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【8】
凛が驚いたのは、着いた先が市場だったことだった。
「何で市場なんか…」
「いいから。ー少し待ってください」
馬車の御者に言うと、凛の手を無理矢理取り、引っ張っていく。
「ちょ、ちょっと!! 自分で歩け…!!」
「いいから」
短く言い、雅巳が早足で歩いていく。
たどり着いたのは、何と簪や櫛が並ぶ店だった。
「え? 何でここに…」
「頑張ったご褒美だ。簪を買ってやる」
「へ? 何で…」
凛の顔がみるみると赤くなっていく。まさか凛のためにわざわざ連れてきてくれるとは思わなかった。
ーいいのかしら?
少し恥ずかしそうに襦裙を握りしめる。麗の物よりも劣るが、この方が自分に合っていた。
「…ありがとう」
雅巳の気持ちが嬉しく、小声で礼を言う。雅巳は満足そうにうなずき、
「どれがいい?」
簪を指したので、凛も近づき、一緒に眺めたのだった。