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造られし魂  四季計画管理記録より


 生野実験室管理あ号計画管理記録

    執筆者 計画主任 生野 萌華

 情報種別:極秘


 被験体の少年は禁忌達成によって死んだエディプス。従って細胞自死が起こる前に新たな意識を成形しなければならない。スピードが問われる。

 まず第一にすべきこととして、非験体の原人格を壊した禁忌に関する記憶を脳内から消しさらなければならない。そうしなければ、新たな人格を植え込んだところでたちまち壊されてしまうだろうからだ。しかし、現時点の化学では記憶領野のどこにどういう種別の記憶が眠っているのかは判明していない。そこで私は、発想の転換を行った。

 禁忌の記憶に耐える、抗耐性の人格をまず作ればいいのだと。

 人間以外の動物において近親交配はさほど珍しくもない。よって動物的本能を主軸に構成した人格を移植することで問題の解決を図れるだろう。

 こうして、本能を司る人格『夏輝』が産まれた。

 『夏輝』に対する反応実験の成果により、禁忌の記憶を保持する部位を発見できた。そしてその結果から、そこに至る神経接続を破壊し、その記憶を“思い出せない”ものへと変異させることができた。

しかし、後の実験から、強度の暴力的行為(殺人、強姦)の実行によりまだ禁忌の記憶を想起してしまう場合があることが分かった。思い出しづらいというだけで、強い刺激が起これば電気的シナプスが発生し、壊された神経接続を再び繋いでしまうのだ。

接続部はともかく、領野に手を加えれば記憶保持自体ができなくなる可能性がある。

 そこで、私は発想を再度転換し、攻撃能力を剥奪した人格を用意することにした。

こうして、対人を司る『秋人』が産まれた。

 秋人は被験体のメイン人格となるべく作られた人格で、クライアントが求める高い社会性を獲得するため、本能を去勢してある。他を攻撃することもなく、何かに執着するわけでもない仏僧のような人格だ。この『秋人』がボディを支配する限り、強度の暴力的行為が行われるハズはなく、それによって再度の人格破壊が起きることもないだろう。

 しかし、『秋人』を被検体に移植して観察を続けたところ、ある問題が発生した。

 『秋人』は自発的に行動することができなかったのだ。

 なるほど、対人特化人格として設計したように、他人の言うことは素直に聞き、従順だ。しかし、ただそれだけなのだ。

指示が出されなければなにもすることはない。また、自分に与えられた命令ならば、その善し悪しを考えずに全て実行してしまうという問題も見られた。これでは同居人格である『夏輝』により近いうちに飼いならされてしまうことが予想される。

そして『秋人』がつくられた本来の目的を達成することができなくなってしまう。

そこで『秋人』を正しく導く為の人格が必要となった。

 こうして知を司る『冬香』が産まれた。

 『冬香』は高い学習能力を持って外界の情報を集め、それを元にして『秋人』により適切な指示を内部からだし、その人格的完成を目指すという役割が振られている。ただ、その運用目的上、善悪、正否を過敏に、そして厳密に判断してしまうため、通常の人間生活で必要とされるファジーな判断ができず――簡単に言えば融通が利かない性格であるため――対人能力値は低い。

また、常に自分の正しさを自覚しているため、多少傲慢な面も見受けられる。

そう、三人格はどれをとっても完全でないのだ。

 あくまで、冬香の人間的感情を無視した合理的判断を夏輝の本能的な感情と合わせて秋人が中和し、判断することによってなんとか人間的な外観を保つに至っている。

 現時点では一応の完成といったところか。しかし、クライアントはこの結果に満足してしまっている。傍から見れば、『秋人』という新しい人格が完璧に人間をやっているように見えるだろう。内部では三人格の激しいせめぎ合いが起こっているとしても……。

 この計画は、完成を見ずに終了を宣告されるだろう。私にとってはまだ道半ばだが、クライアントにとっては終わってしまっていて、計画の主導権はあちらが握っているのだから。

 全く、学問的価値を図れない俗人といのは度し難い存在だ。

 けれども私もまた認めなければならないだろう。『秋人』『夏輝』『冬香』を纏めた統合人格……『四季』の完成は、現時点で全く不可能であることを。

今のまま三人格を統合したら、お互いを打ち消し合って後に何も残らない。元のがらんどうの春人に戻るだけだ。

三人格の統合には何より時間が必要である。彼らは時が経つにつれ、お互いを学び、その角を削っていくだろう。そして『夏輝』が優しさを、『秋人』が意思を、『冬香』が感情をそれぞれ手に入れた時、遂に計画が成就する。

三人格は統合され、


人類史上最高の人間。


人の完成形として、『四季』が顕現する。


……人類の罪は、動物を遥かに超えた大いなる力を持ちながら、魂は動物のままであり続けたことだ。今、地球上に生起している問題は全て欠陥製品である人の意識が、信じず、迷って、争うから起こる。

夢想家と笑われるだろうが、進化した魂である私は『四季』こそがそんな世界を終わらせてくれると信じている。

 ……。

しかして、その時が来るまで私の出番はない。今はただ三人が送る人生を舞台裏から見守るだけだ。幸い、「一族」の若い研究生が私に賛同してくれ、後の三人の管理を任せることができた。だから、私は時が来るまでさらに人の心について学んでいこうと思う。

幸い、この実験の結果から面白い発見ができた。

実験結果が、あまりにも精神分析学者、ジグムント・フロイトの説に似ているのだ。

フロイトの魂の三分説になぞらえれば、エスが夏輝、エゴが秋人、超自我が冬香ということになろうか。あくまで必要に応じて成形していった人格が、フロイトの論を傍証するかのような形に収まったことは興味深い。精神分析学など純粋に思弁的なもので、実用の学問足りえないという私の所感は、他ならぬ自分自身によって覆されてしまったわけだ。フロイト……あるいはそれに連なるその高弟達の見識の中に、他にもこの世の真実を語る言葉が眠っているかもしれない。


私は与えられた時間でそれを探そうと思う。


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