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異世界漂流記  作者: yakuta
第1章
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終わりと始まり

「あーもうダメだ」

「あんた大して動いてないやないの」

「そりゃまぁ美樹ちゃんと比べられちゃかなわねぇよ。けどまぁ、俺なりに頑張ったのよ?」

「なっさけないないなぁ。あんたそれでも男かいな!?」

「はっは、返す言葉もありませんで」

 日が暮れた。世界が闇に閉ざされる。ここは体育館。扉は閉ざされ、二階の窓には見張り役が張り付いている。

「平気?」

「ん、あぁ気にする必要はない。ただのかすり傷だ。こんなもの、唾でもつけておけば治る」

「そ。いちお、薬置いとく」

「すまんな」

 影の獣は撃退された。幸いにして、怪我人らしい怪我人はいない。現在、九条和也を除く全員はこの体育館の中に立てこもっていた。

「なにか心当たりは?」

「ないわね。……いえ、でも」

「何かあるの?」

「いいえ、違うわ。あれは、もっとずっとおぞましい。一目見ただけで分かるほどに」

「そっか。あれっていうのが気になるけど、とにかく分からない、と」

「ええ、残念なことにね」

 見張りを立ててはいるが、今のところ逃げた影の獣が再来する気配はない。とはいえ、気を緩める事などできるはずもなく、無理に自然に振舞おうと、空気はどこかぎこちなかった。

「よぉう見直したぜお前! えっと、名前はその~ほらあれだ八だハチ!」

「い、いえ、それほどでも……えっと、それと八尋です」

「なんだってぇ?」

「ううんなんでもありません!」

「もっと堂々としてろよハチ! お前はすげぇ奴だよ!」

「そ、そうですかね……」

 皆思う。これからどうなるのだろうと。意味の分からぬ現実を、久方ぶりに、如実に思い出していた。

「外になにか?」

「…………?」

「……ふむ、やはり発音に問題があるようですね。しかしこればかりは難しい」

「――――」

「…………すいませんもう一度」

「――――」

「……あ! あぁなるほど。そうですね、後ほど、田中君にでもお願いしてみます」

 それぞれがそれぞれなりに、今を見つめていた。



「しっかし、どうなんのかねぇ~ジッサイ」

 しばらく経ち。体育館内を静寂が支配しだした頃。ぽつりと、思い出したように富田賢司が呟いた。

「や、だってさ、あんなんがまた来たらどうすんの!? てか来るでしょ絶対」

 視線が集まったことに居心地の悪さを覚えて、賢司は言葉を更に続けた。しかし、返ってくるのは沈黙のみ。賢司の顔色が、みるみる悪くなっていく。

「あんなもの、一匹二匹増えたところでどうということはない。撃退するだけならば、容易だ」

 と、天から声が。いや違う。見張りの番を変わり二階にいた岩滝仁の声である。座り込んでいるのか、その姿は一階の者からは見えない。

「それは頼もしい限りですね。実際、どのくらいならば?」

「あれと全く同じ程度の動きしかできんのなら、五・六匹は同時に相手取れる。一匹ずつでもいいのなら、幾らでもやりあえる」

 声は淡々。そこに感情はこもっておらず、故に仁の心情は筒抜けだ。

「……あら相当にご立腹みたいやなぁ」

「……ほとんど一人で相手取ってかすり傷一つなのに、よくもまぁあそこまでムキになれるもんだ」

「……戦闘馬鹿」

「ぶ、部長はストイックな方なんです!」

「ば、声でけぇよ!」

「す、すみません!」

 八尋の声とほとんど同時。聞こえているぞとの怒声が、静かに、重く降り注いだ。皆、一旦閉口。

「や、ま最悪逃げりゃいいだろ逃げりゃ」

 沈黙が嫌いな賢司は、無理やり明るい風に叫んだ。外は樹海。何があるか分からない。だが、最悪――どうしてもこの場にとどまれないというのであれば、例えばあの影の獣が大群で迫ってこようと、逃げる場所と足がある。それはどうしようもなく考えたくない結末だが、しかし絶対的に希望がなくなることはない。賢司の言葉は、そんな強がりに聞こえた。

 賢司はふと気が付く。空気が重い。ただ重いのではない。イラッとくる、どうしようもない重さを放つ存在がいる。

 目を向けて、賢司は少し驚いた。その空気を放つのは、向井速人だった。


「逃げられませんよ」


 なにか知っているのか。問おうとした賢司は、しかし言葉を吐きそこねる。阻んだのは、神代修司の声だ。その声はこの上なく平坦。例えば昨日なになにを食べた、とかそんなどうでもいいことを言うかのような声だった。

