猫。おんみつ。
暗い。
隙間から指す唯一の光は、揺れのたび姿を変えるため意味をなさない。
とても不安定。
地に足がついてない。
今現在の状況。
俺の心境じゃないぞ。
俺の足元には札束。
誰しもが夢にみる百万円の束、あのテレビでよく見る、紙で巻いてあるやつを思い描いてみてほしい。
あれさ、寿司のたまごに似てねえ?
逆にたまご食べる時に札束思い出さねえ?
なんと俺は、一瞬の考察の末、海苔と紙の縛り方に共通点を見いだしたんだ。
いつか誰かにしたかった話なんだけど、今ここでする必要はないし、文字数の無駄遣いなんだけどね。
誰かに、聞いて欲しかった。
笑わないで、聞いて欲しかった。
ただ「そうだね」って、相づちが欲しかった。
それだけだったはずなのに。
いつの間にか私の中で欲が増え、その解答が100%じゃなくなってしまった。
なんて浅ましい私。
きっと今の私は「そうだね」って言ってくれた優しい人に、こう言ってしまうんだ。
「…からの」
なんて残酷。なんて外道。
私の血は何色赤だ。
ただでさえ、この馬鹿げた話題を聞いてくれた徳高き人に、次を期待してしまうだなんて。
そんな脈絡ない話題を膨らます事は、誰の目から見ても、複雑で困難で。
明らかなる苦行。
最悪、その場を変な空気で満たすことになる。
というのに。
私はきっと、それにも応えてくれた光明をまといし勇者に、こうトドメを刺すんだろう。
「…からの!!」
私は悲しい宿命を背負った、天丼の使い手でもあるから。
許してなんて言えないけど、あなたを愛していたわ。
第一章 完
第二はい、かっとー。
あぶねえ、続けたら多分、オークション会場にはいつまでも着かないし、カバン持ったグレ君は即身仏になるまで歩かされる、そんな未来が待っていたはず。
グレ君。
グレ君が知らなくても、俺は君を影ながら守ったんだよ。ふふ。
俺からだけどね!!
はい、ふりだし。
だいたい状況は掴めただろうけど、そんな感じで今の俺は忍び込んでます。
補足させていただくと、カバンを持ったグレ君は、貴族の正装して男前度が三割増した隊長の付き人として、潜入します。
二人とも顔を動物のお面で隠して、身元がバレないように変装をしています。
うーん、お面って表現は安っちいわな。
仮面とか?
本物の動物の毛を使ってて、それなりなお値段なんだとか。
グレ君はクマっぽくて、隊長は賢そうな鳥だった。
隊長のは特に優美な作りで、飾り羽がふらふらひょこひょこ。
思わず猫本能から凝視してしまった。
じー。
「……そうらそうら」
「にうにう!!」
ひとしきり遊びましたとも。
グレ君に飾り羽へし折られるまで、ひとしきり。
もう隊長の仮面には一本の飾り羽もない。
俺は隊長がなじられてる間に、このカバンに忍び込んだというわけだ。
では何故、こんなに大金が必要なのか。
盗み聞きした話によると、こんな感じ。
今回の闇オークションは、書面を一切通さない、現金直接引き換えになるとのこと。
小切手は使用不可。
その場限りのお付き合い、証拠は一切残しません。
獣?
見つかったらあんたらで責任とってよ。
当たり前でしょ。
俺らはここまで持って来るのが仕事なの。
後は迷惑かけないでよねー。
ってのが、業者側の言い分であり、その場のルールなのである。
小癪な。
お、おう?
揺れに上下運動が加わった。
段差を登ってる気配。
着いたのだろうか。
ノックの音。
う?
何か言われた?
密やかに言い返すグレ君。
ああ、なるほど、山川さんか。
俺は風の谷の暗号だって知ってるんだぜ。
扉が開く、重低音。
さぞや大きい扉に違いない。
隙間がシステマで見えない。
うん、極細ってことね。
案内されてるのかな?
人の気配はするのに、声がない。
衣擦れ。
呼吸。
貴族のくせに、貧乏揺すり。
人の気配は溢れているのに。
不気味で毛が逆立った。
カタン
バックが安定した。
どこかに座ったのかな。
見えないことが不安を膨張させ、閉鎖空間が余裕を削りとる。
出たい出たい出たい。
かぱ
間抜けな音がして開いた。
世界が戻ってきた。
間接照明のような薄暗さでも、闇に慣れた俺の目は、一瞬驚いたように収縮する。
まず見えたのは、クマさんだ。
ある日。
カバンの中。
クマさんに出会った。
開けた状態で固まったクマさん。
日本人特有の愛想笑いふぉーゆー。
相手には、ヒゲが動いた程度しか伝わってないだろうけど。
なるべく可愛く見えるよう、角度を気にした俺だった。
+++おまけ
「隊長、今すべきことは」
「身支度と段取り」
「よろしい。では、実際にしてたことは」
「身支度と段取り」
「違います。隊長は遊んでました」
「そんなことないよ」
「そんなことあるの!!」