表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/39

猫。つかまる。

腹が減る。


これは生きてる上で、どうしても離れられない欲求だ。

しかし、いつでもその欲求が満たされるかといったら、そうではない。

その時の、場所、時間、金銭、気持ち、条件を上げれば切りがなく。

明日の命を繋ぐための僅かな食料も得られない場合だって、ある。

大いに、ある。

そう、珍しいことじゃない。

大丈夫。

負けんな。

生きろ、生きよう。

お前、強い子だろ。

泣くなよ。


そう、ただ今の俺、まさしくそんな状況。

食物のように『奥義、光合成』を使えたら。

そんなくだらないことを、ここまで切実に思ったのは初めてです。


さて、馬鹿なことを言ってる場合じゃねえことは、自分がよくわかってる。

疑問符を地球の人口と同じくらい頭に付けてる俺だけど、やらなきゃいけない時はある。


ってことで、路地裏。

横路にそれる石段の隅で、色とりどりに並ぶ魚を狙う俺。

身一つの俺には、奪うという手段しかないのだ。

神よ、我が罪許したまえ。

そもそもお前のせいなんだから。


いないだろうけど。


店主が店の奥へと移動した。

狙うなら今。

一番手前のいわしのような、小さな魚に狙いを定め、駆け出す。

風と一体になる、ひと昔前のマンガの受け売りを実践。


「にう!!」


気の抜ける声の主は、俺。

へっへーん、げっとげっとー。

なんだ、はじめからこうすればよかったー。


罪悪感?

それじゃ、お腹は膨れないんですよ?


あとは足早に安全なところへ。

ここで捕まるようなアホではないのだ。


ひょい。


だらーん。


「にうにうー」


全力でアホでした。

やっぱり悪いことはできないってことなのか、これは。

離してー、と自慢の爪で暴れるも効果なしです。

お前、その手袋革製?

それともなんちゃって合皮?

ちゃんと素手で勝負しろやあ。


濃い緑の軍服?を着た金髪を見上げる。

モデルにもなれそうな、ナイスガイ。…ガイ?

俺より年下か?


少年は俺に、こら、と怒って店の方に歩きだす。

周りは自然と少年に道をあける。

軍人様はどこの世界でも偉いってか、へっ。

首根っこをぶらぶらされながら、あくだれた。

ストラップのような扱い。屈辱ー。


「おやじさーん、小さな泥棒にやられてんぞー」


ああ、ぶらぶらするな。酔うじゃないか。

店の奥から初老の男。


「ああ、イニアか。ありがとよー、盗られた魚の保証も頼めるかい」

「なんでだよ。あんたのミスだろー」

「お前が小さい頃、うちの…」

「おまかせ下さい」


お友達らしかった。


「ほら、お前も謝れ」


少年が俺を上下に動かした。

「もうしませーん」

アフレコ付きだった。

舐めてんのか。


「あれ、お前…」


やばい。

先ほどとは打って変わって、声が真面目っぽいです、少年。

お仕事モードですかですね。


俺は柔らかい体を生かし、反動をつけて前に回転する。

逆上がりをイメージして下さい。

もとからそんなに強くは掴まれていなかったらしく、スルリと抜けて、少年の手の甲に着地。


「にう!!」


失敗。

落ちた。痛い。捕まった。


「お前、獣か」


少年から不穏な気配。

おやじは目を丸くしてた。

俺は背中が痛い。


「おやじさん、気をつけてね」


おやじが返事する間も与えず、来た道を引き換えす少年。

先ほどよりも強くなった拘束が、俺の口から魚を引き離しました。


ぼたっ。


石で出来た立派な道路の上に落ちた魚は、恨めしそうに俺を見送りました。



+++おまけ


「にう」


俺が何をしたと言うんだ。

贅沢なんて、ホイップクリームを単体で舐めるとか、ハムを切らずにかぶりつくとか、魚肉ソーセージをそのまま食べるとか、慎ましいものだったじゃないですか。

そんなにダメでしたか。

それともあれですか。

仏壇のまんじゅうを食べた俺への、ばあちゃんのイカズチですかこれは。

ばあちゃん、だって賞味期限。

賞味期限がね。


「てってってて、ずんちゃんずんちゃん、てれてれってってててれって、てててて、てててて、てててってーてててー、てれてれ、てってん、たらららんら、ずんちゃんずんちゃん」


俺を捕まえてご機嫌な金髪。

全てのパートを1人でこなす、鼻歌。

ああ、ちっちゃいおっさんが茸を追いかけてる。

ああ、ちっちゃいおっさんがブロックにひたすら頭を打ち付けている。

ああ、ちっちゃいおっさんが土管に吸い込まれた。ボーナスステージの始まりだ。

なんという白昼夢。


ごりごり。


そう、きっとそれは地面との触れあいが見せた幻。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