猫。めりくに
「何のご用ですか?」
あれ、もしかして。
グレ君気づかないの?
「あ、すみませぇん。イニア君に取り次いでいただけますかぁ」
しなるマリアル。
わからないと気づいた途端、これだ。
悪魔だ。
「こら」
俺はぐいぐいと奴のミニスカを引っ張る。
光の加減だと思いたい、微妙に赤いグレ君のほっぺが。
俺には最悪の事態への序章にしか思えないんだ。
グレ君の背後の書類棚の隙間。
いる。
ぐいぐい。
「なに?」
小声のマリアル。
耳にかかる息がこそばゆい。ピクピクと震える。ちゃんと猫耳の方に話しかけるんだもん。
グレ君、不思議そうに見てるよ。
「グレ君はだめ」
きょとん。
あら、可愛い。でも、わたしゃだまされないよっ。
「あ。あー、なるほど」
にやり。
あら、可愛くない。ほんとに。
ぐぐい、俺を押し出した。
「私はイニア君に会いに来たんですけどぉ、この子はグレさんに会いに来たんですぅ」
ああ、あれでしょ。
なんだ、はやく言ってよねっ。グレ君が好きなんでしょ。応援しちゃうんだからっ。まかせてっ。的なノリの。
それは、誤解だ。
マリアルはわかってない。
今、この瞬間。
マリアルは俺を生贄に捧げたことを。
人身御供したことを。
「え、あ、お前、ちびじゃないか。この前はありがとな」
俺を見て微笑むグレ君。
この前、というのは、イニアを迎えに行った時のことだろう。
あと、ちびって言うな。
「…うっ」
痛い、なんか心臓が痛い。
あの隙間が怖い。
やめて、殺さないで。
「い、イニアを早くっ」
「? イニアなのか?」
「うん、イニアも交えてね。みんな、そう、み、ん、な、に、あげたい物があるんだ。お前だけが特別だと思うなよっ」
「あらあら、ツンデレで攻めるのね」
「お前はちょっと黙れ」
「…(きゅん)今、呼んでくる」
「お前はなんでときめいた」
俺の心臓が一際、ぎゅっと苦しくなった。
俺のはときめきではないことは、ちらり、確か。
確か!!
「…何しに来たんだ」
心底、嫌そうにイニアが歩いて来た。
疲れてるんだろう、目の下にはうっすらと熊が。がおー。
もちろん、隣にはグレ君。
そういえば、ちゃんと見てなかったけど、グレ君の顔にも熊が。が、ぐうぅ。
俺はグレ君の顔を直視しなかった理由を忘れていた。
今度は頭が割れるように!!
「お前は何してんだ」
溜め息混じりにイニア。
床を転がる俺には聞こえちゃいない。
「喜びを体で表現してるんじゃない?」
「苦しみにしか見えないんだが」
「芸術は高みに登るほど、人には理解されないものだよ」
「俺にはお前も理解出来ないんだが」
「兄に会いにくる可愛い弟。どこが理解できないの兄さん」
「…(可愛い?)青い塊で会いにくるところが」
「今日はクリスマスなんだって」
「…新手の宗教活動か?」
「宗教ねぇ。起源的には関係あるのかもだけど。今日、僕がしたいのはサンタさんだよ」
「教祖か何かか?」
「いいや、よい子に施しをして自己満足に浸る、ただの偽善者」
「お兄ちゃんはお前がわからない」
「えー」
と、名古屋かだか、コーチンだか、わからない会話の最中も。
俺は床の上を転がりまわっているわけなんだ。
グレ君はおたおたと近づいてこようとしてるけど、俺は威嚇で追い払っている。
逆に嬉しそうなのは何故。
「…」
ひょい、持ち上げられた。
襟首だったから、ぐえってなった。
グレ君は近づけてなかったから、誰かと思って首を捻る。
暗殺を連想させるほど気配がなかった。
「……(じー)」
体調だった。
頭と心臓の辺り悪い。
じゃなくて、隊長だった。
「………?」
不思議そう。
俺をじっくり舐めまわすかのように見つめる。
襟を軸に回転、裏表、あますことなく見つめられる。
本能?
