パーティ成立
「まあ、そういう事情なら、うちんとこ入ったら?こっちも人手不足で、正直辛かったのよねえ」
とすん、と椅子に腰を落とし、少女はカラッとした明るさで言い放つ。
夕暮れ時、段々と賑わいを見せ始める宿場町の酒場兼食堂の一角で、ブロンドの美少女とローランは相対していた。
庶民の憩いの場である、大雑把な造りのホールに、あからさまに場にそぐわない、少女の育ちの良さを匂わせる顔立ちと服装が際立つ。唯一言葉遣いだけは砕けた物言いで、多少ローランの緊張を和らげた。
話を戻すと、森で出会ったローランと少女…ナイエルは、連れ立ってこの宿場町まで戻る間に、お互いの事を世間話がてらポツポツと話していった。
こちらローランは、自分の店を持つため、また自営に有利な協会認定治癒魔術師の資格を得るためのスキルアップが目的で、ギルドに登録し、仕事を請け負う日々。だが、魔術師としては半人前、しかも治癒系の自分1人では魔物退治はできないため、どうしても仕事が少ない。そのため、今日のような薬草探しで地道に日銭を稼ぐこともしばしばだった。いつもは奥地のほうにはいかないようにしているが、今日は収穫が少なくて焦っていた。
対してナイエルの方はというと、こちらもギルド登録の冒険者だが、元々は貴族のお嬢様で、不自由のない生活を送っていた。だが、そろそろ結婚を…と言われる歳になり、余りの見合いの数々にすっかり嫌気が差し、従者1人を伴って半ば家出状態だそうだ。
ただナイエルは攻撃系スキルの持ち主のため、結構危ない仕事に首を突っ込みがちである。それで、パーティを組んではいるのだが、つい最近治癒魔術担当のメンバーが一時的に抜けてしまったため、攻守バランスが崩れていたのだった。
あの、黒ずくめの男が、「あいつの代わり」だとかなんとかいってたのはこのことか、とローランの腑に落ちる。ちなみにあの男も一応パーティの仲間だそうだ。
とりあえず、ローランにとっては渡りに船な話であった。
「ありがとうございます…是非とも。今は中位の治癒魔術がなんとか使えるぐらいですが、がんばってスキルアップしますから」
「よかったですね、ナイエル様。ある意味やっと普通のメンバーですよ」
そういって、三人分のお茶を運んで来たのは、パーティの残り1人、ナイエル専属従者兼剣士のデューラである。
簡易だがそれなりに質の良い防具に身を包んだ彼は、赤茶の短髪が精悍な、美丈夫だった。ナイエルと並ぶと、絵に描いた姫君と騎士のようで、いい雰囲気である。
少女がにっこりと笑みを作る。同性のローランからみても、ハッとするくらい魅力的だ。
「決まりねっ。んじゃあ、歓迎の印に、今日は飲むわよー!」
「…え?」
威勢良く立ち上がり、ウェイターに合図を送ったナイエルを見て、まだ未成年なんじゃ…とローランが目を丸くしていたら、デューラがこそっと耳打ちした。
「ナイエル様、あの見た目で、もう23なんですよ」
立派な成年女性、しかも19歳のローランより年上…。
早速テーブルに運びこまれたジョッキを嬉しそうに手に取るナイエルに、ローランがやけに頼もしさを感じたのは…当然かもしれない。
普通はナイエルが主役になるんじゃ、と今頃気付きました。