表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/589

外伝 第十二話

34

2人のやり取りから辺りは騒然となり、そのうねりが看守と少年たちを巻き込みカオスを形成した。キャンプは更生施設ではなくヘドロを生み出す闇へと変貌したのである。


「パトリック、こいつら完璧におかしいよ……」


ミッチが震える声で言うとパトリックは涼しい顔で答えた。


「ミッチ、見ておくんだ、この愚行を」


スーパーイケメンがカオスを括目する姿はミッチの中に小さな勇気を与えた。


『すげぇな、パトリック……やっぱりちげぇ……俺たちとは』


ミッチはパトリックの態度に息をのんだ。


それを横目で見ていたガンツもミッチと同じ思いを持っていた。


「どうなるかわかんねぇけど……最後まで見届けようぜ」


『ケセラセラ大作戦』は想定外の事態に頓挫していたが、少年たちの眼には未来を見据える力があった。


「最後の勝負だ!!」


パトリックは二人を見ると目配せした。


                         *


 最初に動いたのはガンツであった、集まってきた少年たちに向けて大声を出した。


「おい、お前ら、俺たちはパトリックにつくぞ!!」


 右足と左腕の状態は相変わらず悪く、立つことさえままならないガンツであったが、その声を聞いたU派閥の少年たちはその声に直立不動の姿勢を取った。


「こんな腐った看守どもの言うことを聞く必要はねぇ、けじめをつけるまでは一切の活動を拒否だ。」


 かつてのガンツなら乱闘という選択を選んでいただろう。だが、パトリックに影響され脳筋から半脳筋と変化したガンツはサボタージュで抵抗する戦法を指示した。


 一方、ミッチは集まりだした看守たちに向かって叫んだ。


「そのピートってヤツは看守長を刺したんです、俺は坑道の近くで刺す現場をこの目で見ました。あなたたちの仲間を刺したんです!!」


 ミッチの言葉に看守たちはギョッとした顔を見せた。特にピートから白金の賄賂を貰っていた連中は複雑な表情を見せた。


「嘘だと思うなら廃棄所の方に行ってください!!」


ミッチの言葉を受けた新人の看守は小走りに坑道に向かった。



35

2人の言動に左右された少年たちは右往左往しだした。J派閥の少年たちも顔を見合わせてささやきあいだしている。


「おい、やばいんじゃないか……」


「なんか、おかしいよな……」


「どうなってんだ……一体?」


J派閥の少年たちは口々に不安な胸中を吐きだした。


それを見ると、一人の少年が声を荒げた。


「お前ら、何をビビってんだ、あいつらの作り話なんか真に受けるな。この場を逃れるための適当な嘘をぶっこいてんだ!!」


怒号ともいえる声を出したのは細目の少年であった。


その後、細目の少年は向きを変え、看守の方を向いて語りかけた。


「看守のみなさん、きっと看守長を刺したのはこいつらの中の1人です。ピートさんのせいにして自分の罪を逃れようとしているんです!」


 細目の少年は白金の賄賂を貰っている看守に向かって恭しい態度でそう言った。


「こいつらを押さえちまえば、こっちのもんですよ!!」


それに対し今度はパトリックが声を上げた。


「おい、細目、マイクはどうなってんだよ、お前らのリーダーだろ、マイクの話を聞かせろよ!」


 パトリックがそう言うとJ派閥の少年たちはいっせいにマイクを見た。リーダーの指示を仰ごうと思ったのだろう。だがマイクは震えながら回りをキョロキョロしだした。


「あれ、お前、リーダーなんだろ、何でそんなに落ち着きがないんだ」


のるかそるかの修羅場にいきなり放り込まれたマイクは口をパクパクしだした。


「ひょっとして細目の奴がお前に指示を出しているんじゃないのか?」


J派閥の少年たちは一斉に疑惑の眼を注いだ。


マイクは体を震わせると顔をあげてしどろもどろの口調で声を上げた。


「ピートさんに……ピートさんに……リーダーをヤレって……僕は……それで……彼が僕に指示を……」


マイクはキョドッタ顔つきで細目の少年を指差した。


「何を言ってんだ、マイク!!」


 思わず本当のことを言ったマイクに細目はブチキレ、すさまじい剣幕でマイクを怒鳴り散らした。だが皮肉なことに細目の行為はJ派閥少年たちにマイクが『飾り』だと気付かせてしまった。


「おい、お前ら、いいのか。お前らはリーダーに騙されてたんだぞ、派閥の人間のトップに!!」


 そう言ったのはガンツである、半脳筋として覚醒したガンツはJ派閥少年たちを煽りJ派閥の結束を壊しにかかった。


一方、パトリックは集まり出した看守に向かって呼びかけた。


「みなさん、ピートの乗っている荷馬車には何が積まれているか知っていますか、きっとみなさんに配分されるはずの白金ですよ。ピートは皆さんに配らずに持ち逃げするつもりです」


