猫。むなもと。
うさぎが笑う。
その顔を変えずとも、それがわかる。
客も同じ。
多種多様な毛皮の笑み。
ここは動物園。
これじゃ、どっちが獣かわかったもんじゃないね。
一際高い、ドラムロール。
防音設備はばっちりってか。
ライトがチカチカして、目に染みる。
ご老体を労って下さい。
うさぎ、心持ち距離をとる。
草食の風上にも置けないやつ。
黙って食われろ。
咀嚼(よい子のみんなぁ、俺みちお兄さんだよ。これは『そしゃく』と読みまーす。言われたら、あーってなるけど、読めないし書けないよね。平仮名表記しろふぁっく。ピー。伏せ字が間に合ってないよ)されるがいい。ぐははは。
ローブの亡者が、後ろに布を引く。
冥府へのレッドカーペット。
とりあえずレッドじゃねえ。
現れたのは、堅い冷たい大きな、檻。
あと、鷲。わし。
厳密には鷲じゃないな。
あの性欲は人一倍です。
あの西洋のグリフォン、とかいう四足歩行も出来るんだぜ、な鷲だ。
かの有名な映画、ハリーぽたぽた焼きにも出演されてた。
ちゃんとした名前は出せない立場だから。
ふざけてないよ。
はっ!!
ぽたぽた焼きの方のなんやら権が。
あの香ばしい中にまろやかな甘さ、そして一袋に二枚入りというお得感。
若い世代から、お年寄りまで。
これさえあれば、他に何も要らない。
好きです、ぽたぽた焼き。
CMで許してくれるやろか。
びくびく。
「あれ、本当に子供ですか?」
グレ君だ。
小声で隊長に話しかける。
「ああ。慣れるか慣れないかの瀬戸際だが、大人二人は乗れる大きさになる」
隊長、物知り。
確かに、人が二つ折りケータイみたいな体制をとったサイズなので、けして小さくはない。
間違えても、胸元には入らない。
「気絶してますね」
確かに、鷲君は死んだように動かない。
あれは寝てる、というより、意識がないが正解だろう。
隊長が難しい薬の名前を幾つかだした。
獣に有効とされてる薬の種類だって。
うさぎが説明に入った。
えー、獰猛そうな見た目に反して、性格は温厚だって。
嘘やん。
じゃあなんで、薬使ってまで眠らせとんねん。
他には、雑食性で、頭は悪くない、軍では騎乗用で飼育を始めてる。
あ、だから隊長知ってたのか?
うさぎがスタートをかけた。
跳ね上がる金額。
グレ君の横の見せ金じゃあ、足元にも及ばない。
これは、本当に俺も高いってことだな。
騎乗には向かないし、飛べもしないけれど。
あれ、俺、猫以外のスキルねえ。
「隊長」
「ああ」
ほぼ同時だったと思う。
全方向の扉がけたたましく開いた。
うさぎも客も時が止まったかのよう。
クマさんが脱皮した。
「国の法令に基づき、皆さんの身柄を拘束します。罪状は、…ご存知ですね?」
グレきゅん。
ほんとに胸がきゅんとした。
「やれ」
隊長、俺が胸元にいなければきまってました。
水戸黄門みたいだなあ。
ちょっとズレて、そう思った。
はい、カットー。
いんやあ、皆さんいい演技だったよお。
躍動感あふるるいい映像がとれたあ。
まま、お茶でも飲んで、ひとまずほっこりしてぐださって。
あん?
お前はいいから引っ込ん…
え?
ええ?
目標文字数までいってないの?
まじでまじで?
おま、そういうのは早く言え。
隊長が、存分にムツゴロウしてしまってるだろうが。
すみませんねえ隊長、猫ちゃん舐めないでくださいねえ。
それではもう一度いきまーす。
皆さーん、申し訳ありませーん。
所定の位置に戻って下さいい。
はい、スタート。
「わ、わたくしを誰だとお思いなの!!」
セクシャルおねいさん。
「…はは、終わりだ終わり」
半笑いなのは、虎仮面のおでぶ。
場は騒然とし、貴族は扉からわらわら溢れて来る隊員達に捕まっている。
隊長はてんやわんやの貴族を無視し、ステージへと飛ぶように駆けた。
もちろん、胸の俺も一緒に。
顔がぬめぬめする。
「な、なんとかしろっ」
狼狽した声がする、うさぎの。
ローブのアシスタントにすがっている、うさぎ。
ローブ、うさぎを蹴る。
「契約は破棄されましたー」
躊躇なく、顔も蹴った。
うさぎの仮面がクルクル回りながら、どこかに消えた。
もう、うさぎと呼べない。
哀れにも顔を腫らした、特徴のないおじさんは、うさぎというチャームポイントを亡くしたのだ。
「前金だけなのは痛いけどね、道連れになるなら可愛いおねいさんって、決めてんの」
おじさんが命綱と言わんばかりに掴んでるローブを引き剥がし、ばいばいと手を振る。
「ごめんねー」
隊長、挨拶もせずに切りかかる。
ローブに向かっての流れるような剣筋は、ローブが間一髪避けたことにより、床に倒れてたおじさんを、そのままザシュッと。
おじさん、言葉になってない声をあげて、のたうち回る。
「ふむ」
堂々としてる。
俺が間違えてるのか。
常識っていつの間に改訂されたんだろ。
「あっぶないなー」
ひょっこひょっこ、跳ねながら距離をとる様は、どこか楽しく遊んでいるように。
そう見える。
俺空気。
「避けるな」
暴君だ。
「僕自殺の趣味ないですからー」
ローブはカラカラと笑った。ている。