 だがその内容は、ふーんと聞いて流せるものではない。

「……今、なんて言うた?」

 疑問の声は、しかし遠野美樹のもの。美樹は笑う。

「ははは、生徒会長さんも大変やな。こんな状況でも、周りに気ぃ使わなあかんとわ。せやけどもちっとボケは磨かなあかんで? 全然笑えへんよそんな冗談」

 確かにそうなのだ。なにせ、逃げられないわけがない。全員五体満足。唯一現実を残すこの場所から離れるのは名残惜しいが、逃げられないほどではない。そのはずなのだ。

 けれど、

「冗談では、ありません。これは、真実の話です」

 修司は尚も淡々と。ただただ必要なことだけを口にした。

「はぁ? なに言うとるねん、そんなんありえるわけないやろ!?」

 美樹の口調が少し荒む。表情には怒りの感情が浮かび上がっていた。

「ありえない。その言葉が意味を持ち続けたのは、いったい何時までの話ですか? 目覚め空に紅い月がのぼった時でしょうか? それとも、骸の集団が押し寄せた時でしょうか? 影が溝渕佳祐さんを飲み込み消し去ってしまった時でしょうか? どれもこれも、以前のあなたや私たちならばありえないと断じた事のはずではありませんか?」

 美樹の表情が、みるみる曇る。美樹も分かってはいるのだ。何がありえないのかなどもう分かりはしないということを。ただ、分かりたくなかった。

 修司は更に続ける。

「……校舎より一定距離。正確に測れるわけではないですし、まっすぐ進めた保証もない。ですので直線距離でどのくらいかは分かりませんが、とにかくある程度進むと、私たちはそれ以上先へと進めなくなる」

 それはどこまでも馬鹿げた話。

「根拠ならばあります。皆さんには、周辺の捜査に協力してもらっていました。その時に、何度か不思議なお願いをしたはずです」

 けれど、根拠を挙げるたび、納得するようになっていった。いや、納得せざるおえなかった。


 川を見つけた。その川を辿る。けれど、先へと進めない。随分川遡ったと思っても、振り返れば出発地点はすぐそこだ。

 一人では不可能。ならば、二人なら。一人がその場に留まって、遡るもう一人を見た。けれど、やはり先へと進めない。確かに先へと進んでいくのに、一向に離れはしないのだ。

 川の流れに身を任せる。適当なものを、水の上に置いて流してみた。物は流れる、どこまでも。そう、どこまでも。どこまでもどこまでも流れ続け、けれど、取りに行こうとすればそれはすぐそこに存在した。


 森を突き進む。ひたすらにまっすぐ。けれど、気が付けば引き返している。なんとなく、感覚的に緑が深くなったと覚えたその地点から方向感覚があやふやになり、元の場所に戻っていた。

 再び二人用意する。しかし、川の時以上に上手くいかない。遮蔽物が多すぎる。ふと姿が隠れたかと思えば、もう引き返してしまっている。

 狼煙をあげた。それを背にして進む。これならば、常に同じ方向に進めるはずだった。けれど、結果は同じ。幾ら進めど景色に変化なし。そのくせ少し引き返せば、簡単に引き返せてしまう。


 他にも色々と試した。ロープを持ってぴんとはったままにして進んでみたり。方位磁石を頼ってみたり。

 が、それでも結果が変わることは、ついぞなかった。


「でも、だったらどうするんですか!? 僕たちは、どうなるんですか?」

「現状、私たちだけではどうすることもできないとしか」

「そ、そんな……!?」

 どうしようもないことだ。

「何かの間違いってことは……?」

 すがるように、八尋は言葉を絞り出す。それを否定したのは、仁である。

「ない。俺と、加えて向井は事前に聞かされていた。……と言っても、昼の一時間ほど前なのだがな。一応、確認しに行った。……結果は、わざわざ言葉にする必要はないだろう」

 ちらりと、賢司は速人を見る。速人は肩をすくめるだけだった。

「あれ、でも……?」

 田中一郎は、ふと疑問を覚える。

 進むことができない。思えば一郎自身も、なんらかその証明に関わっていた。意味不明なことが続く今となっては、もうそれに疑いは持たない。もはや一郎の中では、その程度ありえることとなっていた。

 疑問を覚えたのは、だったらどうしてミリアとナナがここにいるのかということ。出ることはできなくて、外からは入れる。そういうことなのかもしれないが、しかしここがそんな場所なのだとしたら、他に誰もいないのはおかしくはないだろうか。人が踏み入ることが少なかろうと、蟻地獄のような場所なのだとすれば、何らかの痕跡は残すことになるはずだ。そう思った。

「その通りです、田中君」

「うわぁあ!?」

 修司は何時の間にか、一郎の目の前にまで迫っていた。そして、心の中を読んだかのように言う。

「や、えっと、なんのことですか……」

「いえ、その通りだと言ったんです」

 確認する必要はないのか。修司の言葉は真っ直ぐで、それが間違いであるという思いはないようだった。実際、間違いではないのだが。

「幾ら調べても、ここに誰かが――文明の匂い、とでもいいましょうか、そんなものは見つからなかった。えぇ、きっとここには誰もいなかったのでしょう」

「けど……」

「えぇ、ですが彼女たちはいる。いや、正確に言うならば現れた。可能性があるとすれば、そこでしょう」

 一郎は、ちらりとミリアとナナを見た。

 聞く分には平気だろう。だが、答えてくれるかどうか。ナナは質問すれば答えてくれるだろう。問題は、記憶を失っているということ。それがどの程度なのかは分からないが、その弊害か出会ったその日のことは、どこかおぼろげだと言う。求めた答えを持っているかは不安を残す。

