしまった。

 勿論、それを口にすることはない。

 カインさんもわかっているはずだ。

 その証拠に、それだけ伝えるとカインさんは押し黙り思考に浸った様子で、代わりにクラークさんが声通石を受け取ったらしく、再度クラークさんの声が聞こえて来た。

 焦っているような声である。


『トーマ君、今オーク討伐班と連絡を取った! 巣には五十程度しかおらず、他の異常種も見当たらなかったそうだ! 多分そいつらが……!』

「……やっぱりそうですよね」


 僕の目でも捉えられた。

 百以上いる大群の中、異色を放つ者がいる。

 パッと見ただけでも他とは違うと直感的にわかる威圧感。

 体躯も他のオークより圧倒的に大きく、強靭な肉体から普通ではないことは容易に想像できる。

 あれが――異常種(ジェネラル)か。


 考えろ。

 どうすればいい?

 何をすれば――僕はこの状況を打破できる。

 何をすれば――助けられる?

 何を――賭ければ。


『トーマ君、とりあえず逃げろ! 異常種は俺らだからいいが、普通の人間じゃまず無理だ!』


 逃げる?

 逃げて、どうするというのだ。

 散々僕は逃げて来ただろう。

 逃げて来た結果が――これじゃないのか。


 命は大事だ。

 それはわかる。

 けれど、助けなくてはならない。

 動かなくてはならない。

 矛盾した思いを抱えながら、僕の魂は揺れ動く。

 それは誰の思考なのだろうか――それは誰かの思想なのだろうか。

 じゃあ、僕の考えはいったいどれだ?

 わからない、が――それは、どうでもいい事項である。

 だから、僕は。


『トーマ、俺は今からそっちに向かう。ゴブリンの異常種は既に仕留めた。それまでお前にはして貰いたいことがある』

「……、して貰いたいこと、ですか」


 ぐっ、と引き戻される感覚。

 今、僕は何を考えていたのか――そう、大したことではないけれど、ともかく、カインさんの話に耳を傾ける。


『異常種はお前には倒せない。それはわかるな』

「はい」


 ズバリ言われた。

 倒せない。

 ああ、その通りだ、倒せるわけがない。

 それはわかる。

 ()()には絶対に倒せない。

 だから。


『だから――時間を稼げ』

「…………!」


 その言葉に、僕の思考はしばし停止する。

 思いもよらぬことを言われた。

 てっきり僕は――カインさんなら「逃げろ」と言うと思っていたのに。


『お前が俺が帰るまでの時間を稼げ。勿論そうさせるための条件もあるが』

「……いいん、ですか?」


 僕は――思わず聞いていた。


『何が』

「僕に戦闘を許しても」


 今までの僕の行動上、何をするかわかったものじゃあないはずだ。

 実際、神に『無茶苦茶な神経』と評されたし。

 僕が動くことで状況が混乱することだってあり得なくはないのだ。


『いいわけねえだろ』

「…………」


 バッサリと言った。

 だよなあ。

 でも、それだったら何故なのだろうか。

 何故、そんなことを僕にやらせようとする?

 そう思うと、それを察したようにカインさんはあっさりと理由を言った。


『死なせるわけにはいかねえからだよ』


 と。

 さも――僕を殺してはならないとでも言うように。

 僕を、死なせないとでも、言うように。

 散々、誰からも無価値だと言われて来た僕を――有益である、と言ったのだ。


『お前は前も言ったように危ういんだよ。放っておいたら勝手に結果だけ出して死にそうな人間だ。いいか、俺が帰ったら死んでたなんて結果は認めねえ。たとえ異常種が倒せていようと、お前が死んでたら俺はお前を殺す』

「……死んでるのにですか」

『そのくらいの恨みを食らうと思えってことだ』


 ふう、と溜息を吐いたような音の後に、呆れた声が聞こえてくる。


『どうせお前のことだから自分一人でなんとかしようとでも考えてたんじゃねえのか?』

「……どうですかね」

『断言してやる、絶対死ぬ気だっただろうが。そんなことはさせねえぞ。けどお前に逃げろって言っても聞かねえだろうからな』


 だから――時間稼ぎ。


『時間を稼げ。わかるか、時間を稼ぐっつう意味が』

「……はい」


 わかっている。

 嫌という程わかる。

 お人好しのカインさんだからこその、命令の意味。


 ()()()()()()()()、時間は稼げない。


『生きろ。俺が行くまで死ぬことは許さん』

「……はは、なるほど。逆に言えばそれまで耐えれば対処できるってことでいいですかね?」

『当たり前だ』


 なるほど、ならば頼もしい。

 時間を稼ぐだけなら――死ぬ可能性は抑えられる。

 もっとも。

 大怪我をする可能性は否めないのだが。


「……わかりました。じゃあ僕から時間を稼ぐに当たって二つほどお願いしてもいいですか?」

『ああ、いいぜ、聞いてやる』

「じゃあまず一つ目」


 僕は一旦言葉を切り、呼吸を整えて、たった今思い浮かんだ作戦を口にする。

 第一声の返事は反論であることを予想しながら。


「村に帰ってくることを、諦めてください」

相変わらず展開遅いです。

今回文が薄いので後に修正するかもです。

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