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第七話

13

その後、二人は街のメインストリートに出るとトネリアのスイーツに舌鼓をうつべく。屋台や商店で売られているものを手当たり次第みつくろった。


 スポンジ生地に生クリームを載せたプチケーキ、一口サイズのスイートポテト、高級品であるチョコレートを使ったマフィン、様々なものに手を出した。


だが……


 ポルカでいつも食べているレモンケーキを越える物にあたらず、2人は微妙な心境にいたった。


「種類は多いけど……それほどじゃないね……それに美味しそうなのは高いし……」


 ダーマスのスイーツは安かろう悪かろうで、値段の違いが商品の品質にもろに出ていた。さらには果物を使ったものは想像以上に値段が高く、2人は購入するのに尻込みした。


ベアーはウィルソンの言った『質』という単語を思い出した。


『……なるほど……そういうこと』


 ポルカの街は規模的にはダーマスに比べはるかに小さく、取り扱っている商品の数は少なかった。だがそのクオリティーに関してはダーマスよりも高く、その値段は良心的だった。


『ダーマスは色々あるけど……良いものは高い……安いものには粗悪品もある……ポルカよりも商売の幅がある……目利きができないときびしいな……商品の質感のばらつきは想像以上だな」


一方、ルナはそんなベアーを尻目に別のスイーツにありついていた。


 ルナは亜人の女が露店で売るパイ生地に生クリームとジャムを包んだ品を購入すると、さっそく口に放り込んだ。一口サイズで食べられるスナック感覚のスイーツをパクパクと食べた。


「この生地、軽いわ!」


 ベアーは一つもらって食べてみるとその通りで、口当たりが軽く、油脂分がおさえられているのを感じた。通常パイ生地にはバターがたっぷりと使われるのだがこの生地はそうではないらしく口当たりがさっぱりとしている。