 ならばミリアに聞けばいい。ミリアはその日のことをはっきりと覚えている。ある程度心を許してくれるようになった今でも、遠野美樹を酷く敵視しているのがその証拠だ。だが、だからこそ答えてくれるかどうか。

「なんとかして聞き出してください。そうですね、せめて、ここへと来た経路が分かるかどうか。それだけでも、はっきりとさせてください」

 何もせず諦めるは馬鹿である。別に話をするだけだ。

「分かりました。まぁ、はい」

 一郎は、頷くと二人の方へと歩いた。

「さて」

 修司は体育館内を見渡す。

「とにかく今は、待ちましょう。何も分からぬまま動いても、どうにもならないでしょうから。ただ、心構えはしておいてください。何が起こっても、動けるように」


 少し経った。

「おい」

 仁の声が、体育館に響く。何事か、皆身構えた。

 だが、仁が伝えたのは、凶報ではなかった。

「……帰ってきたぞ」

 他に誰がいるはずもない。速人と賢司の顔色が、目に見えて明るくなった。他の物たちも、その男の存在がこの状況において心強いことを知っている。空気が少し和らいだ。

 だが。


 男は告げる。男の帰還は吉報だ。だが、男が運んできた情報は凶報だった。


「妙な獣が森の中に溢れてやがる。何故か動きは緩慢だ。だが、確実にここを目指して迫っているぞ」

 ミリアがここへとくる経路を覚えていると言ったのと、ほとんど同じ時頃だった。


 ◇◆◇◆◇◆◇


「走って! 止まらないでください!」

 森を走る。先頭は岩滝仁だ。体力に自信のある神代修司に岩滝仁、八坂八尋に富田賢司、遠野美樹の背中にはリュックサック。中には保存食の残りだったり、各々で持ち出したいと思ったものやらが詰め込まれていた。

 だが、そこに九条和也の姿はない。

「……大丈夫、ですよね」

「当たり前だ」

 駆け抜ける集団の中央付近。荷物を持っていないこともあってどうにか走るペースに食らいつく田中一郎と向井速人は、最後に見た後ろ姿を思い出していた。

「和也なら、絶対に大丈夫だ!」

 言葉は力強く、けれどどこか不安げな表情だった。


 影の獣が迫り来る。そして、その数は無限と言って間違いでないほどだと九条和也は言った。

 迎撃など考えない。いかに和也だとて、襲い来る個ならまだしも、全てを飲み込む波を打ち消す事など出来はしない。そしてそれは、他の誰でも同じことだ。

 逃げよう。決断は早かった。

 ミリアも、事情を聞いて協力することに頷いた。雰囲気は重く、誰もが真剣で、謀りごとの類ではないと、信じてみようと思ったのだ。

 元々、ある程度は備えていた。準備は迅速に進む。そして逃げ出す時を迎えるのだが、しかしその頃には影の獣もまた随分と近くまで迫っていた。

「俺が囮になろう」

 逃げ出す直前。九条和也はそんなことを言って、一人校舎に残った。今は動きが緩慢だ。だが、逃げ出してもまだ同じ速度だとは限らない。だから、ここに残り大部分を引き付けようと、そう言ったのだ。

 口論あれど、すぐに終わる。口論をする余裕すら、ほとんど残っていなかった。最後まで承服しかねた速人と賢司だったのだが、和也に先に行ってろなどと言われては、もう頷く以外にできなかった。


 そうして和也を除く全員が、校舎から脱出した。影の獣の大部分は、校舎の中で今もまだ和也によってその進行を阻まれている。

 和也の力たるやまさしく無双。心配を抱く必要性は、確かにないと思えるほどだった。

「着いたぞ! さぁ、ここからどこへ向かえばいい!」

 そこはミリアとナナ、仁と美樹に一郎が出会った場所。ミリアは確かに来た道を覚えているとは言った。だが、気を失って運ばれたために、この場所への道のりは分からなかったのだ。

「……こっち!」

 ミリアはあたりを見渡して、それから、叫ぶと同時に駆け出した。皆、その後に続く。

「っ!」

 がごん。鈍い音が響く。飛びかかってきた影の獣を、仁の一振りが弾き飛ばした。

「仁さん、相手にしないでください!」

「分かっている!」

 幾ら相手にしたとて、無限に湧き続ける。目の前の一を倒すより、今は前に進む方が先決だ。皆が先に行ったのを確認すると、更に一撃加えて、仁は再び駆け出した。

「足を止めるな!」

 集団は、徐々にだが長く伸びてきていた。体力自慢の者たちは荷物を苦とせずペースは落ちない。体力に自信がなかろうと人並みより少し下程度には備えている速人と一郎も、どうにか少し遅れ気味で食いついていた。

