猫。ぐれたん。
俺が思う、グレ兄ついて。
グレ兄は真面目。
もうちょい肩の力を抜いて生きた方が、楽なんじゃないかと俺は思う。
真面目なのは悪いことじゃない。
言ってることは、とても正しいのかもしれない。
でも、人と人は、正しいだけが全てじゃない。
曖昧なグレー部分で、成り立っていたりする(グレだけに)
真面目は時に、悪口にもなりうる難しい言葉。
俺はグレ兄が、人に黒い方の真面目だと言われたら嫌なんです。
グレ兄が誰よりも頑張り屋さんなのを、俺は知っているから。
グレ兄は面倒見がよい。
イニアはもちろん、あの迷子のエマニエル坊や(仮)もグレ兄には懐いてた。
隊長が溜めた仕事の後始末も、副隊長と一緒に手伝っていたらしい。
その間の俺の世話も、グレ兄がやってくれた。
グレ兄お手製のササミと何か(とても赤い)を炒めたような餌は、隊長がくれる缶詰めより美味しかった。
俺の皿をイニアがガラス戸の戸棚に入れて、目の前にあるのに食えないという拷問に耐えていた時も、助けてくれた。
ありがとう、グレ兄。
グレ兄はよく貧乏くじを引く。
上の二つの理由が大きな要因だと思う。
イニアが俺を窓から放り投げた(翼で飛ぶのか見たかったらしい)時も、隊長に連帯責任でトイレ掃除を命じられていた。
イニアと分かれ、グレ兄は二階トイレを担当し、新品同然に磨き上げた。
女子トイレも。
その後の話は、彼の名誉のために黙っておく。
はたまたこんな話も聞いた。
ペンネーム、恋する乙女さんからの投稿です。
グレ兄は軍学校の頃、成績優秀で、実務訓練も高い評価を得ていたらしい。
無論、男女問わず人気もあった。
そんなグレ兄、ある日いじめられているカメ、じゃなくて、人らしきものを見つけます。
グレ兄はその頃からグレ兄ですから、ばびゅんと助けました。
コンマ一秒を切りました。
助けられた人、らしきものは、一目でグレ兄にふぉーりんらう。う゛。
グレ兄を想うあまり、グレ兄に近寄る女をちぎっては投げちぎっては投げ。
もちろん、影で。
グレ兄の青春時代に、甘酸っぱい思い出は皆無だそうです。
投稿ありがとうございます、恋する乙女さん。
時折、グレ兄の後方に見えるあなたを、私は異物のように見てましたが、そんな切実な想いがあったんですね。
あと性別とかあったんですね。ええ。
そんなわけで、グレ兄の分析と苦労話を長々と語ってきた俺ですが、何が言いたかったかというと、けしてグレ兄に迷惑をかけたかったわけじゃないんだよ。
カバンの口に手をかけ、頭をひょこりとだし、小さく鳴いた。
ごめんよ。
グレ兄ことクマさん、慌てて俺を押し込めます。いて。
「な、なんで。お前なんでそこに」
「にー」
俺の頭がクマさんのおててに潰されているので、変な声です。
手は離すものか。
「どうかしたか」
隊長です。
ちゃんと仕事をしてる隊長はかっこいいです。
「た、隊長」
グレ兄は体が縮みました。
そう俺が錯覚するくらいに、申し訳なさそうに、俺を隊長に見える位置に移動させます。
「申し訳ありません、俺の落ち度です」
「にう」
「…今ここを動くことは出来ない」
「はい」
「そのままの方が安全だにゃん」
「隊長の理性が負けそうです」
カバンからじゃ何も見えない。
なのにこの流れじゃ、俺はカバンの生き餌となってしまう。
「あ、こら」
俺はカバンを抜け出し、丸いテーブルを経由して、隊長の膝へと座る。
ちょこん。
そして悩殺アングルでお願いするのだ。
「にう」
猫、それは人を狂わせる、麻薬。
「島を買う」
「脈絡がないです」
「二人で暮らそう」
「猫は匹で数えて下さい」
隊長はそれはそれは大切そうに俺を持ち上げ、懐へ入れた。
セクシーに開いていた胸元から、俺の顔。
あなたと合体、した。
「隊長、ふざ」
カンカンカンカン
言葉の途中で、鐘の音が鳴り響く。
グレ兄は微妙にタイミングも悪い。
グレ兄ステータスに追加で。
会場は小さなコンサートホールのようになっていて、後ろの席になるほど高い位置から見下ろすようになる。
客同士のテーブルは適度に離れており、俺の耳でも話し声は聞き取れない。
ステージの中央にスポットライトが当たる。
うさぎの仮面の男。
ようこそいらっしゃいました、と前説を話はじめた。
後ろには特技は黒魔術です、と言わんばかりな真っ黒ローブのアシスタントが三名。
フードで顔は見えない。
こうしてやっとこさ、闇オークションは始まったのである。
***オマケ
「だるいなー」
ローブを纏いながら、のたまう。
うさぎがうさぎを呼び出す、なんてお笑い沙汰。
嫌だって、言ったのに。
無理矢理、ぐすん。
僕の純情は汚されてしまったー。
バサッ。
後頭部に衝撃。
振り向くと、見慣れた背表紙。
「…わかってるよー。もー」
ライトと人間の不快な世界。
僕を待ってる。