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第十七話

読んでくださった方、大変申し訳ありません!


前回、19日に投稿した『16話』のことなんですが、じつは推敲する前のものを間違ってうpしていました。まさかのうっかりミスなんですが確認をおこったったためにしょうじた失敗であります。


すでに新しいものに差し替えましたので、もう大丈夫だと思います。


大変ご迷惑かけました。


なお新しくうpしたものと修正前のものは内容的にさほど変わらないのでこのまま17話を読んでも問題ありません。



39

詰所の入り口から離れた路地にシルビアと一頭の馬が佇んでいた。周りには娼婦やポン引きたちが取り巻き、巡回している治安維持官たちが近寄れないように気を利かせていた。


「計画通りね……」


シルビアはやって来たベアーたちに声をかけた。


「もう、駄目かと思ったわ……」


シルビアはそう言うとマークに抱き着いた。


「ああ、今回は危なかったな……」


マークはそう言うとシルビアを引き寄せ、もう片方の手で馬の鞍に手をかけた。


「行くぞ、シルビア、奴らもバカではない。すぐに気づかれるはずだ」


マークが急かすとシルビアは頷いた。


「世話になったな、ライドル家の少年よ」


マークがそう言うとベアーは声を上げた


「これで借りは返しましたよ」


ベアーの発言に対しマークはほくそ笑んだ。


「そうだな……だが、今度会う時は是非ともイニシエーションを最後まで……」


マークが続けようとするとベアーが間髪入れずに口を挟んだ。


「結構です!」


そのタイミングの良さにシルビアが笑った。


バツの悪くなったマークは口を開いた。


「さらばだ、少年!!」


マークはそういうと路地を馬で失踪した。


                        *


 こうして『なんちゃって梅毒作戦』は最終的に落ち着くところに落ち着いた。途中、ルナの描いたシナリオが変わり、芝居というフィクションから悪徳僧侶の独壇場になった時は『この先、どうなるんだ?』という思いも生じたが、何とか無事に乗り切れた。


『とりあえず……良しとしようか』


ベアーはそう思うとこれからのことを脳裏に描いた。


『悪徳僧侶のマークが再び野に放たれるのか……いいのかな……あいつ何やるかわかんねぇからな……俺のケツも狙ってるし……でも死罪になって癒し手を失うのは残念だしな……』


 ベアーは自分の行ったことが正しいとは思っていなかった。治安維持官をだまして悪徳僧侶を救うことは倫理的には許されないであろう……


 だがその一方で、人生ではこうしたことがあってもいいのではないかという思いもあった。


『毒を持って毒を制す……か』


 汚職が当たり前になった治安維持官たちに『嘘の梅毒』で打撃を与えたことは『いいクスリ』になるとベアーはおもった。彼らがこの後、自浄作用を働かせてまっとうな治安維持官になるかは不透明だが、少なからずまともにやろうとする者も出るであろう。


