兄弟。リクエスト。
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はい、リクエストだいにー。
気分はラジオ体操みたいな。
リクエストしてくれた32度さんが、4つほど例をくださったので、半分は叶えるぞの意気込みで取り組みました。
32度さん含め、皆さん、いつもありがとうございます。
ではでは、いってらっしゃい。
早く帰って来てね。新妻風。
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とある猫が押しかける少し前の光景。
「兄さん兄さん、今日の皿洗い僕がするよ」
ベットに横になり本を読んでいたイニアは、起き上がり訝しげに眉根を寄せた。
してね、はありえても、するよ、は。
どこで間違えたのか、弟の善意ははかりごとの一部でしかないのだから。
親代わりなイニアとしては、痛い話だ。
「お前、何したんだ」
マリアルはその天使の相貌をきょとんとさせ、首を傾げる。
イニアは知っている。
弟が表情を意識的に作っていることを。
「にいちゃ、僕のこと疑うの?」
幼い頃の呼び名。
本当に、幼い頃の。
まだそう呼んでいて欲しい年代で、弟は本性を開花させてしまった。
Bボタンのタイミングを逃したイニア。
そう呼ばれると、弱い。
「…いや、そうじゃない」
「なら、けってーい」
「おい」
ご近所から評判の微笑で、部屋を出て行くマリアル。
大きく一度、ため息を吐き出し、イニアは本に目を戻す。
どうせ弟の頼みを断れたことはないのだ、何を言っても同じこと。
兄の威厳を取り戻すため、教育の本を読み返すイニアだった。
夕飯も食べ終わり、問題の皿洗い。
男2人暮らし。
曜日によって当番を決めているが、イニアは仕事で泊まり込む日も多い。
マリアルが代わりにすることもあるが、その度の代償が割に合わない。
イニアがどんなに遅くなっても家に帰ろうとするのは、弟を1人にしないように、の影に悲しいかなそんな理由もあるのだ。
「本当にやるんだな…」
「兄さんたら、どこ向いてんの。もー、皿洗いくらいで疑り深くなっちゃって、職業病だよ?」
それは違うとイニアは言いたかった、言えなかった。
「ほらほら、ソファーでくつろいでて。僕が汗水垂らして皿を洗う傍ら、悠々と足をのばしているといいよ」
いつも通りのマリアルに安心すると同時に、いつも通りがむなしくなった。
父と母に向ける顔がない。
奥から聞こえる水音。
落ち着かない。
そわそわと忙しない心に、イニアは自分の小ささを実感してしまう。
3歳年下のはずの弟。
父と母の葬儀、泣きもせずそわそわとしていたマリアル。
そもそも死体はなく、形だけの葬儀だったのだから、幼い弟に理解しろという方が酷な話だ。
けれど、終わってから2人になった途端、しがみついて震えるその小さな体に、イニアは思い違いをしていたのだと知った。
誰のためかなんて、一目瞭然。
あの場で泣かれていたら、イニアは耐えられなかっただろう。
今思えば、あの頃のマリアルは「にいちゃにいちゃ」と片時もイニアのそばを離れず、兄の周りを確かめているようだった。
もしかしたら、弟のあれは俺のせいか、イニアの気分は落ちる一方。
兄失格だな、天井を仰ぎ見るイニア。
そこに手をエプロンでふきながら、片手に大きな箱を持ったマリアルが歩いてきた。
「兄さん」
笑顔。これだけは変わらない。
「馬鹿の考え休むに似たりってね」
こんなことは言わなかった。
「にいちゃのお嫁さんになったげる」と言った可愛い弟の面影もない。
「…なんだその箱」
怪しい芽は摘んでおくに限る。
マリアルがニヤリ。
天使が黒いという矛盾。
「にいちゃ、お誕生日おめでとー」
だが、続けられた言葉は意外なものだった。
「は?」
「ほら、やっぱり。兄さん自分の誕生日すぐ忘れるんだから」
軽い足取りでソファーの前のテーブルに箱を置き「魔王降臨!!」
謎のかけ声と共にオープン。
銀の容器。
ぷるぷると震える淡い黄色。
庶民の間でもポピュラーなおやつとして人気がある。
ただ一つの違い。
サイズ。
バケツプリン。
「夢だったんだよね」
「お前のな」
まあまあといいながら、細長いスプーンを差し出してくる。
見てるだけで胸焼けが止まらない、イニアの背中からは冷たい汗が。
「おいしー」
主役より先に食べ始めるマリアル。
もてなす心、皆無。
「兄さん何してんの、食べよ?」
スプーンを止めないマリアル。
瞬く間に消えてゆくプリン。
弟は夕食を普通に食べていたはずだ。
「…ああ」
急かされたイニアが一口。
普通に美味しい。甘い。
「ごちそうさまー」
この瞬間に何があったのかはわからないが、結論から言えば、容器だけがそこにあった。
祝ってもらったことこそ嬉しいが、複雑な心境のイニア。
「おいしかったね」
とりあえず頷いておく。
平和に過ぎたなら、それ以上望むものはないだろう。
「ぶは、冗談冗談。これはただ単に僕が食べたかっただけ」
「………」
「睨まない睨まない、どうどう」
はい、紙袋を渡すマリアル。
「いつもありがとう」
小さな声。
あの頃と何一つ変わらない。
少し赤くなってる頬に、イニアは感激を隠せなかった。
黒くないことに。
「着てみて」
はにかみながら、マリアル。
言葉もないイニア。
マリアルの体は何故か小刻みに震えているが、イニアは見てはいなかった。
そして着ちゃった。
「…………………」
「に、に、兄さん。にあ、にゃ、はっははは、あはっあはははははっ」
涙を流して笑い転げる弟を前に、イニアはどうすることも出来ずに佇んでいた。
魂が口から出ているような描写がお似合いだろう。
心ここにあらず。
金色。
ふさふさの尻尾。
垂れた耳。
つぶらな瞳。
犬。の。着ぐるみ。
フードは口になっていて、ちゃんと可愛い犬歯まで付いていた。
そこから見える顔は青白く、死んだ魚類の目をしている。
何してんだろうね。
「…マリアル」
「あは、げほ、なんだい兄さん」
「説明が欲しい」
「新しい寝間着だよ?」
「眠れるか」
新作なんだよ、とご満悦なマリアル。
周りをぐるりと一周して、また笑い転げた。
「に、兄さんに尻尾生えてるう」
「生やしたのはお前だ」
「に、兄さんに垂れ耳が」
「垂らしたのはお前だ」
「貴族の犬め!!」
「名実ともにな」
ひとしきり笑い、ひぃひぃ言いながらマリアルが続けた。
「兄さん、これなら子供に逃げられないよ」
「俺が逃げる」
今日一番のため息。
「誕生日、おめでとう!!」
今日一番の笑顔。
しょうがない、イニアは悟りの心と共に諦める。
処世上手の大切な弟が、楽しそうに笑っていることのなにが悪いんだ。
自分の中の何かが減っていくことくらい、なんてことはない。
なんてことはないんだ。
一筋の光るもの。
いつかは兄の威厳を取り戻そうと、そっと誓う誕生日。
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お帰りなさい。
ご飯にする、お米にする、それとも、は・く・ま・い?
気持ち悪いですねすみません。
全然関係ないんですが、1本の紐を半分に折り、さらに半分、そしてまた半分に折って、真ん中をハサミで切る。
すると9本になるって答えがいまいち納得出来なかったんすけど、やべ、いま解決しちゃった。
忘れて下さい。
ではでは。
皆さん腹を出して寝ませんよう。
また会えることを願って。
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