金髪。食事する。
「間違えたことなんかない」
だって、間違いを間違いだと認識しなければ、できなければ。
それは間違いなんかじゃない。
当然の流れ。自然なこと。
誰かがするなら、俺がしたところでなんの問題があるというのか。
非難も罵倒もするのは勝手だが、そういうお前は何をしたんだ。
安全な位置からのそれは、苦いだけで苦言にすらならないというのに。
世界はいつから崩れ始めたんだろう。
研究者の中には、あれは害ではなく、進化の形だという者がいる。
なら、殺されるべきはどちらなのか。
「にうにう」
と、考えてる俺が馬鹿らしく感じる。
目が開いてないところを見るに、寝言だろう。
人間だけの専売特許というわけではないから、寝言もいっても良いじゃないか。
正論だ。ムカつく。
腕を伸ばし、腹を出して寝ていた野生の抜けきった黒の鼻を押さえてみた。
定期的に聞こえていた、空気の通る音、いびきが止み、静寂。
かぷあ。
口が開いた。
呼吸は鼻でするもの、との決まりはないわけだし、手段の一つとしては正しい。
正しい故にムカつく。
お前に許した酸素はない。
手のひらで包むようにあごを支え、それはそれは優しく。
ガチィィン。
やった俺が驚いた。
起きない。
きっちり5秒。
主に尻尾が異変を伝えている。
それ自体に意志があるように、床の上でのた打ちまわる。
銃で撃たれた人間みたいだ。
「何やってんだお前」
見上げると、ちょっとやつれたグレ先輩と目があった。
手の中には終わったばかりの書類の束。
大事に暖めるように抱きかかえている。
卵か。
つっこみは控えた。
グレ先輩の豊かな母性にどうこう言うのは間違っている。
先輩の良さの一つは、面倒見が良くてそれゆえに損するところだ。
俺は間違わない男。
「お疲れ様っす先輩」
結果的に、当たり障りのない無難な返答になってしまった。
「何してんだ」
視線は俺の手元に向いてるから、見てわからないわけはないんだが。
俺とコミュニケーションが取りたいとみた。
可愛い先輩なんですよ。
「先輩先輩、これ見て下さい」
「いや、見てるって。さっきからガン見だって。目が離せないんだって」
「面白くないっすか」
「何が」
「痙攣」
「やめなさい」
引き剥がされた。
グレ先輩の腕の中で目覚める、それ。
悲劇のヒロイン気取りかムカつく。
「に、にう?」
「え、あ、ああ、うん、ご飯。そうだ、ご飯の時間だ!!」
「にう!!」
ご飯、ご飯なの。
犬のように振られる尻尾。
キラキラした目でグレ先輩見つめる。
サンタクロースを信じてたあの頃が、意味もなく思い出された。
反省も後悔もしないが、目はそらす。
「………ごめんな」
「にう?」
グレ先輩も目をそらしてた。
同じ気持ち。
絆を感じる。
「お前な、隊長に殺されたいのか」
「だってだって、こっちは仕事してんのに、横でぐーすかですよ」
「獣に何を求めてんだお前は」
「働かざる者食うべからず、仕事はすべきです」
「お前が言うな。だいたい、あの極小な脳みそに何させるつもりだよ」
「実験台とか」
「………リアルだ」
小声で会話する俺と先輩。
ふと、グレ先輩が何かに気を取られた。
オーラとかの話ではない。
俺から目線がはずれ、足元へと移る。
言わずもがな、猫だ。
飛べない無駄な羽がぱたぱたと小さな風を起こす。
まだ。目が語る。
「はいはい」
グレ先輩が優しく笑う。
しょうがないなあって感じ。
特に猫好きではなかったはずなんだが、世話好きの血が騒ぐのだろうか。
小さい頃、母親を弟に取られた気がして泣いて騒いだことがあった。
今の気持ちはそれに少し似ている。
弟は幼過ぎて、母親の思い出もないというのに。
弟には悪いことをした。
が、猫に遠慮する理由にはならない。
「先輩先輩先輩」
「なんだー」
やばい、いつの間にかちょっと遠い。
腕には猫。
もどきのくせに、収まってんじゃねえ。
「ここの書類なんすけどー」
「お前もご飯まだだろー、先に食っちまえよ」
「本当にいいんですか。俺のやる気は期限付きですよ」
「え、何、俺後輩に脅されている?」
「可愛い、が抜けてますよ」
「可愛い後輩は先輩を脅したりしない」
「それはどうかな」
「よし、ピーマン投入」
「ごめんなさい」
もぐもぐもぐもぐ。
そこいらの食堂より、数倍はうまい。
同じ食材に香辛料だって数がないはずなのに、不思議でならない。
聞いたことはあるが「料理は愛だよ」という薄ら寒い解答をいただいた。
二度と聞かないし、思い出すこともないだろう。
俺の先輩はそんなこと言わないんだ。
「おい、ピーマン」
「へー、そんなヒーローがいるんですか。知らなかったな。頭を分け与えて喜ぶ子供はいるんですかね。いや、いないに違いない」
「食えよ」
「助けられたことも、よもや会ったことすらないですからね。無茶ぶりですか」
「そっちじゃない。お前の目の前のスライスされて熱も通したピーマンの話だ」
「でかいもん」
「もんって言うな」
たす。
内股に違和感。
椅子と机の狭い隙間に、ついでに言うと、俺の股の隙間に黒いもの。
前足がちょっと聞けよ、と言わんばかりに太ももにかけられている。
気づかない俺もどうかと思う。
「にう」
任せろよ。
鼻息荒く、たすたすたす。
前足が俺の太ももをくすぐる。
イラっとした。
股で挟んでやった。
じたばた。
「おい」
先輩が様子のおかしな俺を見て、きょとんとしてる。
先輩の方からは見えないから。
俺がピーマンで悶えてるように見えてたらカッコ悪い。
仕方ない。溜め息。
「なんでもないっす。先輩も俺ばっかり見てないで、食べて下さい」
「見てないと残すだろ」
「昔の俺と同じと思わないで下さいよ」
「昨日のことだろ」
「今日を生きましょう」
あほか、そう言ったグレ先輩は、ともかく自分の食事へと取りかかったようだ。
「ほれ」
不本意だが、ピーマンを股に。
ぱく。股に。ぱく。股に。
事務的に運ぶ箸。
猫も特にリアクションするわけでなく、噛み砕いている。
シャリシャリ、股から聞こえる異音。
そして俺はミスを犯す。
がぶり。
ぽかんとした目と目。
猫と俺。
腕には、この間の獣。
頭が鷲の。
手首までがっつり食されてる。
「え」
檻を開いてたのはグレ先輩。
笑顔。笑顔。満面の笑顔。
食べ物の恨みは恐ろしい。
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金髪視点の食事。
お送りしました、お粗末様です。
はじめましてまた会いましたねストーカーですか。
望むところだ!!
筆者です。
心がすさんだ時、辛く悲しい時、反対にすごく楽しかった時、嬉しかった時。
何か書きたくなります。
拙いしセンスのカケラもないけれど、記したくなるんですね。
何か残したくなる、とでもいうのか。
そんな心の吐露を見ていただけることは、ちょっとした奇跡なのだと思います。
と、いう真面目な話は二分も保ちませんよ筆者は。
来週は神奈川県に遊びに行きます。
いちゃいちゃしてるカップルの愛の巣に、ノー土産で特攻をかける予定。
俺の目が黒い内はいちゃいちゃなんてさせないんだぜ。
居座るんだぜ。
とんだ友達もいたもんだな。
その様子は後日日記にて発表予定。
なんの情報だいらんわ。
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