実力者の意味2
実力者の意味の主人公の婚約者鳴上視点のお話です。
俺が婚約者である氷上 雪にあったのは、まだ子供の頃だった。
氷上家の特徴が良く出たキラキラときらめく氷のような、青銀の髪。光の加減では銀にも見える、薄青の瞳。
どこか冷たい印象の容貌の所為か、まるで良く出来た人形のようだった。
しかし、ある程度親しくなってから、その印象は一変した。
雰囲気が、のんびりしているのだ。日向ぼっこをしている猫のように。
特徴的な氷上家の容姿をしていなかったら、本当に氷上家の実子なのかと疑ってしまうレベルだ。
まあ、婚約者として過ごした時間で、あの冷徹だとのなんだの言われている氷上家当主(婚約者である雪の父だ)が、親馬鹿一直線の家族ラブな人だと知って、ああ、対外的なイメージと実際はやはり違うと知った。
雪も、俺の前ではほわほわしているが、人前では流石氷上家というような、言動を取っている。
素を知っている俺としては、笑いをこらえるのが結構大変なんだが。
とはいえ、俺も鳴上家のイメージの沿った言動をしているから、人のことは言えない。
イメージであれ、なんであれ、利用できるものは利用するのが当然だからだ。
そんな雪は、変わった奴だった。
雪は面倒な事は嫌いだと良く言っているが、努力を怠ることはなかった。
早く帰って猫と遊びたいとか言いながら、何時だって真面目に物事に取り組んでいた。
本人に言わせると、後回しにすると余計面倒なことになるかららしい。
効率よく物事をてきぱきと進めるのも。
殆ど失敗せずに大抵のことをこなすのも、
すべて楽をする為らしい。
そんな雪は、傍から見ると努力を怠らない真面目な天才に見えるらしい。
楽をする為に努力を惜しまないのは、真面目と言っていいのか微妙に悩む。
そんな雪だったから、俺はまあ、いいか、と思っていたんだ。
雪なら、退屈しないだろうし、この先一緒に生きてもいいか、と。
そんな雪への思いが変わったのは、学園に転入生が来てからだった。
非常に珍しい転入生と、何故か遭遇することが多かった。
何度か言葉を交わし、俺は不思議な気持ちになった。
女の子って、こんなふうなのか、と。
なんだかふわふわしていて、明るくて元気なのに、どこか庇護欲をそそる。
正直言って、雪は美人だが、あまり異性として認識していなかった。
言動があまり女の子らしくない所為もあるんだが。
子供の頃一緒に木登りしたり、虫を捕まえて遊んだりしたからな。
仲の良い幼馴染が、そのまま成長したような感覚だったんだ。
だから、その転入生……百瀬の存在は、新鮮だった。
そんなある日、俺は雪に呼び出された。
百瀬と仲が良い様子だが、彼女と添い遂げる気があるのか、と。
俺は驚いた。
何故なら、そんな気は全くなかったからだ。
確かに百瀬の存在は新鮮だったが、彼女を伴侶としたいと思ったことは無い。
だが、雪の言葉は耳に痛かった。
何故なら、そう認識されるような行動を俺が取っていた、ということだからだ。
そんな隙を見せるなんて、俺もまだまだ甘い、ということだろう。
そんな俺に、雪は俺が百瀬を伴侶に望む事を前提として、話を続けた。
氷上家との関係を白紙に戻すのは、不可能。俺達の結婚を前提として、交流を深めているのだから。
婚約破棄をするのであれば、それ相応の理由や利点が必要となる。
そんなことを、雪は俺に淡々と説明した。
俺にはそんな気は全くなかったが、俺は雪に礼を言った。
何故なら、雪の話は、全て俺の為の話だったからだ。
一方的な婚約破棄であれば、完全に俺に非がある。
だが、雪とて大変な筈だ。
それなのに、雪は自分の被る迷惑や不利益について一切言わなかったのだ。
ただ、ひたすらに、俺の将来を案じる事だけを、言った。
この時、俺の雪に対する認識が変わった。
一緒に生きてもいい、ではなく。
一緒に生きてきたい、と。
一生を添い遂げるなら、雪がいい。
俺は、そう思った。
まず、雪の誤解を解かなくてはいけない。
雪が誤解したということは、周囲もそう認識したということだろうから、そっちも対処しないといけない。
そして、俺は百瀬の異常さに気がついた。
良く遭うな、とは思っていたが、遭遇率の高さは異常だ。
俺だけではなく、生徒会の面々も良く遭遇していた。
急に先生に頼まれた用事だというのに、偶然遭う。
クラスメイトに話しかけられ、時間がずれた筈なのに偶然遭う。
どう考えてもおかしい。
しかも、俺や生徒会の皆の個人情報を、どうやってか入手していると思われる。
好物や趣味やらに、詳しすぎるのだ。
こちらが好ましいと思う言動を、何故必ず出来るんだ?