ベアーはそう思うと納得した表情を浮かべた。


「ルナ、そろそろ帰ろうか?」


ベアーが声をかけるとルナは隣で何とも言えない表情をしていた。ベアーはそれを見て怪訝な表情を浮かべた。


「何でニヤニヤしてんの?」


ベアーが尋ねるとルナはいつも身に着けているポシェットを見せた。


「……膨らんでるね……」


ベアーがそう言うとルナはニンマリとした。


『まさか……シルビアさんから……」


ベアーの表情にきづいたルナは実に悪魔的な微笑みを見せた。



「魔女がタダで仕事をするわけないでしょ!!」



そう言ったルナの表情は守銭奴がお辞儀をしてくるくらい黒光りしていた。


『なるほど……演技指導に異様に熱が入っていたのはこういうことか……』


けがを治してもらっただけでなく、そのあと報酬まで手に入れるとは……貿易商より商魂たくましいとベアーは思った。




40

翌日の早朝、ベアーはけたたましいノックの音で目を覚ました。


「何だよ、一体……まだ朝の4時だぞ……」


ベアーが不機嫌な表情で戸を開けるとウィルソンが満面の笑みを見せた。


「行くぞ、荷揚げだ!!!」


どうやら風が止んだようで出航の許可が出たらしい。ウィルソンは『このチャンスは逃さない!!!』という表情でベアーに発破をかけた。


ベアーは全く忘れていた本業を思い返し、急いで着替えた。


                         *


 まだ日は昇っていなかったが倉庫付近は街灯で明るく、すでに多くの荷夫が足しげく貨物を目的の場所まで運んでいた。


「ダーマスの港は不眠港と言ってな、通常はこんな感じでずっと荷物が運ばれ続けるんだ。今まで強風で仕事が滞っていたから今日は特に混みあってるけどな」


ウィルソンはそう言うとベアーの顔を見た。


「ところで、お前、ロバはどうしたんだ?」


言われたベアーはすっかり忘れていたことにきずいた。


『あっ、昨日の夜……詰所の所に、置いてきたままだ。』


病み上がりのユリアを運ぶのにロバの背中を借りたのだが、その後はロバの事を放置したことを思い出した。


『マズイな……手綱も、結んでない……』


ベアーは『しくじった……』という表情を見せた。


「しょうがねぇなあ、せっかくロバに荷物を運ばせようと思ってたのに……」


ウィルソンはそう言うとベアーをジロリと見た。


「お前が運ぶんだぞ!!」


「えっ?」


ウィルソンはそう言うと何事もなかったかのようにミラー海運の倉庫へと向かった。


                       *


 早朝からのクレーン業務と荷物にネットをかける網掛け作業を終えたベアーは大きく息を吐いた。すでに6時間近く作業に追われているがやっとのことで終わりが見えてきた。


作業がひと段落してベアーがレモネードを飲んでいると、頃合いを見たルナがやって来た。


「そろそろ出航だって?」


「そうだね……」


ベアーはそう言うとルナにロバの事を話した。


「あっ、そう言えば、すっかり忘れてた……」


ルナもどうやらロバの事はアウトオブ眼中だったようで今になって焦り出した。


「どうしようか、あと1時間で出航でしょ、今から街に行っても……間に合わない……」


ベアーはさすがに『マズイな……』という表情を浮かべた。


                        *


 そんな時であった、ケセラセラ号に向けて一頭の動物が歩いてくるのが目に入った。


短い脚、以外と綺麗な肌、そしてブサイクな顔……間違いなくアイツであった。


ルナは近づいてきたアイツに声をかけた


「ちょういいタイミングで戻って来たね、荷揚げのつらい作業が終わってから来るなんて」


ルナがそう言うとベアーも続いた


「そうだよ、絶妙のタイミングじゃないか」


自分が『放置』したことはさて置いて、ベアーは非難する口調でアイツを攻めた。


だがアイツは涼しい顔でそれをやり過ごした。


「まあ、帰って来たし、良かったんじゃない」


ルナはそう言ってロバの背中を撫でた。


その時であった、ルナが怪訝な表情を浮かべた。


「あれ、なんかいい匂しない?」


言われたベアーはアイツの背中を嗅いでみた。


「……石鹸の匂い……」


ベアーはその匂いでピンときた。


「お前……まさか……ニャンニャン……か」


ベアーがそう言うとアイツはチラリとベアーを見た、その表情には『成した者』だけが見せる余裕があった。


「まさか、俺が荷揚げして苦労してる時に……お前は、お風呂でニャンニャンか?」


ベアーが強い口調で尋ねるとアイツはニヤリと嗤った。そして颯爽とケセラセラ号に乗り込んで行った。


ベアーはそのケツを見て、如何とも形容しがたい表情を浮かべた。


そして……


「ニャンニャン、うらやましいです!!」


ベアーの叫びがダーマスの港に響きわたった。


                        *


出航準備がすべて終わるとウィルソンがベアーに声をかけた。


「俺は陸路でポルカに帰るから、向こうについたら荷下ろしは頼むぞ」


ウィルソンはそう言うとベアーに税関の書類や商品の目録書など手続きに必要なものを渡した。


「ウィルソンさんは船に乗らないんですか?」


「ああ、強風で出航できなかったから予定が変わったんだ。俺はロイドさんに言われた品を引き取りに行かなきゃならない。」


ウィルソンはそう言うとチラリとロバを見た。その眼は何とも言えないイヤラシさを含んでいる。


「あいつ、ニャンニャンしてきたんだろ?」


尋ねられたベアーは頷いた。


「早朝ニャンニャンです」


そう言われたウィルソンは目を大きく目を見開いた。


「早朝プレイは……上級者だぞ……アイツ、俺よりやるな……」


ウィルソンはそう言うとベアーのもとを離れ、駅馬車の停留所へと向かった。その背中にはロバに対する敬意のようなものがオーラとして浮かんでいた。




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