 だが、どうしようもなく体力に自信のない二人。森本彩にナナは、限界間近だった。

「っち!」

 仁は立ち止まる。

「どうしました!?」

「少しばかり足止めする。あの男ほどではないが、この程度ならばまだ相手にできる。すぐに追いつく、先に行け!」

 必殺の爪が襲い来る。木刀では受け止めるのは叶わない。だが、恐怖する必要はない。その速度は、目で捉えられぬほど早いわけでも鋭いわけでもない。

「っふ!」

 悠々躱し、影の獣の腹に木刀を打ち込んだ。影の獣はうめき声をあげて転がり、影に混ざった。

「……でも、部長!」

「いいからいけ八尋!」

 一人駆けるのを躊躇う八尋に、仁は叫ぶ。八尋はそれでも動かなかったが、もう一度強く、睨みつけながら叫ぶと、どうにか皆を追って駆け出した。

「さて、少しばかり本気でいかせてもらうぞ!」

 影の獣は現れる。より深い影の中から、更に。倒す必要はない。けれど、倒す気概なくして足止めは不可能。仁は木刀を強く握り込むと、気合一つに踏み込んだ。

「……あれは?」

 駆ける。すると、景色に変化が現れた。

 木々が減り、地面を覆う緑も薄くなる。代わりに増えたのは灰色の砂利。更に進めばその割合は増えていき。

 そうして、開けた場所に出た。

「あれだって」

 ミリアの言葉を耳にした一郎は、彼女が示した場所を指差す。

 そこには巨大な――本当に巨大な一つの岩が鎮座していた。見れば、中央に亀裂が走っている。その中だと、ミリアは叫んでいた。

「動けない方は中へ! 動ける人はなんでもいいのでとにかくバリケードを! 九条君に仁さんが合流するまで、どうにか保たせますよ!」

 体力が尽きているナナと彩は亀裂の中へ。バテ気味の速人に一郎は亀裂の前で少し息を整えて、ほか動ける者は荷物を亀裂の中へと放り込み、そこらから適当な木々やら岩を押すなりして岩の前に集めていく。

「…………」

 八尋はひたすらにそれに没頭した。そうしていないと落ち着かない。体力があるほうだとはいえ、疲れているのは八尋も同じ。それでも、止まることができないでいた。

「……っ!」

 そうして、とうとういてもたってもいられなくなり。

「八坂君!」

 修司は叫ぶ。その目には、逃げてきた道を取って返す八尋の背中が映っていた。

「すいません! でも、やっぱり部長が心配で! すいません!」

 八尋はまっすぐに森に突っ込み、その姿は消えてしまった。

「おいおいおいおい!」

 富田賢司はその後を追おうとした。けれど、それは阻まれる。

「っち! 邪魔だぞてめぇら!」

 影の獣はもうここまで迫っていた。八尋と入れ違いに森から飛び出してきたその数は二。九条和也に岩滝仁という大きな戦力を欠く現状、これ以上ここを離れるわけにもいかない。

 影の獣が蠢く。

「くそったれがぁ!」

 適当に見つけた鉄パイプ片手に、賢司、修司、美樹に、この時ばかりはミリアも協力的で、加えて一郎に速人が微力ながら助太刀して。

 ひたすらに、ただただこの場に留まり続けるための戦いが始まった。



「せあぁ!」

 会心の一撃が影の獣を捉えた。妙に気味の悪い断末魔を上げ地面を転がる。影の獣に動く力はなく、うめき声をあげてのたうち回った。

「……ふぅ」

 周囲に動く気配はない。仁は和也が撃ち漏らしたうちの三匹を、既に全て倒していた。

「……くそっ! なにがどうなっているんだ!」

 仁はしかし叫ぶ。異常なのだとは認めた。ただそれでも、目の前で馬鹿げた出来事が起こるたび、強い憤りを仁は覚えずにはいなかった。

 周囲を見渡しても、のたうち回る影の獣の数は一。それ以外にはなんの変哲もない森が在るのみだ。そう、影の獣は一日目に現れた骸骨のように――あるいは溝渕佳祐を飲み込んだ不気味な影のように、動きを止めてしばらくすると、あたかもそれは幻であったかのように、霧散して消えてしまっていた。

 そうこうしているうちに、のたうち回っていたそれも、その姿をおぼろげに変えていく。自然と、木刀を握る力は増していた。

「いや、今はそんなことどうでもいい」

 仁は頭を振って己の激情を諌める。

 今すべきはそれでない。今すべきは、後を追うことだ。足止めという当初の目的からは既に逸脱している。これ以上は皆を不安に、あるいは危険にさらすだけ。今すぐにでも、駆け出すべきだ。