パトリックは混沌をさらに深めるように続けた。


「きっと独り占めにするんですよ、皆さんの事なんて関係なく」


パトリックは悪意を凝集させ素行の悪い看守たちを煽った。


看守たちは顔を見合わせると荷馬車にいるピートを見た。


「おい、あいつの言っていることは本当なのか、お前、白金をその荷車にのせているのか?」


賄賂を貰っていた看守がそう言うと周りの看守たちもピートに注目した。


ピートは内心『マズイ……』と思いながら明るい声で答えた。


「この荷は鉄鉱石ですよ、そんな白金なんて……それに僕は看守長を刺してなんかいません……彼の言った通り、その3人の中の1人でしょ。」


ピートがそう言うとパトリックがそれを見透かして発言した。


「じゃあ、その荷物、中を見せてみろよ!」


 パトリックは悪意のこもった目でピートを見た、その瞳には明らかに悪魔が映っている。


『このクソガキ……』


ピートがそう思った時である、看守の1人がピートに近づいた。


「ピート、組織と取引する前に先に分け前をくれるって言ってたよな……あれは嘘なのか?」


 賄賂にどっぷりつかった看守にはモラルなどなかった。パトリックの言葉に影響されピートに詰め寄ろうとした。一人が動き出すと他の看守たちも歩きだし、皆一様に白金を求めた。その姿は浅ましいという表現をはるかに超えた人間の下劣さを体現していた。


 それを見たパトリックは『勝った』と思った。品性の低い看守を煽ることでピートの持つ白金に注目を向けさせることに成功したからだ。


『これで組織との取引がつぶれればあいつは何もできない……フラウも意見具申をエサにこっちに食いついた。この勝負もらったな!!』


だが、そうはいかなかった。想定外の事態が生じたのである。



36

凄まじい爆音と爆炎が赤茶けた大地を襲った。


「ゲートを爆破するのに使おうと思ってたんだけど……こういう方法もいいかもな」


 なんと、ピートは備品管理室で手にいれた破砕用の発破(火薬玉)を用いて近寄ろうとした看守たちを吹き飛ばしたのである。


爆風で吹き飛ばされた看守は受け身が取れず、悲惨な大けがに見舞われた。


「欲深い屑どもが、調子にのったら、こうなるんだよ!!」


 ピートがそう言うと周りにいた少年や看守たちは怪我人を無視して我先にと逃げだした。


                         *


ピートはその中で目聡く逃げ遅れたガンツに目を向けた。


「お前は歩けないようだな」


ピートはほくそ笑むと歩くのに難儀するガンツに笑いかけた。


「散々、煽ってくれたじゃねぇかよ……計画が台無しになるところだった。」


 取引の時間まで若干の間があるためピートには余裕があった。ピートは火薬玉を掲げるとガンツに向けた。


「発破で死ぬのって、どんな気持ちなんだろうな。」


既に人を殺めて『一線』を越えたピートには殺人行為をおさえる歯止めはなくなっていた。


「バラバラになるのって痛いのかな?」


ピートはケタケタ笑いながら発破に着火しようとした。


その時であった、距離を置いていた少年たちの間からパトリックが現れた。



「待て!!!」



パトリックは声を上げるとガンツの所まで近寄った。


「パトリック、お友達を助ける気なのか?」


ピートは悪辣な表情を見せた。


                         *


「何で、来たんだ……お前までやられちまう……」


ガンツがそう言うとパトリックは声を上げた


「俺たちの『誓い』はそんなに安いもんじゃねぇ」


パトリックは『おっぱいの誓い』に秘められた心の力を信じていた。


「苦しいときに支えてこそ、意味があるんだよ!」


そう言ったパトリックの顔は雄々しく、艶やかで、美しかった。


「何か策があるのか?」


ガンツがパトリックに希望の眼差しを向けるとパトリックは即答した。



「まったくない!!!」



ガンツの希望は一瞬にして絶望へと変わった。


だが、パトリックはそれ見て落ち着いた声で言った。


「『ケセラセラ大作戦』の真髄は『なるようになれ』だ。現状にビビッて右往左往しても未来はねぇ、後は出たとこ勝負だ!」


 そう言ったパトリックの顔はスーパーイケメンを越えた超絶イケメンの域に達していた。


それを見たガンツは不思議な心境に至った。


『こいつのためなら、俺の命……張ってもいい』


ガンツはそんな思いに駆られた。


                         *


「何、ごちゃごちゃ言ってんだ、クソガキども!!」


 発破の導火線に引火させるべくピートは火種(引火させた綿が入った遮熱性の容器)を懐から出した。


「これで、終わりだ、ガキども!!」


ピートが投擲体制に入った。


 まさにその時である、牽制するためにミッチが投げた石つぶてが荷馬車の馬に直撃した。驚いた馬が暴れるとピートは手綱をとるため体勢を崩し発破を落としてしまった。


 パトリックはそのチャンスを逃さなかった、地面に落ちた発破を急いで拾うと馬車の荷台に放り込んだ。


「何をしやがる!!」


ピートのすさまじい怒号が飛んだ。



そして……



 荷台が吹き飛び荷物が四散した。白金をおさめた木箱は見事に破壊され、中にあった白金は陽光を受けて煌めきながら飛び散った。


 周りでそれを見ていた看守と少年たちは吹き飛んだ白金を集めるべく群衆となって殺到した。


「うぁぁああ、それは俺のだ……やめろ!!」


ピートの絶叫がキャンプに木霊した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