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外伝 第十三話

37

我を失ったピートは皮袋から発破を取り出すと素早く火をつけ、集まった群衆に向けて投げた。再び小爆発が起こり、何人かが吹き飛んだ。幸運にも死者はいなかったが見るも無残な状態が赤茶けた地面に展開した。


 だが同時にその小爆発は砂上の白金も吹き飛ばしていた。再び集めるにはかなりの時間がかかる。



すなわち……組織との取引時間には間に合わない……



 ピートは自分でやったにもかかわらず怒り狂った、そしてその怒りパトリックに向けた。


「もう……許さないからね……」


逆切れしたピートは血の涙を流しながらパトリックを睨みつけた。


「お前だけは……絶対許さないぃぃぃっ!!!」


さしものパトリックもその表情にすくみ上った。


『……これは……ガチでヤバイな……』


パトリックはそう思うと一目散にその場を離れた。



38

ピートは逃げるパトリックに向かって発破を投げた。複数の発破を意図した方向に投げることでパトリックの逃走ルートを潰し、一定の方向へとパトリックが逃げるように仕向けた。


『いいぞ……それで、そのまま、進め……』


 爆風でつんのめり足をくじいたパトリックは冷静な判断を逸し、ピートの策略通りゲートを背にして追い詰められた。


『うまくはまってくれたな……こうなるように投げてたんだよ』


 ゲートは高さ4m、幅3m、頭上から見るとコの字型の構造になっていたが、パトリックはそのコの字型になった空間にはいってしまったのだ。すなわち閉ざされたゲートと両脇にある堅牢な石柱で逃げ場を失ったのである。


