表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/39

猫。つないで。


イニアがお出かけしてくれたよ。

わーい。



ただ今、市場のど真ん中。

普段のパトロールでもくるとこだけど、いつもスイスイ通り過ぎるだけだから、気になって気になって夜はぐっすりだった。

快眠。


さておき。

甘い臭いやキラキラピカピカの飾りの数々、涎が出そうだね。

じゅるり。


「こら、引っ張るな」


イニアとお手つないで状態なので、走るとイニアも駆け足なのです。

ひょこひょこと生まれたての子馬よりも危なげな足取り、なんてことを言った日にゃ羽をちぎられそうだから言わない。

ただでさえ、俺を見て俺を思い出すみたいでね、はは。

当てつけかって苛立っているんですよ。

当たりが八個な話ですよね。


「イニアイニア、あのドーナツが食べたい」

「ドーナツ? 砂糖菓子のことか?」

「イニアイニア、あのモンブランか食べたい」

「モンブラン? ばか、どれ指してるんだ」

「イニアイニア、あのチョコレート食べたい」

「あれは馬糞だ」


楽しくて仕方ない。

そういえば、こっちに来てから純粋に遊ぶことなんてなかったなあと、思い返す。

猫だから仕事もしてないわけなんだが。

あは。


「子供は元気過ぎてうざい」


ため息を吐きながら、イニア。

反対の手には、俺が押し付けた半分この砂糖菓子。


「イニアだって、小さい頃あったでしょー」


頬を膨らまして反論。

猫になってから、精神まで猫に近づいている気がする。

思ったことを素直に伝えられる。

幸せだ。


「こういうことはなかったな」


少しぼんやりしながら、イニアは呟く。

寂しそうにみえたので、くっつくくらい近くに座る。


「疲れたか?」


優しいイニアは気持ちが悪い。

すまないが、背中にゾクゾクとと悪寒がした。

そうとは知らず、どっかに座るかと歩き出すイニア。

噴水、噴水を囲んでベンチ。

着席。


「じゃあ、イニアは小さい頃に何をしたんだ?」


興味本位だが、なんか今日は優しいので、応えてくれると思う。

明日から働かなきゃいけないから、ナイーブなんだろう。

その気持ち、だいたいの社会人が自分のことのように頷いてくれるはずだ。


「これといって」

「何をしたんだ?」

「大したことはしていない」

「何をしたんだ?」

「…」


薄気味悪そうな視線を頂いたけど、めげることなかれ。

だって、俺とマリアルは家族なんだ。

マリアルがそう言ってくれたから。

なら当然、俺とお前も家族のはずだ。

息子よ。

母さんになんでも話してごらん。

心を開くんだ。

さあ、れっつ観音開き!!


「…孤児院で、ちびどもの服洗ったり、剣術の訓練に通ったり」

「は?」


な、なんだこのシンデレラ!!

俺がお涙ちょうだいに弱いと思うてか。

ばか、いつか王子様が来てくれるよ。

絶対だよ。


「あ、なのに子供の扱い下手くそな?」


ぷぷぷって笑ってやった。


「ああ、マリアル以外は俺を怖がってな、近づいて来なかった」


おい、笑った俺が鬼みたいやないか。

そんな風に飼い主に置いていかれたんです、きゅーんみたいな目をしてもダメだ。

うちでは飼えません。

俺のが居候だけど。


うむ、この外見を生かすか。

こちらの年齢で、10歳くらいなんだって10歳くらいなんだって。

それを聞いた時の俺の衝撃。

そりゃ、もともとの世界でだって小さい方でしたけどね。

確実に俺より下のマリアルが、お兄さんぶるわけですよ。

誤解は解かなかったけどね。

説明出来ないし。


それが今、輝こうとしている。

ああ、神よ。

私がこの容姿だったのは、この時のためだったんですねふぁっく。


「俺は怖くないよ」


多分、俺のが年上だよ。

なでなで。


「お前は少し怖がれ」


ため息。

シンデレラは少し傲慢です。

だからマリアルにいじめられます。

ふん、ざまあ。

いや待て、ここは年上の威厳を見せつけるところ。

気づかれないけどね!!


「じゃあさ、なんかしたいことない?」

「したいこと?」

「そう。幼い頃にしたかったこと」


ふと、空を見上げるイニア。

考えてるんだろう。

これが何も考えてないとしたら、なんて壮大なスルーなんだ。


「ない」

「ほんとに?」

「ない」

「うそだあ」


しつこいぞって叩かれたけど、俺はイニアの目を覗いて聞いてやる。

目は口ほどにものをいう。


「ほんとに?」


揺れた。

ほらね、ちゃんとあったろう?

我慢が上手で困る。

手のかからない、悪い子だ。


「親と手をつないで帰りたかった」


すまんが、二度見した。

少し顔が赤い。

お前、ほんとに仕事行きたくないんだな。

せつねえ。


ふむ。

でも、わからんでもない。

俺もやってもらったことない。

ちゃんと会話したこともないもんなあ。

にっこり笑う。


「今から俺を母さんと呼べ」

「呼ばん」

「否定が音速」


あ、気づいた。


「ママがいいのかい?」

「呼び方の問題じゃない」

「父さんかい?」

「性別の問題じゃない」


お前は馬鹿だ、と断定的な視線。

決めつけってよくないな。

イジメかっこ悪い。


「はい」


さっきと同じく、手を差し出す。

何も変わらない手だけれど、気持ちが違うことを、イニアはわかってくれるかな。

わからなくてもいいけれど。

君が寂しくないといい。


「ああ」


イニアが少しだけ笑った気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