 仁は、一度大きく息を吐くと、駆け出した。


 ……いや、駆け出そうとした。


 ぱちぱちぱち。

 その音は人を称えるための音。

 理性なき影の獣たちにそれはできるはずがない。

 仁の足は止まった。

「流石、流石だよ」

 声が聞こえる。森の中、深い、深い闇の中から声が溢れ出る。

「…………」

 汗が頬を伝う。

 自然と口角が釣り上がった。

 眼つきは鋭く、睨みつける相手を射殺しそうなほど。

「……っははははハハハハははハは」

 そいつは茂みの中から現れると、これ以上ないほど歓喜に満ち満ちた声で笑った。



「うおぉおおおぉおらぁああぁあ!」

 九条和也はひたすらに力を振るう。心底嫌そうに、嬉々とした表情で。和也の力はまさしく理不尽。校舎へと押し寄せた波を、しかし個に向かう限り全て打ち払う。

 影の獣に怯みはない。そも、怯むための知性も感性も持ち得ていない。影の獣に在るのは、ただ命令に従うという、それだけだ。

 故に影の獣を生物と捉える必要はない。あれは機械。そう、ただの機械なのだ。ならば、手加減などいらないだろう。なにせ相手は、ただ命じられた通りに動く木偶なのだから。

「――――っは」

 和也の力は常人のそれを遥かに上回る。だが、それでもなお、拳を振るうたび、敵を打ち倒すそのたびに、その力は更なる飛躍を見せていた。

 染まる。

「――はっはははぁあはははは!!!」

 湧き上がる感情は全てを塗り染める。和也は声を聞いていた。

 従えと。

 抗うなと。

 解き放てと。

 言葉が、心の中に溶けていく。湧き上がる感情は悦び。それはどうしようもないほどに心を浸し、和也は一歩、また一歩と足を進める。

 凡夫を越え、人を越え、更にその先へ。

 ――やめろ。

 和也は、けれどその歩みを、止めた。熱を帯び加速する心の躍動を理性でもって無理やり押さえ込む。

 悲鳴が上がる。

 やめろ、と。否定するな、と。肯定しろ、と。

 悲鳴は和也の行いを責め続ける。だが、だからとて、身を委ねるわけにはいかった。

「うるっせぇ!」

 叫び、和也は駆け出した。

 これ以上は不可能だった。これ以上戦い続ければ、きっと狂気の渦のその底へと落ちていってしまう。そうなれば戻れない。

「くそっ……」

 和也は逃げる。影の獣から――いや、それ以上の化け物から。

 こうして波を押しとどめた防波堤は崩れ去る。影の獣の集団は進行を再開した。

 波を押し止められたのは校舎という地の利があったから。乱雑に進む影の獣を止めることは、もはや和也にも不可能。

 もっとも、和也にはこれ以上戦いに酔うことはできないのだが。


 終焉は近い。影の獣はどこかから湧き出して、全てを闇に染め上げる。校舎もまた飲まれ。


 気が付けば、世界のほとんどはもう存在しなかった。



 八坂八尋はそれを目撃する。


 振るわれるは影の剣。仁はそれを己の木刀で受け止めるが、振るう膂力は仁を遥かにしのぎ。

 守りは粉砕され、仁は宙へと打ち上げられた。

 勢いそのままに大木へと激突し、仁は動かない。

 その目の前で、見知った顔が笑っていた。


「溝渕……先輩?」

 声は疑問。その男の姿を八尋は知っていたが、纏う雰囲気はどこか違い、思わずだった。

「あァ?」

 ぎょろり。眼球が八尋を捉える。冷たいものを感じて、八尋は震え上がった。思わず逃げ出してしまいそうになるが、それを寸でのところで抑え、もう一度震える声で問う。

「溝渕先輩、ですよね」

 答えは返らず。ただただ笑う。嬉しそう、愉しそうに。

 ひとしきり笑い、そうしてようやっと言葉を口にした。

「あぁ、久しぶりだな、八尋」

 疑問の数々が頭の中を駆け巡る。分からないことだらけだ。

「……どういうことですか」

 だから、大事なことだけ問うことにした。

「どうして、こんなことをするんですか」

 ここに至る過程はいい。どうであれ、現状こうして目の前にいるのだから。大事なのは、どうして仁と、こんな状況で剣を交えることになったのか。

「どうして、か。そんなこと、聞く必要はねぇはずだ。俺を知ってるお前なら、な。違うか?」

「……いいえ、僕の知っている先輩は、こんな大変な時に部長に勝負を挑みません」

 正々堂々と正面から。それが、八坂八尋の知る溝渕佳祐だ。

「――っは」

 八尋の答えに、佳祐は笑う。腹の底から、聞いているだけで気分が悪くなるような声だった。

「違うな。違うな違う! 俺があいつと正面からしかやり合わなかったのは、そうじゃねぇとあいつは全力を出しはしないからだ。手ェ抜かれて勝ったって意味はねぇ。俺はあいつに、完膚なきまでに完璧な勝利を求めてたのさ。ここまで言えば分かるだろう? 俺は別に、なんだっていいんだよ。あいつが全力を出さざるおえねぇってんなら、他のことなんぞ知ったことか!」

