猫。なくなく。
ざわざわする声で目が覚めた。
もめているのか、言い争ってる様子。
「私のために争わないで!!」
って、初心者でも使用可能ですか?
エンターテイナーの血が、俺自身を追い詰めてやみません。
ががらり
鍵を開ける音と引き出しを開ける音が、ほぼ同時でした。
マナカナさんのしゃべり出しくらい同時でした。
まぶしいっちゅーねん。
「にうにう?」
なんやねん。
ちょっと喧嘩腰に問いかけましょう。
う。喧嘩腰、喧嘩腰?
喧嘩胸とかあるんかなあ。
それってちょっと、エロスだよなあ。
「隊長、こんなところにしまっちゃだめでしょう」
赤髪の、確かグレ、そう。
確かグレ君だった。
時間がいつの間にか経ってたんだね。
おかえり。
「先輩先輩、俺疲れましたー。帰りましょうよー」
イニア少年、だだっ子である。
「鍵は掛けた」
隊長、だめっ子である。
「鍵じゃない、問題は鍵じゃないんですよ」
「先輩、帰ろー」
「ああ、そうか。なるほど、確かにこの空間は適してない」
「先輩先輩ー、帰ろってばー」
あ、光に誘われたのか、蛾が飛んでる。
蛾がもう夜だよと、教えてくれた。
ありがとう、えい。
仕留めた。
「わかってもらえましたか。小型の獣用の檻を研究所から借りましたから、そちらに」
「先輩先輩先輩先輩先輩」
「まず壁紙は体に害のない物に変えよう」
「この部屋では飼いません」
「……ふんだ」
イニア少年が俺の引き出しを、開けては閉め開けては閉め。
「先輩が構ってくれないのはお前のせいだ。しねしねしねしねしねころす」
呪詛を吐き出している。
殺猫を予告された。
「隊長命令だとしても、か?」
「…!!」
息をのむ、グレ君。
酸っぱい胃液を飲む、俺。
檻に入れる対象が、死の瀬戸際。
「…権力を嫌う隊長がそこまで露骨に立場を利用したのは初めてで部下として叶えてあげたいのは山々ですが、何故でしょう。この胸の痛み」
「それが愛と言うものだ」
「違います」
母さん、違うよ、塩と砂糖を間違えるのはドジっこセオリーだけど、日々の生活でそんなことされたら食べる物がないよ。
食べれる物がないよ。
愛?
母さん、息子の愛を確かめる前に、息子への愛を再確認だよ。
母さん?
「しねしねしねしねしねしねし」
わあ。
母さんがいつの間にか金髪っ子になって、繰り返し過ぎてねしねしになっているのにも関わらず、一心不乱に引き出しの開閉を。
ああ夢だこれ。
「…はあ、わかりました」
「わかって、くれたか」
無表情の瞳が輝いたとか、どうでもいいですよ。
「貴重な獣ですからね。どうせ軍で保護することになるんですから、しばらくはここでもいいでしょう」
「愛している」
「ヘドが出ます」
父さん、父さんが俺をボコボコに殴ったこと、許すよ。
その後も、許すよ。
母さんにだけ、心から謝ってくれたらそれでいいから。
「副隊長が帰ってきたら、必ず許可を取るんですよ」
「わかったママ」
「産む前に殺します」
開閉がやんだ。
不思議そうに二人が振り向く。
不思議でもなんでもないっていうか止めろや。
「……泣いてる」
小さく呟いたイニア少年。
俺ったらそれどころじゃない。
誰のせいだよ、とつっこみたい俺は、脆い俺に道を譲り渡し、枯れるまで泣きじゃくった。
頭を撫でてくれる優しい手。
誰のだろう。