猫。あやして。
うわーい。
久しぶりの外だぞーい。
素晴らしい青空。
青空。
…青空?
「にうにう!!」
今日は青い!!
さすが異世界、ランダム再生!!
シャッフル機能!!
お前はiPodか。
うむ。
それにしても、やっぱり空は青が一番ですね。
安心する。
思い出す。
隠す。
忘れろ。
この気持ちをホームシックと呼ぶのかもしれないな、頭の隅で。
広がる青空、爽やかな風。
まだ人の少ない城下町。
駆け出そう、どこまでも!!
影に追いつかれる前に!!
半径2メートルを!!
泣いた。
首輪、リード、赤いベストを装備俺は、ただ今イニア少年とお散歩中です。
赤いベストは背中の羽を隠すためです。
隊長が「羽を隠すために着せる、建て前上」と言ってたので、間違いありません。
このベストに、使いどころのわからない小さなポケット、デザイン性重視の大きさボタン、控えめながら確かに主張しているレースなんて付いてません。
スタスタ。
隣を歩調も考えずに歩くイニア少年。
見るからに不機嫌です。
さっきまでいたグレ兄貴がいなくなったせいかと思われます。
グレ兄貴は根っからのグレ兄貴なので、アンパンマンのごとく飛んで行きました。
先に帰ってろ、とのことです。
ここでさらりと説明を入れますと、時間軸的には引き出しから二日後。
交代で駐在さんのようなこともしているそうなうちの隊の、イニア・グレコンビに俺の身柄は一時的に引き渡されてます。
隊長が仕事をしないからです。
「あれ?」
気持ち的には同じことを思いました。
イニア少年、走ります。
俺は引きずられるというより、最早浮きながら後を追います。
この圧迫、癖になりそう。
そう思わないとやってらんねえ。
「おやじさーん、何やってんの?」
いつかの魚屋さん。
もちろん、いわしもいた。
死んだ魚の目で待ってた。
おじさんの前には小さな男の子。
しゃがみこんで泣いてますな。
「幼児虐待現場かー」
「お前は動物虐待現場だな」
俺は今、二足歩行だからな。
「おう、それにしても、ちょうどよいところに来たなあイニア」
「俺はまずいところに来たと思ってるよ」
「昔話をしようか。小さい頃うちの…」
「なんなりとお申し付け下さい」
イニアと同じ金髪、でも、子供特有の柔らかい猫毛。
かぼちゃ型の大きな帽子をかぶり、高そうなコートの前は、涙でだいぶ湿っている。
嗚咽を漏らすその様は、痛々しいの一言。
「どっかのお坊っちゃまが迷子らしくてなあ、困ってたんだよ」
「いつからいたんだ?」
「店開けようとしたら座りこんでたから、ほんのついさっきになるかね」
「なんか聞いた?」
「いいや、泣いてて話にならん」
はあ、と息を吐きつつ、男の子ににじり寄る。
不審者だ。
いや、イニアだ。
「……」
「うっ、えっぐ」
「………」
「うっ、えっぐ、ううう」
拷問か。
おやじがやんわりと助け舟。
「グレはいないのかい?」
「俺じゃ話にならんと言いたいのか」
言いたいんです。
イニアは子供の前で、眼光鋭く、何かを言いかけてはやめ言いかけてはやめ。
子供がガタガタと怯えている。
「にう」
しゃーない、助けたるわ。
マスコットキャラは、子供から支持されてなんぼだからな。
てとてと、近づく俺。
ぐえ。
「…」
鋭い眼光が俺に向いた。
リードが引っ張られてる。
安全面の問題ね。
俺がこの子を襲うと。
信用がなくて泣ける。
「にうにう」
致し方なく、声をかける。
チラリと目が合う。
丸くなった。
「にうにう」
遊ぼー。
右手を差し出す。
猫なのに『おて』
「う、うう?」
「にうにう」
もう一歩やん。
右手を誘うように、おいでおいで。
猫だから『招き猫』
「…にゃんにゃんだぁ」
恐る恐る触れる手を舐める。
くすぐったそうに、笑った。
ちょろい。
振り向いたら、唖然としてるイニア少年と、あ、おやじさんは魚売ってる。
浮遊感。
男の子が俺を抱き上げた。
「にゃんにゃん、どこから来たのぉ?」
遠いところだよ。
俺の声は届かないけど。