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ぼくのなかにいる  作者: 人工的な深爪シール
1章:彼は世界を知る
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028:建前

「魔法の扱い方?」

「そう、トーマ君に教えてあげられない?」

「でも、それってリューナさんのほうが良いんじゃないですか?」

「まあ、そうなんだけれどね、問題は彼の制御なのよ。なんていうか……あの威力には確かに助けられたんだけれど、まるで失敗したみたいな魔法の生成だったのよ。だから、制御できるまで練習をさせてあげたいのだけれど……」

「あの火力を吹き飛ばせるのはファルリアちゃんしかいないんだよね。しかもあたし達は暴走(スタンピード)関係でそっちに行かなくちゃならなくなったし……」

「いや、でも私そんな教えるの上手じゃないし」

「でも、仲はいいでしょう? こういうのは根気よく教えられる人が必要なのよ」

「別に仲がいいってわけじゃ」

「じゃあそういうことで、よろしくね」

「えっ、ちょっと」

暴走(スタンピード)が落ち着いたら何か奢るから!」

「だからちょっと待っ――」


「と、いった話になりました」

「はあ……」


 場所は移って『銀風見亭』の裏庭。

 軽い芋やら果実やら栽培される畑があり、他にも井戸やらなんやら宿に必要そうなものが取り揃えられたスペースがあるくらいには広い空間が確保されているその場所で、芝生の生えた自由空間の一角で、僕は地面に胡座をかきつつ何故か教授を受けることになった魔法うんぬんの経緯を聞いていた。

 というか、お前最後押し付けられてるよな。

 あのお叱りの後にそんな提案ができた二人には素直に感心するし、そんな提案をしたあの二人を疑問にも思う。


「だから、これからトーマの魔法を見てあげるよ」

「いや、ノーサンキュー」


 間髪入れず答えた。


「なんでよ」

「もう魔法を使うつもりがないからだが」


 話を聞いてみれば、僕の暴走する魔法を制御するためにファルリアが手伝ってくれるらしいが……しかし、僕は練習したところで制御できるようになるとは到底思えなかった。

 あれはきっと、そういう類ではない――暴走したことだって至極当然のことなのではないかと思う。

 よく考えれば、急激な身体能力の上昇だって、その異常な力に身体が追い付けず、骨や筋肉が壊れていたっておかしくはないはずなのだ。


 それが今回たまたま、魔法で腕が焼き焦げたという結果で現れただけであって――身体能力の強化だけで行動不能になっていたっておかしくはなかった。


 その『誰か』の力が行き過ぎると、僕の身体がダメージを受けるという、その危険性。

 力に見合わない僕の身体では、その力そのものに耐えることすらできないという警告だったりするのかもしれない。

 だから、できる限り使わない。

 そうするのが最も安全だと判断した。

 ……まあ、割と僕の意思とはまるで関係なしに飛んでくることがあるので、気休め程度の心構えだが、ないよりはマシだろう。


「使わないと練習にならないでしょ」

「ぐ」


 しかし、ファルリアの反論はさっぱりしたものだった。

  ……確かに、使わなければ力は衰えるものだし、逆に言えば使えば使うほど制御だってし易くはなるというのは一般的な知識だ。その常識が『誰か』に当てはまるならば、もしものときのために練習はしておきたいのが本音ではある。


「だけど、ファルリアにメリットないだろ。どうしてそこまでするんだ?」


 僕は素朴な疑問を口にする。

 そう、これをファルリアがやる理由がまるで見当たらない――いや、確かにあの火炎球(ファイアボール)に対応できるならそれに越したことはないのだが――それにしたって、ここまで手伝ってくれる理由はない。

 普通、巻き込まれない限りは勝手に死んでろって感じじゃないのか?

 アーネットさんだって、リューナさんだって。

 カインさんは僕が迷い人だと思っているからというのはあるが。

 頼まれたって、ここまでするか?


「メリットって……普通、知り合いが怪我するのを黙って見てるなんてできないでしょ」

「……うーん」

「トーマってさ、私のこと凄い冷たい人間だと思ってない?」

「違うのか?」

「……私、目の前で肯定されたの初めてだよ」


 むぅ、と唸るファルリア。

 もしかしたら僕は思ったより『気に入らない』というセリフを根に持っているのかもしれなかった。


「とにかくね、メリットならあるよ」

「お、あるのか。どんな?」

「まあ、これはトーマにやってもらう必要があるんだけどね……魔力提供」

「……?」


 これはまた変わった単語が出てきた。

 その言葉のままに受け取れば魔力が提供されるってことなんだろうけど……どこからどこに?


