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帰り道の三人


「俺達なんかと帰ってていいのかよ」

 いつものように、共に帰るため校門で待っていた僕と冬香先輩に向かって開口一番夏輝は言った。

「僕は彼女ができても友情を蔑ろにしないタイプ」

「へぇ、そりゃ感心」

 感心しているようにはとても見えないおどけた笑みを浮かべる夏輝。

「けど、ソッコー振られて俺の胸に泣きながら飛び込んでくるなよ?」

「ハハ、それはない。胸に飛び込むなら先輩にしとく。ここぞとばかりにグリグリする」

「はぁ……夏輝と関わったせいで、私の秋人がとんだエロ河童に……」

 長息する先輩。いつものパターンで行くと、この後先輩が夏輝になんやかやとイチャモンをつけ、一騒動が起きるハズだ。小学校の時から連綿と続く、仲良しグループ(と、僕は思う)の下校。気の合う仲間とだけで構成する閉鎖集団は、何にも増して居心地がよい。それは生まれつき「家族」という構成単位を持つことができなかった僕が、苦労して手に入れた安寧の場所。血ではなく心でつながる「家族」だった。

「ねぇ、そういえばさ夏輝」

 僕は案の定先輩と舌戦を繰り広げはじめた大きな背中に語りかける。

「実は今週の日曜人生初デートなんだけどさ、アドバイス歓迎なんだよ」

「なんでちょっと上から目線なんだよ……。どこ行くんだ?」

「海浜水族館」

「珍しい、お前でも人のアドバイスちゃんと聞くこともあるんだな」

「ホント、珍しいわね」

 僕はいつだって人の言うことをよく聞く素直な人間だよといいかけたが、二人の見解が一致しているようなので抜きかけた刀を鞘に戻す。気がつかなかったが、僕は人の意見を聞かないことが多いらしい。要反省。

「俺のお勧めスポットを採用してくれた可愛い弟分には張り切ってデートのなんたるかを叩きこんでやりたいところだ・が」

「そこ逆接なの?」

「ああ、残念ながらな。オレ様は女にサービスしようなんて思ったことは一度もないし、そうしたこともない」

ニカッと白い歯を出して笑い、胸を張る夏輝。

「亭主関白ってやつだ」

「そうだ。男子たるもの女に媚びるようではイカン。アキ、お前も男なら女の一人や二人アゴで使って見せろ」

 夏輝の発言に、封建時代の考えだわ……と冬香先輩は嘆ずる。

「いい、秋人。あんな蛮族の言葉に耳を貸しちゃだめだからね。二十一世紀は男女同権の時代よ、レディーファーストを常に忘れない紳士でなくちゃ」

「おい、バカ女。なぜ男女同権でレディファーストになる」

 バカ女……ぐっと冬香先輩は何かを飲みこんで、夏輝を見下すような顔を作る。身長の関係で実際は見上げる形になっているのだが。

「……女性は色々な面で男性にない不利益を背負ってるの。だからレディーファーストを徹底して初めて男女同権になるのよ。積極的格差是正(アファーマティブアクション)ってわけ」

ま、あんたみたいなサルには分からないでしょうけどと話を結び、勝ち誇る。それを、顔の血管を浮き上がらせながら歪な笑みを作り見下ろす夏輝。

「はい、ストッープ」

 これ以上ボルテージを上げるのは限界と判断し、試合中止を宣言する。全く、この二人の犬猿の仲は筋金入りだ。緩衝材がなければどこまでもヒートアップして、その熱で地球が爆発するんじゃないかと思う。

「全く、チビ女には構ってられんぜ」

「く……っ。でも秋人に怒られるから我慢よ……じっと我慢の子よ私……」

 良い子なので先輩の頭を撫でグッドガールと褒める。

「あ、それとこれは真面目な話なんだけどなアキ」

「どうしたの改まって」

「最近な、海浜水族館の辺りにちょっとヤバイ奴が来てるみたいでよ。なんでも、街から街に渡り歩いてそこの土地のリーダー格潰して回ってるらしいんだ」

「ワオ、夏輝ピンチじゃない」

「馬鹿、俺なら楽勝だっての。……と、俺本人に来るならなんも問題はねぇんだけどさ、俺が心配してるのはお前のことだよアキ。お前は結構俺のツレとして名が広まってるからな。面倒事に巻き込まれるかもしれない」

「了解。気をつけておくよ」

「悪いな……。デート、日曜だったよな? 当日は俺も周辺にいるようにするから、なんかあったらソッコー呼べよ」

 心配性で仲間思いの夏輝だ。まさか人の多い水族館の中で喧嘩に巻き込まれるなんてことがあるとも思えないが、その心遣いには感謝する。

「夏輝、アンタ秋人には素直に謝れるのね……」

「……だからなんだよ」

「ホモ」

「はいストーップ!」


 僕は再度不穏な空気を肌で感じ取り声を張り上げる。いつものことながらこの二人をみていると、キューバ危機とかバルカン半島といった言葉が想起される。今日も火薬庫の管理人は一瞬たりとも気が抜けなかった。



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