猫。うさぎと。
目の前に広がる怪獣大決戦。
うわー、うちに帰りてえ。
お布団敷いて寝てえ。
わし君がぶっ飛ばした、おそらくテーブルの破片。
右に避けます。
ばかめ痛い。
そ、そんな最初のはおとり。
てか、なんでわし君が檻から出てるんですか。
あの意志の堅そうな檻が、外出を許可するなんて、よっぽどですよ。
おじいちゃんが危篤ですか。
……。
いや、やっぱいい、言わないで。
「はじめましてー」
さっき会っただろうがよ。
いや、待って、そんなわけないじゃない。
もう一度よく考えて。
アメリカの大統領制と日本の議院内閣制の違いについて、もっとよく考えて。
「仲良くしたい時はまず挨拶からはじめるって、本に書いてあった。常識だよー」
常識の似合わない人に常識を説かれた。
いや、待って、これは現実?
思考を止めちゃだめ。
もう一度、よく考えて。
熱帯モンスーン気候の主な特徴と分布地域を、もっとよく考えて。
「あれー、もしかして話せない?」
猫がしゃべるの前提で話してるんだ。
嘘、俺が常識知らずなの?
やめろ、そんなはずない。
考えるからこそ人間なんだ猫だけど。
もっと、今考えるべき事を考えて。
ここがどこか、考えて。
「にう」
どこ?
騒ぎは聞こえる、下の方で。
今日はまんまる満月、その月がやけに近い。
あれ、月にうさぎがいるよ。
そんなとこは同じなんだ。
唯一の違い。
餅ついてねえ、何もしてねえ。
無職うさぎ。ニート。
「屋根の上だよー」
「にう」
「身軽なのが僕の売りだからねー」
「にう」
「ああ、僕はあの子を起こしてあげただけー。檻を壊したのはあの子自身」
「にう」
「そう。あの子、人間が慣らすにはもう遅い子だったんだよねー。力が使えるようになってからじゃ、人間じゃ面倒見切れないよー」
「にう」
「あはは、そう怒らないでー」
怒りも長くは続かない、続けられない。
仲間が傷ついても、笑う目の前のこいつ。
むしろ、自ら進んで傷つけもする。
仲間ってすら思ってないのかも、最初から。
なあ、お前は一人ぼっちなの?
「にう」
「え、ああ。なんでだろ、興味本位ー?」
「にう」
「人間の傍で間抜け顔の獣を見たから、珍しくなったのかもー、使えそうだったし」
「にう」
「いや、あんなとこから顔出してた君が悪いと思うー」
ローブの奥で、ふふって笑った。
ふんわりと流れる空気。
こっちの方が、断然いいよ。
気づいてる?
「だからさ、あんな人間のとこにいないで、僕と来ない?」
ローブはパサリとフードを取った。
白い髪、赤い目、うさぎさんだ。
そして信じられないことに、長い長い垂れ耳。
本物の、うさぎさん。
白い髪の中、薄い灰色が主張する。
優しい顔つき、行動とは正反対。
悲しいピエロ。
俺はうさぎさんのことを、何も知らないのにね。
「人間といるより、安心出来るよ」
その言葉を吐く体は、今日獣を売りに出したんだぞ。
安心がとても軽い。
安心の軽量化。
たとえ、うさぎさんが優しげで寂しげな顔を、目を、していたとしても。
「にう」
「君は怒ってばかりだなー。人間同士だって争うでしょ。この世界に奴隷身分がどれだけいると思ってるの」
「にう」
「偽善者ー。ぶーぶー」
憎めない暖色の赤。
白い白いうさぎ。
鏡を見ているかのような錯覚。
一人をとても怖がった、俺の半身。
怖がっているのにも気付かないで、一人は楽だと嘘ぶくのだ。
悲しい、寂しい、誰か。
耳が痛いくらいに。
「にう」
「……そう」
でも、今はだめなんだ。
何も返せない俺にくれた気持ちに、応えなきゃいけないから。
止むことなく聞こえる破壊音。
悲鳴に混じる、誰かの声。
正確にはにゃんにゃんを呼ぶ声。
仕事をしろ。
猫缶を開けても出てくるか。
何個開けるんだ。
どこに持ってたんだ。
「にう」
スルスルと(今までの描写に出てこなかったけど)首に巻いてた(ことに筆者が今した)紺に金の刺繍が入ったリボン。
空に浮かぶお月様みたいなリボン。
「何、くれるのー?」
「にう」
うさぎが一匹で寂しくないように。
俺の代わりに守ってあげられるように。
「はは、プレゼントなんてはじめてー」
うさぎが跳ねる。
うさぎは跳ねるものだから納得。
「しょうがないから、今日は帰ってあげる」
「にう」
「それは約束しかねるー」
ぴょんぴょんぴょん。
消えた。
…ああ、帰っちゃった。
あいつが行っちゃったんで、俺を引き止める理由が何もありません。
猫缶はきっと端から順に並んでいることでしょうが、怪獣の鳴き声を聞くとやる気出ません。
後込みします。
日曜日に戻りたい。
でも、明日は火曜市。ない。