「えっとね、当たり前だけど魔力は魔法を使うと減るでしょ? 普通は休んだりご飯食べたりすれば時間経過で回復するんだけど」

「うん、それで?」


 さも当然らしい言葉に首肯する。

 まあそんなもんなんだろ、程度の認識しか僕には出来ていないが、話の腰を折ることでもないので続きを促す。


「それ以外で……えっと、自分で回復する以外の方法のうちの一つが魔力提供って言って、それをすれば、自分で回復する必要がなくなって、魔力が切れてても供給さえされればまた魔法が打てるようになるし、本来魔力の回復に回るはずだった回復力も身体に回すことができるんだよ」

「ふむ」


 何回廻ったか知らないが、取りあえずそういうものだとして理解する。


「そうすると、私の身体は元気になって、活力に満ちる。それが魔力提供。あと、逆に魔法を一時的に渡す、なんてのもあるよ」

「……まあ、なんとなくわかった」


 最後は凄いざっくりとした説明だった。

 要するに魔力が供給されれば時間をかけずとも魔力が回復して、その相乗効果として体力が増えたりするってことで良いんだろうか。


「……それって傷の治りが速くなったりするのか?」

「ん? ……ん、そういった効果もあるみたいだね。まあ、トーマのほうが怪我してるし、普通ならトーマが受けるべきなんだけどね」

「ふうん……」


 傷、ね。

 まあ、そのあたりは僕が気にすることでもないし、気にして欲しくもないだろう。


「で、ファルリアの身体が元気になることは別に構わないけど」


 ただ、僕はまだ肝心なことを聞いていない。


「それ、誰がやるんだ?」

「え? トーマが私にするんだけど」

「…………」

「…………」


 いや、やっぱりそういう流れだとは思ったけどさ。

 一応、僕自身が納得のいくように念のために訊く。


「その魔力提供ってさ。魔力を()()行為だと思っていいのか?」

「うん、私はそう思ってるけど」

「つまり、僕の数少ない魔力を更に搾り取ろうとしているという考えでいいのか?」

「うん? 数少ないって、誰が」

「僕が」

「…………」

「…………」


 何だろう。

 気のせいかもしれないが、馬鹿にされている気がする。

 そんな視線をファルリアから感じる。


「えっとね、トーマの魔力量、私より多いくらいなんだけど」

「いや、そんなわけ――」


 ないだろ、と続けて否定しようとしたとき、あることに思い至る。

 確かに、僕は魔力がなかったはずだ――それは王国で判断されたのだから間違いではない。

 だから、()にはない。

 でも、もし。

 僕は、そういった魔力でさえ常に『誰か』から供給されているとしたならば、有り得ない話でもないのか?

 いや、むしろそれくらいあって当然か。

 身体能力を強化して、魔法の才能も寄越して、魔力だけないなんて真似はしないだろう。


「……ふうん。まあ、ファルリアがそういうならそうなのかもな」

「私も人間にしては多いほうらしいけどね。強い魔族には劣るらしいけど」

「へえ。それで、その魔力提供ってどうすればいいんだ?」


 既に僕が魔力提供を行う前提で話が進んでいる感じは否めないが、一方的に手伝ってもらうのも気が引けるから、これはこれでいいだろうと納得して――その方法を訊いた。

 訊いたのだが、ファルリアは目を逸らして一瞬躊躇した後、手を差し出してきた。


「えと、ね。手」

「て?」

「だから、手、貸して」

「? ああ」


 特に思うことはなく、自然に手を出す。

 ファルリアは、僕の手を取って。

 そのまま、自らの心臓の位置へと持っていった。

 要するに、胸の位置である。

 微かな膨らみが、手のひらに伝わった――ような気がする。

 ……わー。

 本当、胸ないんだな、ファルリア。


「…………」

「? どうしたんだよ、ファルリア。僕はこうやって手を出しておくだけでいいのか?」

「――っ!!」


 瞬間。

 僕が発言した瞬間、ファルリアの顔が赤くなったような気がした――その瞬間だった。


「――『風槌(モーラト)』」


 僕の全身に、寒気が迸った。

 殺気に近い感覚である。

 咄嗟にファルリアの手を振りほどき、全力で身体を後ろに逸らして飛びのくのと、何か巨大な不可視の物体が先ほどまで僕がいた空間を抉り取ったのはほぼ同時だった。


 おい。


 おい。


「何してんだお前!?」


 明らかに今の音はやばいだろうが!

 ごおっって言ったぞ、ごおっって!


