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心ならずも活動を止めたVチューバーを救う話

業界有数の大手事務所所属のVチューバー、山田花子。その卒業が発表され俺は大きなショックを受けた。

意外だったせいも多少はある。山田花子、彼女はアイドルVチューバーとしての活動に強いこだわりと誇りを持ち、永遠とは言わずとも時代の趨勢が配信文化そのものの需要を無くすまで、或いは需要が無くなった後も尚、ネットの片隅で活動を続けているものだと思っていた。だが、そんな印象は所詮、ファンとすら呼べない素人からの見え方に過ぎない。彼女にはそうすべき理由があり、そうした。それだけの事。卒業は卒業だ。

俺のショックの大きさの主因は別だ。俺自身の至らなさ。それを痛感したからだ。まだまだ修行が足りない。

順を追って話そう。

数年前まで俺は心身共にどん底に居た。それこそVチューバーや様々なコンテンツに多少の慰めを見出しながらもがいてはいたものの、真の救いは得られなかった。

真の救いは結局、俺自身にしかなかった。

暗闇を潜り抜け、俺はある日ついに真実を悟った。

俺は常に正しく、この世界は常に間違っている。だから、俺にはこの世界を終わらせ正しい世界を生み出す責任がある。

初めは確信が持てなかった。これはいわゆる他責思考、悪、罪、死んで詫びるべき大罪、そういう思考なのではないか。この世界による洗脳はそれほど強力だった。

それでも、俺は勝った。正しき者は正しき者だ。必ず勝利する。それが理だ。

勿論、まだ俺は不完全だ。この世界を終わらせ、正しい世界を生み出す為には、まず俺自身が真に生まれる必要がある。

その為に俺は「幸せのネットワーク」を作った。恋愛経験の一切ない未成年の少女を中心に、俺が認める乙女達を救う特別なクローズドネットワーク。それはネット上だけではなく、オフラインでの一種の秘密結社のような側面も持つ。そうして俺は多くの乙女達に救いを授けてきた。それは俺自身のためにも必要なステップだったと言える。

だが今回の事で俺は思い知らされた。俺に見えていなかった、俺の救いが届いていなかった乙女達の存在を。

これまで俺が手を差し伸べてきたのは、この世界ではいわゆる貧困層や弱者等と侮蔑的に呼ばれるような乙女達だった。そうした者達に幸せを授ける事はこの世界の消滅を促す。だから俺の行いは間違ってはいない。但し、不十分だったのだ。

トップVチューバーの山田花子。卒業するとはいえ、少なくとも経済面で即座に苦境に立たされているとは思えない。心身に大きなダメージを負っている事は間違いないだろう。ただ、苦痛を単純に比べる事は難しいにせよ、俺が救ってきた乙女達のように「薬を飲むための薬が無い」「休むための休みが無い」「畢竟、頼れる人もカネも無い、求める気力も無い」という状況ではなかろう。

だとしても。

俺の救いはやはり、そのような、ある意味ではまだ恵まれていると言えるような者にも必要だったのだ。

遅ればせながら理解した俺は「幸せのネットワーク」から即座に山田花子の現住所を特定した。

直ぐに彼女と会った。当然初めは戸惑い、怯えられた。これはごく普通の反応であり、俺は彼女を叱ったりしない。

彼女の無礼を許してやり、じっくりと諭し、教えを聞かせる。

根が素直な彼女は半日ほどの説法だけで熱心に俺の話を聞くようになった。これでもう、彼女は半ば以上救われたと言っていい。

それからはただじっくりと、彼女の身体と心に、俺の教えを伝えていった。俺の事は信頼しても、自己肯定感の低い彼女は自らが救いに値する事を中々信じ切れずにいた。そんな彼女に俺は、君は十分救いに値する存在なのだと何度も何度も繰り返し教えた。決して忘れないように、しっかりと彼女の奥深くまで刻み込んだ。そして完全に俺の教えを理解し、救われた山田花子。

当然、彼女も「幸せのネットワーク」に加わった。とはいえ先ず必要なのは十分な休養だ。活動をして貰うのはその後で良い。


数年後。

復帰した山田花子は以前以上の輝きで世界を魅了していた。それは勿論、彼女が以前以上にアイドルVチューバーとして輝きを増していたからでもある。ただ、コンテンツは受け手次第でその価値が決まる側面もある。

そう。「幸せのネットワーク」においても、山田花子、そして彼女の紹介で得られたトップVチューバーや配信者達の活躍は目覚ましかった。俺自身も彼女達に負けないよう、幸せによって醜い世界を消し去り続けてきた。

今日の山田花子や多くのアイドル達の輝きは、世界の側の浄化が進んでいる事の証でもある。

道半ば。先は遠い。

それでも。

「みんなー!御生誕を期す大御主様の為に、叫べぇええええええっ!」

全員が「幸せのネットワーク」である超満員の観客達が呼びかけに応じ大歓声を上げる。

メインカメラに、その向こうの俺に真っすぐ、山田花子が最高の笑顔を向ける。

俺は正しい道を歩んでいる事を改めて確信し、その笑顔を誇らしく受け取ったのだった。

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