一人相手ですら難しいそれを、俺達全員にするなんて、普通は不可能な筈だ。
警戒しているところに、百瀬が雪に苛められたと言い出した。
証拠もなく、どう考えてもおかしい。
百瀬は氷上家が、証拠を隠滅しているとか言ってるが、ありえない。
雪が本気で事を起こすなら、主犯だとすぐにばれるような事をする筈がないのだ。
雪はそこまで愚かでも、無能でもない。
証拠を残さないのに、雪がやったとばれるなんて、どう考えてもおかしい。
俺は雪を貶める百瀬に、とっとと報復をしようとしたが、王子に止められた。
氷上を貶める理由をさぐれ、と。
俺達に接近している理由と、関係があるかもしれないとも。
個人情報は探ればなんとかなるだろうが、問題なのはあの遭遇率の高さだ。
何か特殊能力がある可能性がある。
特殊能力であれば、研究対象だ、と。
俺は仕方なく、百瀬を暫し泳がせることに同意した。
結論から言うと、百瀬は馬鹿だった。
あんな自作自演で騙される輩なんて、いるのか?
しかも、雪の「氷上の名にかけて」という言葉の意味にすら気付いていない。
百瀬は、確か魔力量の多さを認められてこの学園に入ったはずだ。
しかし、いくら魔力量が多くても、こんなお粗末な思考回路をしているようでは、駄目だ。
魔法は、威力だけが重要なのではない。
制御、展開は勿論、効果的な使い方等々。的確な判断力や精神力、色々と求められることは多い。
魔力量の多さだけでどうにかなるようなものではないのだ。
重要な役割を任せられるような、器ではない。
すなわち、皆も百瀬を庇う価値を見出さない。
氷上家は勿論、鳴上も百瀬の敵に回る。
本来なら、完膚なきまでに潰すところだが……残念な事に、王子に止められている。
特殊能力の調査があるからな。
もし利用価値のある特殊能力であれば、ある程度で手打ちになるだろう。
とはいえ、それが百瀬に対する温情になるとは思えないが。
この先、潰れるまで道具として使われるのだから。
そして利用価値が無ければ、氷上と鳴上で潰すだけだ。
それでも、百瀬に対して一つだけ感謝していることはある。
おかげで、雪の良さをより理解することが出来たのだから。
遭遇率が高いのも、好ましいと思う言動をしているのも、ヒロインが記憶持ちの転生者だからです。
必死にイベントを起こして、好感度の上がる選択肢の言動をしていました。
ヒロインにとっては残念ですが、彼らは好ましいと思う言動をする相手は、親しくなる前に確認するようにしていました。
なので、特定の人間にだけ遭遇率が高く、しかも好みを熟知している=警戒対象となっていました。
知り合い程度ならいいですが、親しく付き合うとなると、好き嫌いだけでは相手を選ばないのです。
雪ちゃんに濡れ衣を着せたことに対して、深読みしたので暫く泳がせたところ、深い意味がなかったので、失望。
余計ヒロインに対する評価が下がりました。