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醜い少年  作者: ガランドウ
2/5

いつもの光景

醜の学校では、もう直ぐ文化祭がある。本来なら季節がもっと冬に近い時にするのだが、今年のみ、恒例より早い時期にやることになっている。

学校自体が文化祭に大きく力を入れている為、朝から校舎の外で劇か何かの練習をしているクラスが幾つも在る。生徒達はやる気無さげに動きが緩慢ながらも、楽しそうに練習しているものが殆どの様だ。彼らは登校した醜を見て一瞬顔を強張らせるも、直ぐに顔を背け、またクラスの空気へと戻って行く。

総司(そうじ)がまた前の試合でハットトリック決めてさー』

『このクマ、メチャクチャ可愛くない? ()()と旅行行った時に、ご当地限定で売ってたの』

『―――――――――――――――――――っ』

醜が校舎二階にある教室に着き扉を開けると、一瞬中の空気が固まった。教室の中にいる生徒ほぼ全員からの視線を向けられる。机に座りながら友人と談笑していた男子は、机から降りて無表情になる。クマのような、携帯につけてあるストラップを見せ合っていた女子も、無言になった。醜もまた無言で席に着く。 

それとほぼ同時に、教師も教室に入って来た。生徒達は醜と目を合わせない様に席に戻って行く。全員が席に戻ると、授業が始まった。


『これそっち持って行ってー』

『ここ赤い布使っていいー?』

一日の授業が終わり、教室では文化祭の準備をしようという流れになっていた。昼休みにクラスの文化祭委員が聞いて回り、参加する生徒が過半数だった為決定したのだ。ただ醜の元には来なかった。元々、この学校で醜に話しかける生徒は数えるほどもいない。教師にすら授業中に当てられることはない。学校に着いてからまともに言葉を発することなく、左肩に鞄を引っさげ教室を後にする。

「あれ? ○○君、文化祭の準備はいいの?」

 教室を出て階段を降りようという所で、醜は声を掛けられた。のっそりと、緩慢な動作で振り向く。そこには、長さ二メートル程はあろう細い木の板を、両手で抱えるようにして持っている赤いジャージを着た少女が立っていた。

「……」

「結構準備進んでなくて忙しいとか聞いたんだけど……もしかしてサボり? いけないんだー」

 少女は醜が無言なのも気にせず快活に笑っている。悪い事など、自らの身に降り掛かる事は無い。そんな、少しの染みも無い様な笑顔だ。醜はこの少女の笑顔を見る度にそう感じる。

少女は、よいしょと木の板を脇に置いてから、醜の目の前まで近寄って来た。暑いのだろう、掻いた汗で長い黒髪が額にへばりついている。

「あれやるんでしょ? 《少女とトロル》私そこそこ楽しみにしてるんだー。○○君も暇なら手伝ったら良いのに」

「……いや、俺は、いいよ」

「えー、何で? 〇〇君なら本も一杯読むんだし、《少女とトロル》にも詳しいでしょ? 絶対役に立つのに」

「関係、ないと思うけど」

 本をたくさん読む事イコール劇の役に立つとはならないだろうと、醜は思う。目の前の少女は大きい瞳を瞬かせながらなんで? と首を傾げている。きっと本をたくさん読んでいる人は何においても博識だとか、微笑ましい事を考えているのだろう。自分より頭一つ分高い少女を見上げながら、醜はそう考える。

「それに俺、《少女とトロル》読んだ事、無いよ。おおまかなストーリーは、知ってるけど」

 《少女とトロル》舞台は中世期頃のヨーロッパ。ある村に住む皆から愛される可愛らしい少女と、トロルと呼ばれる醜い少年との、よくある様な恋物語。

ただよくある物語と少し違うのは、最終的に少女はトロルとは結ばれず、人気者の好青年と結婚する。そしてトロルはその二人を祝福しながら、村人たちに迫害され、一人寂しく死んでいく。確かそんな話だったと、醜は記憶している。詳しい内容は知らなかった。

「そうなの? 意外だなぁ。○○君なら大抵の本読んだ事あると思ってたけど」

「興味、ないから」

「演劇手伝ったら興味出るかもよ?」

「だから、良いって」

 そもそもクラスの中に醜の居場所など無かった。準備を手伝いに行っても、仕事も与えられず無視され、一人で突っ立っているだけになるだろう。態々気まずい思いをしてまで教室に残るつもりは、醜には無かった。善意で言ったのだろう目の前にいる少女は、醜の返事に対して不満気に小さい口を尖らせている。彼女は、醜のクラスに置ける立場を気にかけていた。

「もー。ちょっとは……」

『美優ー? 木材早く持って来てー?』

「あ、忘れてた。うん、今行くー! ○○君、また今度ね。せっかくの文化祭なんだし、準備だって楽しまなきゃ。バイバーイ」

そう言って少女、霧島(きりしま)美優は木材を抱え直し、自らを呼んだ女子生徒の下へと走って行った。後には醜一人が残される。

『霧島さんって、よく○○と話せるよねー。私だったら怖くて無理だわ』

『だよねー? なんかもう目が合っただけで呪われそうって言うか、食べられそう』

『マジでそれね。あれかな、こんな気持ちが悪い奴にも話し掛けてあげる私って優しい! 的な? アピールおっつー』

 ――ブゥゥウゥゥゥウゥゥゥゥウゥゥゥゥゥウン――

 醜は、何処かから聞こえたそんな会話と同時に、自分のすぐ近くから蝿の羽音を聞いた気がした。


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