まるで、感覚と視覚が合致していないかのような、違和感を感じてる?
「あ、すみません隊長。それ、イニアの知り合いなんです」
それ、はひどいなグレ君。
グレるぞ。グレだけに、はは。グレるだって、ちょーウケる。
グレ君は俺を受け取ろうと、手を伸ばす。隊長は後ろに部下(知らない)もいたし、ほんとに忙しいんだろう。
少なくとも、後ろでキャッキャッしてる兄弟よりは。
「……」
隊長は少しだけ眉間に皺を寄せると、グレ君の腕をかわし、俺を抱き上げる。
隊長の腕に尻が乗る感じ。
安定させるために、俺は隊長の首に軽く抱きついた。
「隊長?」
きょとんと、グレ君。
マリアルと比較。
グレ君は凛々しい感じのイケメンだけど、可愛いって感じはしない。
ショタ属性ではない、俺は頷いた。
「……いい」
隊長はグレ君をスルー。
影の薄い部下に一声かけ、近くの椅子に座った。優雅に。俺をつれて。
「た、隊長?」
震える声。
「好きだ」
「犯罪です!!」
「子供は」
「初耳です!!」
はあぁぁぁあああ。
安堵が空気を伝わってきた。
あの一瞬、グレ君の中では様々な最悪の事態が駆け巡ったことだろう。
俺といえば、久しぶりの腕の中。頭を撫でる暖かい手。胸の鼓動。
なんでか泣きたい気持ちになった。
なってた。
「食べるか?」
すっ。
「…」
差し出されるモンプチ。
「食べるか?」
何かを俺は試されていないか?
「あ、いっけない。兄さん、これ、プレゼントー」
趣旨を彼方に忘れていたマリアルが、差し出したのは、小さな小さな、匂い袋?
「獣がね、嫌がる香りなんだよ」
その声はふざけたようで、ふざけてなかった。
微かに震える手は、失う事を恐れているかのようで。
その匂い袋は、マリアルにしてはとても不格好な出来映えで。
刺繍された花は不揃いだし、ところどころには赤い染み。
まるで、小さな子供が一生懸命作ったと言わんばかり。
うん。きっと、そうなんだ。
意地っ張りなマリアルは、クリスマスを建て前に、それをあげたかっただけなんだろう。
いつから持ってたんだか。
くすりと、自然に笑ってしまった。
隊長は俺の耳をいじらないで下さい。
「…ありがとな」
ゆっくりと、はにかむイニア。
ああ、確かに兄弟なんだと。
俺はその笑顔を見て思ったんだ。
☆☆☆おまけ
「隊長隊長」
「なんだ」
「いつもありがとう」
通じなくてもいいと思った。
ただ、言葉で伝えたかった。
「…こちらこそ」
でも、隊長は応えてくれた。
嬉しかった。
「ね、俺も作ったんだ」
「?」
「じゃじゃじゃじゃーん」
「…布?」
「ハンカチです」
「………感謝する」
数日後、各所で裁断されただけの布を持ち歩く隊長が目撃された。
ごめんね、俺、不器用なんだ。
☆☆☆☆☆
☆☆☆
☆
ツリーのてっぺんの星はサタンの星らしいぞ!!
みんな、騙されるな!!
こんばんは、筆者です。
正月なので、お餅とご飯を食べました。
筆者です。
昨日、猫活(就活みたいで心にくる略し方だろ)に感想をいただきました。
ありがとうございます。
嬉しくてお腹を壊しました。
ナイスデリケート!!
一層、励みたいと思います。
ちなみに、次の更新は未定。
途中までは出来てるんだ。
うまくしまらないだけなんだ。
いつもとか言うな。
言うな!!
今度とも、よろしくお願い致します。
☆
☆☆☆
☆☆☆☆☆