『マズったな……』


パトリックがそう思うとピートが間合いを詰めてきた。


「よくも……一年間の計画を……台無しにしてくれたな……」


ピートの血走った表情はすでに人ではなく獣であった。


「どれだけの対価を失ったと思ってるんだ!!」


狂人と化したピートは火種を導火線にあてようとした。


 パトリックは何とか逃れるスペースはないかと探った。だが、その空間を見透かしように一人の少年が埋めた――細目の少年であった。


「マイクの事、バラしやがってよ、俺の造ってきた組織が壊れちまったじゃねぇか、この糞イケメン!!」


 細目の少年はパトリックの退路を潰すと、釣りあがった細い目を見開いた。見開いてもその目は細く、陰湿な表情は変わらなかった。


「ピートさん、こいつ、ぶっ殺しましょう!!」


2人は狂気で彩られた殺戮者の眼を向けた。


                          *


『万事休すか……』


パトリックはそう思った。所詮は罪を犯す連中の集まりである、自分の命を助けるような人間はいないだろう……ミッチにしろ、ガンツにしろこの状況下では……。


『おっぱいの誓いか……こんなもんだよな……所詮……』


パトリックの中で乾いた感情が絶望となって生まれた。


『ベアー、どうやら、今度は駄目みたいだ……』


パトリックが諦めてそう思った時である、上方から声が聞こえてきた。


                         *


 パトリックが声の方に目を向けるとゲートに隣接した看守室の窓からミッチが手を振っていた。その脇にはガンツの後ろ姿もある。


「あいつら……」


何が起こるかはわからなかったが、パトリックの中で再び希望がわき起こった。


それを見たピートは鼻で嗤った。


「いまさら、なにを」


ピートは吐き捨てるように言うと火種を発破の導火線に引火させようとした。


「お遊びは終わりだ。」


ピートがそう言った時である、ゲートの扉が軋みだしてロックが外れた。


そして重々しい観音開きの扉がゆっくりと開き始めた。



39

扉の隙間から躍り出たのは2頭の馬であった。その馬上には制服の上からプロテクターを着けた治安維持官がいる。


「『終わり』なのはあなたの方よ、さあ、武器を捨てなさい!!」


 透き通る声でそう言ったのは実に美しい女性であった。ピンとした耳、白い肌、そして氷のような瞳、広域捜査官のスターリングであった。


 そしてもう一人、キラリと光る額はかなり後退し、明らかに薄いと思える頭髪の男がいた。


「カルロスさん……」


パトリックがそう言うとカルロスがそれに応えた。


「受け取ったよ、君の手紙!!」



39

躍り出たスターリングは矢を放ちピートの右手を潰した。


「もう、火はつけられないわよ、どうする?」


 開いたゲートの後方には国境警備隊の一団が鎧に身を固めて控えていた。それを見たピートは金縛り状態に陥った。


『なんでこうなったんだ……』


ピートはまさかの展開に打ち震えた。白金を失っただけでなく、自分の人生も失う破目になるとは……


『なんでこうなったんだ……』


ピートは再び同じ疑問を自分にぶつけた。


結論は簡単であった


『クソッ……パトリックのせいだ……あいつのせいだ…』


 複数の人間を殺めたピートにはもはや人間性の欠片も残っていなかった。不自由な左手を使って再び火薬玉に引火させようとした。


 スターリングはもちろんそれを逃がさなかった、二の矢を放つとピートの左手を射抜いた。



だが……



 ピートの憎しみはそれをものともしなかった。発火した発破を握ったままスターリングとパトリックに向かって飛び込んだ。


「お前らも……道連れだ!!」


投降しても死刑を免れないとおもったピートは狂気の行動に出ていた。


パトリックはピートの凶行に死を覚悟した


『人は……狂うと……こうまで……なるのか……』


 パトリックがそう思った刹那であった、カルロスのショートソードが呻りを上げた。下段から上段へと走った銀線はピートの肘から下を跳ね飛ばしていた。


「伏せろ!!」


カルロスが叫ぶと火薬玉を握った左腕は中空を回転しながら爆発した。


                          *


爆煙がおさまると3人はつぶさに状況を確認した。


「どうやら、無事みたいね」


パトリックはスターリングに声をかけられ小さく「はい」と答えた。


「カルロス、ピートを拘束して!!」


 左腕は切断されたもののピートは爆発に巻き込まれていなかった。カルロスはピートの止血を迅速に済ませるとその耳元でささやいた。


「運がいいな……死刑台が待ってるけどな」


それを聞いたピートは口から涎を垂らし放心した。



 パトリックはそれを見た後、立ち上がった。すさまじい徒労感が肩にずっしりとかかる、数歩進むと膝を折って石柱にもたれかかった。


『これで……終わったのか……』


パトリックがそう思った時である、1人の少年の姿が目に映った。


 少年は口から血を吐き、首をあらぬ向きに傾けていた。爆風で吹き飛ばされて石柱に叩きつけられていたのは一目瞭然であった。


「残念だったな、細目……」


パトリックは乾いた口調でそう言うとその場にへたり込んだ。



40

その後すぐにミッチとガンツがやって来た。


「いいタイミングでゲートが開いただろ!」


ミッチがそう言うとガンツが続いた。


「看守長のおっさんが、非常用のレバーとハンドルの操作を教えてくれたんだ」


パトリックは『そうか……』という表情を見せた。


「……それでゲートが開いたのか……」


 間一髪の状況でスターリングたちが踊りこめたのはそうした経緯があったのだ。


だがその後、ミッチの声は急に小さくなった。


「……だけど……あの…おっさん……」


ミッチが涙目でそう言うとガンツが続けた。


「……立派な…最期だった」


ガンツはそう言うと大きな肩を震わせた。



 汚職にまみれた看守たちに飲み込まれた『男』は自らが悪の連鎖の鎖となった。だが最後は人としての『道』を歩み、その矜持を貫いた。



パトリックは素直に感謝の念を伝えたいとおもった。


だが、それはもう……せんないことであった……


パトリックは人生の理不尽さと不合理さに下唇を噛んだ。


                           *


 この後、控えていた国境警備隊の一団がキャンプ内になだれ込むと白金を巡っての混乱は収束へと向かった。


 汚職に絡んだ看守たちは逮捕され、マイクとJ派閥の少年たちも拘束された。フラウは最後まで自分の潔白を主張していたが、ボンデージ姿では誰も信じず、最後は無残な結果となった。



パトリックの戦いは終わったのである。



次回で終わりになります。

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