「だからって!」

 だからって、こんな時に、こんな状況で。言葉が幾らでも溢れ出る。だが、それを悟った佳祐は、八尋の口からそれらが出るのを許さなかった。

「俺に文句を言うのは勝手だ。だがないいのか? お前らは、どうしてこの男を置いていったのか。忘れたわけじゃぁあるめぇよ」

 八尋はそれで気が付く。森の中に、気配があった。周囲にひしめき、こちらを伺っている。

「……あれは、溝渕先輩に関係があるんですか?」

 八尋は木刀を構えて周囲を伺った。佳祐はそれを見て、ふうんと鼻を鳴らす。

「あるといえばある。……が、どうこうするつもりはねぇ。てめぇじゃあれに勝てねぇだろうが、そんなこたぁ知ったこっちゃねぇんでな。てめぇでどうにかしろ」

 溝渕佳祐がいったい何を知っているのか。気になるが、けれど問い詰めることはできないだろう。

 気配が濃くなっていく。ざわめきの音が八尋の耳に届いた。時間は残り少ない。

 八尋は気を失った仁に歩み寄ると、その肩を揺すった。仁はうめき声を上げるが、意識を取り戻す気配はなかった。仕方がないので肩を滑り込ませ、その体を持ち上げる。

 仁の体はずしりと重い。どうにか歩くことはできそうだが、それが限界だった。

 八尋の腕では影の獣に勝つことはできない。せいぜいが、どうにか一匹を相手にできるかどうかである。それだって、劣勢を覆すことなどできようもなく。仁を連れて戻るのは、絶望的だった。

 佳祐は笑う。

「お前は馬鹿だな」

「馬鹿でも結構です」

「逃げられるとでも?」

「…………」

「っは、分かってるじゃねぇかよ」

 そも、佳祐はどうするつもりなのか。言葉を交わすその中で観察するが、佳祐は呑気にあくびをしていた。この状況での緊張感などは欠片もなく、怯えもまた見えない。いや、どころかどこか愉しそうに見えた。

 佳祐は八尋の姿を舐めまわす。苦悩に表情を歪める八尋の姿がいたく気に入ったようだった。

 佳祐は、意外な言葉を呟いた。

「助けて欲しいか?」

「!」

「っは、そう警戒すんなよ。嘘じゃねぇ本心だ。まぁ、さっきはああも言った。ありゃ確かに本心だ。けどまぁ、俺がそのくそったれに勝ったと言っても一度きり。それも、まだ俺の力を知らねぇ状態で、だ。俺はそいつのことを知ってるのに、これはフェアじゃねぇってもんだろう。だから、まぁそういうことだ」

 その提案は魅力的だ。実際、八尋一人の力ではこの場をどうにかすることはできない。だが、だからこそ疑うべきであろう。いや、それ以上に信じるのは馬鹿だ。

 八尋も流石に疑った。裏があるのではと思わずにはいられなかった。


 けれど、不思議と。

 その顔は笑っていた。


「あぁ?」

 佳祐がそれに気がつき、目を細める。馬鹿にされたとでも思ったのだろう。八尋はすぐに頭を横に振る。

「すいません。やっぱり、先輩は先輩だって、そう思ったら自然と」

 それは紛れもない本心だ。疑っていたのは間違いがないのに、同時に嘘でないとも確信していた。やはりこれこそが、八尋の知る溝渕佳祐なのである。

「っち、何を分かった風な口きいてんだ。てめぇはやっぱりムカつくな。……ふん、だがまぁいい」

 釈然としないような表情ながら、佳祐の中では既に助けることは確定事項のようだった。仁を吹き飛ばした影の剣を再び構える。だが、それは実はただの木刀で、構えると同時に影に覆われ巨大な剣の形と成った。

「ひたすら走りな。あとは知らねぇ」

 振り上げる。裂帛の気合と共に振り下ろし、全てを打ち払った。

「……っ」

 八尋は絶句する。たった一筋。それだけで、影の獣はことごとくが消し飛び、どころか佳祐の前を埋めていた木々さえもその姿を失っていた。

「目ェ覚めたら伝えろ。決着は次。……それまで、せいぜい腕を強くなってろ、とな」

 八尋はその言葉を受け取って、駆け出した。

 その歩みは牛歩のそれ。佳祐の一撃によって怯んでいた影の獣は、けれどすぐに追いつく。思わず応戦しようとする八尋だが、その直前に、迫った影の獣は打ち払われた。

「くれるってんなら貰ってやる。だがな、別に俺はてめぇらの仲間になったつもりはありゃしねぇ。この程度のことで、とやかく言うんじゃねぇぞ?」

 影の獣は標的を変え、まるで責めるように佳祐に襲いかかる。佳祐はそれをこともなげに打ち払い続けた。

 去りゆく中、八尋はその姿をもう一度だけ瞼に焼き付け、それから、道を急いだ。



「やばい、やばいやばいやばいってこりゃぁよぉ!」

 富田賢司は叫ぶ。

 洞穴の前には影の獣。その数は、視界の全てを埋めるほどにまで増えていた。適当に積み上げたバリケードはもはや意味を成さず、現在は亀裂の前で牽制し、どうにか侵入を抑えるのが精一杯だった。

