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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第3部・スタテル島編

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第1話 誘拐されました

 創作講座講師の仕事ほど憂鬱なものはないと思う。


「はー」


 私はため息をつきながら、王都の出版社から文化会館まで歩いていた。今日、文化会館でその仕事があるからだ。


 季節はもう春。王都の街路樹の緑も鮮やかだ。花壇の花も美しい。花売りの少女が可愛いチューリップやガーベラも売ってる。風はさわやかで、空の色も綺麗なのに。


 どうも、こんにちは。みなさん、お久しぶりね。私は作家のアンナ・エマール。タラント村やアサリオン村の事件を解決し、ちょっとした有名人。作家令嬢とか探偵とか呼ばれてる。過去に書いた推理小説も重版がかかり、恋愛小説家も作成中だったが、急遽、創作講座の講師の仕事をねじ込まれてしまったわ。


「はあー」


 ため息しか出ない。元々人前に立つのが好きじゃない。そもそも小説も自己流で研究して書いた。特に推理小説は大好きだったからね。毒物や薬草を調べるのはもちろん、動物学や科学や地理や歴史の勉強も大好き。それが自然と小説に生きていただけ。いや、一体創作講座で何を話したら?


 一応、徹夜で資料をまとめプリント類も作ったけれど、自信は全くない。憂鬱だ。


 元々、この創作講座は文壇サロンのおじ様たちの小遣い稼ぎではじめたものだった。会費もべらぼうに高い。ボッタクリみたいな商売だと思うが、文壇サロンのおじ様は色々あって失業中。その役目は新人作家の私に回ってきた。いや、押し付けられたというわけ。特に売り上げや受賞の実績のない新人作家に、「NO」と言える権利はないらしい。


 そんなことを考えているうちに、文化会館の前まで到着した。三階建ての立派な建物だけど、門の近くではデモ活動やっている団体がいた。


「魔法を復権しろー!」

「我が国も魔法を利用し、改革を進めるべきだ!」


 デモの声、うるさい。我が国、魔力は百年前に手放した。魔法のせいで世界大戦が起きた。何万も国民が死に、壊滅状態になった都市も多い。結果、魔力を手放し、武器も捨て、永久平和と中立国を誓ったというわけ。同時に人権意識も高まり、人権宣言の日とも言われていたが、まだまだ根強い男尊女卑国家。相変わらず女の人権は薄い。


「げー、女の講師かよ。しかも探偵の真似事しているアンナ・エマールじゃないか」

「女のくせに創作講座の講師なんてするな!」

「生意気そうな女だ!」


 その証拠に、創作講座の教室に入ると、さっそくブーイングが始まってしまった。


 狭い教室だ。生徒は三十人ぐらいだろうか。ほぼ男性しかいない。身なりは良さそうだ。貴族のおじ様たちが暇を持て余し、こんな講座に出ているのだろう。


「女のくせに!」


 ブーイングはこだまし、耳がキンとしてきたわ。本当に憂鬱。こんな仕事受けるんじゃなかったが、新人作家に拒否権はない。それに、ここのおじ様たち「推理なんてやめろ」とは言ってこない。文壇サロンやアサリオン村の犯罪者たちより、いくらかマシだ。そう思うことにしよう。元気が出てきた。


 私は背筋を伸ばし、まっすぐに前を見ながら、自己紹介した。ブーイングを無視し続けていたら、少しおさまってきた。


「私、実業家のクリス・ドニエと婚約中なんです」


 事実を言ったまでだが、教室はどよめいていた。ブーイングも完全に止まってしまった。なるほど。クリスは極悪経営者として有名だし、あの男を敵に回したくないのだろう。単純な反応すぎて逆に笑えてくるが、婚約者のクリスには感謝だ。


「先生、クリス・ドニエとはいつ結婚予定なのよ?」


 生徒のおばさん、明らかにゴシップ目的で質問してきたが、それはまだ決まっていない。お互い仕事が忙しく、式や日取り、新居など全く決まっていない。まあ、もう婚約指輪は貰い、今も左手の薬指にはめているんだけど。