「生クリームとジャムってあうんだね」


 マーマレードと生クリームの相性はかなり良く、外側のさっくりとした生地とよく合っていた。


「これはポルカにないね……それほど手の込んだものじゃないけど……おもったよりもおいしい……」


ベアーがそう言った時である、ルナが大きな声を上げた。


「あれ、何だろ、あの人の列!!」


ルナは指差すとベアーの手を引っ張ってそこに向かった。



14

人列の先には妙なテントがあり、皆そのテントの中に入るべく順番を待っていた。


『何の列だろう……』


ベアーはそれを確認するべく先頭の方に向かった。


『占いかな……いや違うな……』


ベアーは気になり中を覗こうと立ち位置を変えた。



その時である、後ろかいきなり肩を掴まれた。



「貧乏人はさっさと失せな!!」


 現れたのは美しい女であった。すっと通った鼻梁、透き通るような白い肌、齢は30を過ぎているだろうが誰が見ても美人と認める器量であった。


『あっ……ヤバイ……俺の好みだ……』


ベアーはそう思うと視線を一番重要な部分に向けた。


『きたコレ~~~~~~~』


ベアーの眼前には大好物が鎮座していた。


『デカい……だけど……形も素晴らすぃ~~』


 大きいだけでなく型崩れしていないそれはベアーのおっぱいセンサーを一瞬でMAXまで押し上げた。


一方、それを見たルナは即座に行動に移った。


「何に見とれとんじゃ、この糞ボケっ!!!」


ツツッとベアーに近寄るとそのケツを蹴り上げた。


『……い、いたい……穴に……はいった……』


 ベアーがケツを押さえるとルナはそれを見て鼻息を荒くした、そして今度は先ほどの女と対峙した。


「貧乏人とは、失礼ね。あたしのことを舐めてるの!!」


 ルナはそう言うと肩からつりさげたポシェットからカブ(異国から伝わってきたカードゲーム)で勝った現金(すでに両替済み)を見せた。


「さあ、金にひれ伏せ、この年増が!!」


ルナが居丈高になって女にそう言うと、女は『プー、クスクス……』状態になって笑った。


「あんた、そんな、はした金で……」


今度は周りに聞こえるような女は大声で笑った。


「お嬢ちゃん、うちのお客さんは最低でもその二桁多い金額を提示するわよ」


「ば、は、バカ言ってんじゃないわよ……そんな高い金を払う客が…いるわけ…ない…」


 ルナが続けようとした時である、列に並んでいた1人の紳士がジャケットの内側を開いて見せた。内ポケットには帯のついた札束がつまっていた。


それを見たルナの顔色は一瞬で青ざめた。


「どうしたの、お嬢ちゃん~」


怪しげな美女は汚いものを見るような目でルナを見た。


ルナは『グヌヌヌ……』という表情を見せるとベアーに助け舟を求めた。


だがベアーの視線は再び女の胸に釘付けになっていた。


「あなたの連れ……私に夢中みたいなんだけど~」


言われたルナは自分の胸を見て比べすさまじい劣等感に駆られた、


『クソッ……このデカ乳が!!』


ルナはそう思ってもう一度、ベアーのケツ蹴り上げた。


「ずいぶん暴力的なコントね」


女が見下した表情でそう言った時である、テントの中から男が現れた。



 男は30代前半で背が高く口元にひげを蓄えていた。金髪を短く刈り込んでいて一見するとイケメンである。だが男の醸す雰囲気は形容しがたく、男が『いい人間』なのか『悪い人間』なのか全く見当がつかなかった。


「シルビー、次のお客さんが来ないんだけど」


シルビーといわれた先ほどの美女は顔色を変えて男の顔を見た。


「すいません、マークさん、ただいま!」


男はその声を聞くとベアーとルナをチラリ見た。


ベアーは思った、


『この人……僧侶だ……でも……』


ベアーは男の持つ雰囲気の中に何やら不道徳なものを感じた。


『……もしかして…裏僧侶……か』


 裏僧侶とは魔導の力を行使して、手にした金銭を教会や寺院を通さず私腹を肥やす存在である。すでに破門された僧侶を差してそう呼ぶこともあるが……


『だけど……裏僧侶なら……寺院の僧兵につかまるはずだ……』


 寺院を通さずに私腹を肥やした僧侶には当然のごとく罰が与えられる、街中のテントで魔法を用いた医療行為などできないはずである。


『一体どうなってるんだ……』


ベアーが素朴な疑問を持つと男はそれを見透かしたように言葉をかけた。


「私の事が気になるか、少年?」


男はそう言うと悪意のある笑みを見せた。


「知りたければ、夜の街にくるんだな」


 男はそう言うとベアーに向かって名刺のようなカードを一枚、投げつけた。そこには『店』の名前と住所が書かれていた。


ベアーがそれを見たのを確認すると男はテントの中へと入って行った。


『この男……一体…何者なんだ……』


 ベアーはシルビーの巨乳も気になったがそれ以上に男の醸す雰囲気に邪悪なものを感じた。


                        *


 その夜、ベアーは夜の街に繰り出すことにした。男の事(シルビアの巨乳も)を確かめたいと思ったからである。


『もし……本当に裏僧侶なら……通報しないと!!』


 僧侶という立場上、『裏僧侶』という存在はゆるし難いものがある、証拠をつかみ、当局(ダーマスの寺院)につきだしてやろうとベアーは考えた。


『積み荷をケセラセラ号にのせるのは午後からだから、朝はゆっくり寝てられる。多少、遅くなってもいいだろう。それよりもあの怪しい僧侶のしっぽをつかんでやる!』


ベアーは僧侶としての道徳心から男に『喝』を入れるべく宿屋を出た。



一方、その後ろ姿を一人の少女と一頭の動物が影から眺めていた。


「絶対、いやらしい店に行くつもりよね!」


ルナがロバに語りかけるとロバは賢人のような顔をして頷いた。その表情には『間違いない』と浮かんでいる。


「あとをつけるわよ!!」


 ルナはそう言うと勢いよくロバの手綱を引っ張った。ロバはそれに合わせて意気揚々と歩き出した。


こうして魔女とロバも夜の街へと繰り出した。




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