「っ、その、ごめん。動揺した」


 いや。

 そんなレベルじゃないだろ、あれ。

 殺気に近かったというか、ほぼ殺気のそれだったぞ。

 あとなんでお前が動揺するんだよ。


「……これ、本当に魔力提供、なんだよな?」

「……うん、そうだよ。テストも兼ねてたけど」

「テスト?」

「……気にしないで。気を取り直して、もう一回やろ」


 ん、と手を差し出してくるが。

 いや、無理だろ。

 怖過ぎるわ。

 そうしていつまでもまごついていると、ファルリアは無理やりに僕の手を取って、また心臓の位置に手を当てた。

 おい、大丈夫かほんとに。


「落ち着いて。ちゃんとするから」

「落ち着くのはお前だ」


 不当な注意を受けたので一応訂正してみたが、顔を赤く染めているファルリアには逆効果だったらしく、神経を逆撫でするような結果になってしまい、余計に不機嫌にさせてしまう。

 具体的には、


「うるさい。とにかく言う通りにして」

「……わかった」


 みたいな、かなり珍しい口調で言い放つくらいには不機嫌である。

 ……まあ、何をするか僕には分からないんだし、取り敢えずは大人しく言うことを聞くか。

 下手に逆らうとまた魔法が飛んできかねない。


「――っふー……」


 呼吸を落ち着かせて、目を瞑る。

 視界が闇に染まる。

 僕が落ち着いたころを見計らったのだろう、自然な呼吸に戻り始めたとき、ファルリアは目を瞑っている僕に向かって開始を宣言する。


「じゃあ――少し()()()()

「――っ!?」


 僕が何かをする前に――何か抵抗する前に。

 ぐるん、と。

 全身の血が逆流したかのような嘔吐感に襲われた。

 心臓が捻られたような感覚。

 そんなわけがないのは頭では理解している。

 だが、その感覚がどうしても拭えない――これはどう考えても、何かが逆送している。

 流れに逆らっている。

 逆らって――外へと流出している。

 これが、魔力ということか?

 ということは、行き先は――


「――――」


 声が出せない。

 気分が悪い。

 身体の中のものが奔流し、様々なものが流されていくような気分だ。

 流れて、流されて、抜けていく。

 そうして数分。

 ついに嘔吐感が限界に訪れようとしたとき。

 唐突に逆流が止まり、手のひらにあった感触も同時に離れた。

 全ての感覚が正常に戻る。

 全ての機能が正常に復元される。

 その感覚は、逆に僕の感覚を混乱させ、悪化させた。

 思わず二、三歩後ずさる。

 かなり気持ち悪い。


「――っは、は。っは、ぁ」


 この気持ち悪さは酸欠からだろうか。

 今まで呼吸の仕方を忘れていたかのような、感覚。

 足りなかった酸素を補うように、僕は咳き込みつつ呼吸を整える。


「――っは、っは、っぁ、あ」


 チラ、と顔を上げファルリアを見ると、僕と同じく、額に汗を浮かべ、頬を上気させて息を整えていた。

 ……そこまで気分を害するものだとすると果たしてメリットだと言えるのだろうか。

 いくら魔力が回復するとは言え、これはキツイだろ。


「……なあ。これで、いいのか?」

「っ!? っ、う……うん、いいよ。魔力沢山貰ったから、いくらでも魔法が使えるよ、うん、うん、大丈夫、うん」

「…………」


 …………反応おかしくねえかお前。

 気持ち悪かったって感じじゃないんだが。


「…………」

「…………」


 お互いに見つめあい、観察している。

 ファルリアの視線には、気まずさと、照れ隠しのような目線、気恥ずかしさのようなものが含まれており、その視線を受けている僕としてはかなりやり辛い。

 なんだろう、この後ろめたさ。

 僕は言われた通りにしたんだよな?

 した、よな?


「――じ、じゃあ、練習やろっか。これなら途中で魔力切れすることもないだろうし」

「……わかった」


 本当に成功したのか、そもそも僕に何をしたのか、なんでこんな気分を害するのか、こんなことをメリットと呼べるのか、とか色々言いたいことはあったのだけれど、なんか微妙な空気になってしまったので喉まで出掛かった言葉はうやむやになった。

 それはファルリアも感じ取ったのだろう、お互いに気が付かない振りをして、話を強引に切り上げる。

 そそくさとファルリアは僕から距離を取り、呼吸を落ち着かせている。

 この空気のまま魔法訓練に移るらしい。


 ……その姿を見て、なんとなく、だが。

 この魔法訓練はおそらく簡単には終わらないということを、僕は直感に近いものを感じて今後の展開を憂いたのだった。

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