「まだこねぇのかよ!」

 限界だった。これ以上この場に留まり続けるのは不可能だ。亀裂は影の獣も通れるほどに大きいが、けれどせいぜいが一匹程度。逃げ込んでしまえば、今よりは楽になる。

 だが、それはできない。せいぜいが影の獣一匹通れる程度の大きさなのだ。入口で侵入を食い止めねば、後からくる仁に八尋、和也が逃げ込むのが困難になってしまう。ただでさえ体の大きい和也ともなれば、一匹だろうと道を塞がれるだけで進むは困難。この、最悪亀裂前のスペースで、なんとしても食い止めねばならなかった。

 現在、全員の手にはなんらかの長物が握られている。こうも密集されては、もう打ち払うどうのこうのとできはしない。近づく気配を感じればその頭を殴り、そうしてどうにかこの状況を維持していた。

「まずいですね」

 神代修司は呟く。

 どうにか維持はできているが、にじり、にじりと影の獣は迫っていた。少しずつだがこちらの動きにも対応し出してきている。こうなれば、三人を見捨てることも考えなければならない。

きっと誰一人として頷かない。だが、それでもなお心の底であれ思うようになったなら――。

修司はあくまで機械的に、そんなことを考えていた。

「やああぁあああぁ!」

 田中一郎は叫ぶ。ただ叫ぶ。木刀を振り上げながら、しかし叫ぶことこそが目的であるかのように。

 田中一郎は無力である。影の獣を撃退するだけの力を持ち得ていない。全力で木刀を振ろうとて、鋭さなど微塵もない。だが、だからこそ叫ぶのだ。役に立たないことを理解して、せめて気迫で押せるならと、声がわずかばかりでも心の支えになるのならと、ひたすらに叫ぶ。

「っは! まだまだ元気じゃねぇかよ」

 そして声は確かに士気を支えていた。

 向井速人は無理やり笑うと、頼りなさげに木刀を振るう。力で前進を抑えることはできない。彼はしかし、己に出来る限りで影の獣が進むのを止めていた。

 神経を研ぎ澄まし、目を見開いてあらゆる予兆を感じ取る。相手の攻め気の高まりとともにその鼻っつらに木刀を叩きつけ、そのタイミングを外すのだ。

 それは極限の緊張感の上で、かつ全神経を稼働させてようやっと成せる芸当だ。体力なんかよりも精神が瞬く間に摩耗していく。耳鳴りに頭痛が速人を襲う。正気を保てているのは、声が絶えず聞こえるからだった。

「あぁあああぁぁあ! あぁぁあああああぁあぁあぁあああぁぁぁ!」

 遠野美樹は、ひたすらに叫び、己の中の衝動を爆発させ続けた。彼女のみ、ここに留まる理由が違う。彼女はただ、己の中の鬱憤を晴らしていただけだった。彼女の瞳には影の獣など映ってはいない。ただただただ、なにもかもが邪魔だった。

 その表情は、狂っているというよりも、何かが壊れたような恐ろしさを放っていた。

「…………」

 森本彩は淡々と。放り込まれた荷物を奥へと運んだ。

 機械のように。それが今の自分に出来ることだから、と。目前で皆が肉体と精神をすり減らしているにも関わらず、けれど彩の表情はあくまで平静だ。

 だが、彼女は心を持った人間で、ただ作業をこなすだけの機械とは違う。

 彩は時々、荷物を取りに戻るその時に、外を見た。揺らぎない、強い視線。それに灯る炎が憤りであることは、彼女を少しでも知れば想像は難くないだろう。

「……なんなのよ、これ!」

 ミリアは駆け抜けた。

 今この場にいる中で、ミリアの身体能力は頭一つ以上も抜けている。中でもその敏捷性たるや、他の追従を許さない。影の獣すらも置き去りにして、陽動兼遊撃士として風となっていた。

 ここまで付き合ってやる義理はない。ここへと連れてきたことで借りは返した。現状はミリアに関係のない、言ってしまえば一郎たちの私用である。一目散に亀裂の奥へと逃れようとて、文句を言われる筋合いというのは存在しない。

 ならば何故そうしないのか。ミリアは、強く奥歯を噛み締める。ただ、それでも駆け抜けた。最後の瞬間。もう無理で、それでもなおこの場に留まろうとするならば、その時こそはもう知らぬ。そんな考えでどうにか納得して。