「いえ、もう私のプライベートは関係ないですから。さっそく授業に入りましょう。今日扱うテキストは、ロルフ・ガイスト先生の『俺の女になれ〜愛と憎しみの果ての誘拐事情〜』を使います」


 さっそくプリントを配り、講義を始めた。このテキスト、文壇サロンのメンバーだった作家の作品だが、構成や文章がしっかりしている。サスペンス風味の恋愛小説だ。ファンタジー要素もあり、魔法の描き方もいい。ただ、実際の我が国の魔法の扱い方は最低。「魔法を復活させろ」とデモ活動している輩には全く共感できないが、小説はフィクションだ。冒頭の文を引用しながら、構成やキャラクター設定などのコツを話していく。


「先生ー。そんなテクニックはどうでもいいからさー。楽して作家になって印税生活する方法教えてくれ」


 一生懸命講義しているのに、生徒のおじ様はまたヤジを入れてきた。


 まともに返答するのも馬鹿馬鹿しいと思いつつ、一応言う。


「そんな楽して稼げる方法はないわよ。やっぱり代償や義務はあるわ」


 そう、文壇サロンのおじ様に「推理なんてやめろ」と言われたりね。それに推理作家としてデビューしたのに、恋愛小説も書いている。売り上げ的に推理だけは厳しいから。それにアンチから手紙が来る。締め切り前は屍化しながらひたすら文字を書く。そして、こんな風に出たくもない創作講座に出ている。そう、どんな好きな事でも代償や義務はある。好きなことだけして生きているわけじゃない。それはクリスや成金の両親も同じ。そんな魔法みたいな現象はない。


「つまんねー女だな。そんな現実的なことじゃなく、楽して小説書いて稼げる方法とかないのかよ」

「ないわ」


 私があまりにも冷たく言ったからだろう。このおじ様、戦意を消失させていた。なるほど、やっぱり文壇サロンのおじ様よりは可愛げはある。


 そうして、ロルフ・ガイスト先生の「俺の女になれ〜愛と憎しみの果ての誘拐事情〜」をテキストにし、なんとか一時間半の創作講座は終了した。鐘の音が鳴った時は心底、ホッとした。


「あー、疲れた!」


 控え室に帰ると、体力や気力も全部絞り取られた感じ。


 相変わらず外ではデモ隊がうるさく耳についたが、疲れてどうでもよくなった。テキストにロルフ先生の小説をペラペラとめくりながら、執事のじいやが迎えに来てくれるのを待ってた。


「へー、ロルフ先生。南の孤島のスタテル島出身なのだ。え、この人、魔王一族の末裔? 本当?」


 小説の作家プロフィール欄を見ながら驚く。一応文壇サロンのメンバーだった作家。とはいえ、ロルフ先生も若手だったし、どちらかといえばおじ様たちに軽く扱われていた。大人しそうな人で、私とあまり面識はなかった。ちなみに文壇サロンのおじ様たちと例の事件の関わりは一切なかった為、今もちゃんと作家活動をしていた。


「まあ、ロルフ先生のことなんてどうでもいいか……」


 向こうはサスペンス風味のファンタジーが得意で、私と作風の共通点もない。面識もほとんどないし、出版社も違う。


 そんなことを考えながら、スタッフが用意したお茶を飲んだ時だった。苦い! むせた。


「ゲホッ、な、何このお茶?」


 しかし、このお茶、毒入り?


 毒物を調べていた時、こんな苦味がある薬品を知っていた。確か少し口に含むだけで意識が十二時間飛び、推理小説でも犯人がよく使っている。見た目や匂いではわからない。吐き出したとしても、皮膚に触れただけでも影響があったはず……?


 本当に意識が遠のいてきた。朦朧としてくる。誰かが控え室に侵入し、私にズタ袋を被せた時までは覚えていたが、それ以降はさっぱりだ。


 誘拐されたかもしれない。意識が切れかけた瞬間に思ったことだが、こんな私を誘拐して何の得がある?


 これはジ・エンド!?

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