猫。さくせん。
「密売業者のしっぽを掴んだ」
グレ兄が告げる。
厳かに俺は頷く。
うむ、続けろ。
「明日の晩、闇オークションが開かれるそうだ」
なんだと。
え、それ、すごく悪っぽい。
まごうことなき犯罪で悪なんだけど、すごい悪っぽい悪っぽい。
俺の中でのテーマ曲がゴットファーザーな感じが、すごい悪っぽい。
続けろ、続けるがいい。
「会場は広く、人数が特定出来ない。貴族の捕縛も視野に入れ、三隊の共同での任務となる」
貴族って、この国を支える礎だから、むやみやたらに捕まえられないんだって。
それこそ現場をばっちり押さえたりしないと、効果がない。
それでも、権力やぐぅーるどぅ、ああ、すまない。
俺の英語力が出てしまったようだ。
英検四級の実力が出てしまったようだ。
それでも、権力や金に負け、逃がさなければならなくなった例もあるとか。
ちっ、これだから政治は信用できねえんだよ。
汚れた吹き溜まりでさあ。
だから筆者は選挙行かない。
続けろ。
「場所はここだ。このホールの見取り図がこれで、こことこことこことこけこっこー」
嘘だ。
グレ兄ちゃん真面目だからそんなこと言わない。
地図を広げて、直接、手に持ったペンで指して説明している。
三方向から攻め入るようだ。
ものどもであえであえー。
出会えー。
禁断の恋~私を二重の意味で捕まえて~
近日公開。
我ながらセンスない。
続けろ。
「数名が中におとりとして入ることになってる、うちの隊は俺と隊長が」
ガタッ
「え、先輩は俺と組なのに、なんで俺じゃないの!!」
イニアがグレグレに食ってかかった。
美味しい。
「こんなに大げさなのは、はじめてだろ。お前にゃまだ早いよ。本当は隊長と副隊長なんだが、副隊長は上との事務処理をしてもらうから俺なの」
基本、二人で行動するのが原則なんだって。
新人は大抵、先輩と組むことになる。
グレりんはイニアと組で、教育係でもあるんだなー。
イニアはしぶしぶという態度丸出しで、席に戻る。
お母さん、わがままな子に育ってますよ。
続けます。
「イニアは今回、リースんとこと一緒に動け」
誰だよ。
クリスマスには大活躍しそうな名前だ。
「…えー」
イニアはどうやら乗り気じゃない様子。
どうやら降り気なようである。
そんな言葉はない。
どうやらナイキなようである。
俺はプーマのロゴが好き。
なんの話だ。
飽きたのか、俺。
飽きたんだな、俺。
それでも続くんだね。
「えー、言わない。俺からもよろしくって言っといてくれな」
にかっと笑ったグレどん。ごわす。
「任務終わったら、鍋が食べたいです」
「よしよし、頑張ったらな」
イニアの性格の一端はグレっちのせいだなあ。
イニアが転校した先でイジメにあったらどうもしない。
ないから。
手持ち無沙汰な俺は、顔を猫特有のあの動きで洗う。
隣の隊長の興奮した息づかいが毛を逆立てて、エンドレスリピートを生む。
首元のリボンと鈴が、ちりんちりんと愛らしく鳴った。
あ、今日は出かけないので、おリボンなんですよ。
信じられるか、これ、隊長のポケットマネーなんだぜ。
みなみちゃんに伝えたい。
話を続けますね。
「以上です、隊長」
「ああ、ご苦労」
「隊長、この説明、隊長がするはずだったんですけど」
「お前の実力を試させてもらった」
「うざいです」
隊長は先ほどから、俺のリボンの角度とにらめっこ中です。
さらさらの銀の髪の間から、うっすらと光る汗が。
眉間にはシワが寄り、だいぶ色っぽいです。
女の子がいたら、きゃあきゃあと大変なことになると思います。
でも、あほです。
続くんです。
「この後、おとりの件でお話よろしいですか」
「だめだ」
「理由をお聞きしても?」
「リボンの生地を買いに行く」
「墓でも買いなさい」
隊長とグレ男がわきゃわきゃしてる内に、ミーティングは終わった。
明日は多分、きっと、確実に俺はお留守番のはずだ。
脳年齢四十四歳の俺が考えて、そう結論を出したのだから間違いはないだろう。
うん、でも、それって、どうなん?
平和な少年漫画、邪魔の入らない韓国ドラマ、貸さないTSUTAYA、お待たせするらんらるー。
アイデンティティの崩壊。
俺は俺であるために、潜入しなければならない。
悲しいものはなんなのか。
多分、尾にもリボンつけようとしてる隊長は、ジャンル:悲しいもの、となるだろう。
まとめ。
敵の尻尾も掴みましたし、猫の尻尾も掴みました。
お後がよろしいようで。