「――――っ」

 ナナは酷い頭痛に襲われていた。影の獣が視界に映るその度に、その声を聞くその度に、頭痛は止むことなく襲い来る。

 何故。

 ナナにも分からない。痛みで気が狂いそうになる中で、しかしナナは感じ取る。

 それは懐かしさ。

 あの恐ろしい姿を見て――ナナは、何故か懐かしいという想いを感じていた。

 ナナは探す。その出処を。だが、それは決して見つからない。

 幾ら記憶を遡れど、彼女の中には懐かしさを感じられるほど昔の記憶は存在しないのだから。


 事態は悪化の一途を辿る。


 持ちこたえるのも本当に限界だった。皆思う。これ以上は、と。

 そんな時だ。

「おぉおおぉおおあぁあ!」

 森が爆ぜる。影の獣が空に打ち上げられ、ぼとりぼとりと落下した。

 静寂。衝撃に、影の獣はおろかこの場にいた全員が固まった。

 最初に我を取り戻したのは、神代修司。

「皆さん、亀裂の奥へ!」

 その言葉に、時を止めた鎖は千切れる。

 ウォオオォオン、と雄叫びが。影の獣が纏う雰囲気が、一層歪む。入口の死守を神代修司と遠野美樹に任せ、他は一斉に亀裂の中に飛び込むと、その奥を目指す。事前に森本彩の手によって、荷物の類が入口に密集していなかったことが幸いした。

 すぐに追いついてくる。それを信じ、ひたすら闇の中を突き進む。

「走れっ!」

 九条和也は叫ぶ。今の己には、目に入る全てを打ち払う力はない。彼はただ、進むのを邪魔する影だけを殴り飛ばし、亀裂へと躍進した。

「部長っ……!」

「心配はいらん! ひたすら走れ!」

 和也の蹂躙によって作られる道。岩滝仁に八坂八尋はその道を駆けた。

「美樹さん、私たちも!」

「――っ、しゃあぁないなぁ!」

 美樹は手に持っていた金属バットを思い切り投げ飛ばし、怯んだ隙に渾身の蹴りを叩き込む。それで無理やり納得して、亀裂の奥へと急いだ。

 妨げる存在はいなくなった。影の獣が亀裂に群がる。途端入口は埋め尽くされる。

「邪魔だァ!」

 亀裂の中に顔を突っ込んでいた一匹を、和也は思いっきり引っこ抜く。最初に八尋が飛び込んで、それに続こうとする影の獣を仁が叩く。そうして最後に、和也もまた亀裂の中へと飛び込むのだった。

 和也は、駆ける途中に渾身の力で壁と打ち抜いた。洞穴全体に鈍い衝撃が走り、ついで地鳴りが。

 がらり、がらり。

 天井から砂埃やら小石やらが降り注いだ。

「なにが起きたわけ?」

「知らないけど急いでっ!」

「おいおいおいやばいんじゃねぇのこれっ!」

「つかさっきの衝撃ってなんだよっ!」

「ふぇぇええぇえええん」

「誰や泣いとんは!」

「…………っ」

「くそったれ!」

「……もう無理」

「っち」

「皆さん、もう少しの辛抱ですよっ!」

 暗闇の中を駆け抜ける。どたばたどたりと騒がしく。崩壊の音もまた引き連れて。

 どれほど走り続けたか。暗闇の中の疾走ゆえに体をしこたま打ち付けたり、時には体をぶつけ合ったり。そうしてぼろぼろになりつつも駆け続け、出口へと。道は不思議とまっすぐ一本で、迷うこともなかった。

 光の中に飛び出す。疲労困憊。皆、地面に自分の全てを預けてしまう。

 何時の間に最後尾まで順位を落としていたのか、富田賢司が勢いよく飛び出すと、洞穴は凄まじい音とともに、完全に埋まってしまう。そのことに、様々な思いが去来するが、今は感情に浸るよりもすることがある。

 影の獣は追ってこれない。その事実だけで十分だ。皆、しばし体を休めた。



 そこは小高い丘の上。周囲に視界を遮るものはなく、大地の果てまで見て取れる。

 そこは彼らの知る世界ではない。

 少なくとも、ミリアとナナを除く全員にとっては全てが未知だ。


 世界の名はオリガルド。

 彼らはこうして完全に、今までの全てを失った。

 これからどうなるのか。今はしかし、そんなこと誰も考えない。

 もう少し。もう少し息を整えてから。

 気が付けば空に太陽はない。大地を照らすのは紅い月明かり。

 しんと静まり返る。誰一人例外も許さず、夢の中へと落ちていった。


 時は決して止まらない。戻ることもまたありえない。

 太陽は再びのぼる。

 再び歩き出すそのためにも、今この一時はまやかしの安らぎだとしても、身を任せるほかになかった。


さて。

というわけで、馴染みの場所からはさようなら。本当の意味での異世界漂流の始まりです。

・・・・・・えぇそう、まだまだ先は長いのです。


登場人物多すぎた。こんな人数上手く回せねぇよなどなど。

まぁ、やはりというかなんというか、力量の無さが目立ちますね。


まぁ、なんとか投げ出さず続けていこうとは思っております。どうか気長にお付き合いください。


ではでは。次は9月の12か13にでもまた。

それでは。


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