ねぇ、いつから。
【ねぇ、いつから。】
いつから何かを求めて本を読んでいたんだろう?
いつからいつから……?
幼い頃、どんな気持ちで本を読んでいたのか思い出せない。
本当に思い出せない。
だから子供ができたら聞こうと思うけど、
きっと本が嫌いな子になったら意味がない気がする。
だから早く生まれ変わりたい。
馬鹿げたことだ。
それでも、諦められない。
生まれ変わって本が好きになったその時こそがチャンスだ。
大切なことを忘れながら生きている、自分。
いつからか国語の成績を上げるのって、本読むのが一番いいらしいよ?と誰かが言った。
自分の得意分野は――国語、だった。
それからは本を読んでいる度に、ちらと頭をよぎる言葉。
――これも成績の糧になっているんだろうか?
丁度、数学や理科が伸び悩んでいた時期だった。
国語しか得意なことがなくて。
成績が唯一、良かったのが国語だった。
国語に居場所を見つけ始めた。
いい点を取って羨ましがられる度、褒められる度……あの言葉が頭をかすめた。
――これも成績の糧になっているんだろうか?
作家に、編集者に、出版社に、その本に――失礼な気がした。
もう読む資格がないような気がした。
作家が本当に伝えたい言葉の裏に隠された言葉に、自分が気づけなかったときが少しあった。
そんな時、このサイノウを失いたくないと思ってしまった。
いつからだろう?
本を読みたいという気持ちが、成績を上げたいという気持ちになり、このサイノウを失いたくないと――恐怖に怯えるようになってしまったのは?
ねぇ、いつから?
【後日談。】
本を読むことをやめた。
苦しくて、哀しくて。
サイノウを失うのは怖くて。
凡人の私には、本を読むという人の役に立たない能力しかなくて。
そんなものに怯えるくらいなら、いっそ……そう思った。
失う前に、捨ててしまえばいい。
さらさらとノートに書き残す音。
●や、▲や■。
ずらずら長い式や、覚えにくい公式。
そんなものを無理やり頭に蓄積させながら、やっとのことで自力で答えが出るようになった。
「これで……あってる?」
「ああ、出来てんじゃん」
「本当!?」
「ああ、本当だ」
ご褒美、やる。
そう言われてそちらを向くと、くしゃりと頭を撫ぜられて、唇が近づいてきました。
ああ、いいかも。
数学って。
ちゅ、と音を響かせながら離れた体温を感じながら思いました。
あれからこつこつと数学の勉強をしています。
これから彼女が本を読めるようになったのか?
ご想像にお任せします。
2011.08.22 麦茶。